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本で死ぬ

基本的には本の話。でもたまに別の話。

「犯人当て」で驚ける不屈の名作!~『Yの悲劇』のレビュー~

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どうしても蒙古タンメン中本のカップラーメン*1が食べたくなって、ちょっと歩くセブンイレブンに暑い中赴いてみたら「店舗改装のため11月まで休業」となっていたのが、ここ最近で一番ショッキングな出来事だった徒花です。この店舗改装のウラになにか思惑を感じるのは私が単にミステリを読みすぎているせいでしょうか*2

もくじ

今回紹介するのはこちら。

Yの悲劇 (角川文庫 ク 19-2)

Yの悲劇 (角川文庫 ク 19-2)

 

ミステリファンならまずタイトルを知らない人はいないだろう、古典ミステリの傑作中の傑作である。たまたま図書館をぶらぶらしていたらふと目につき、読んだら改めてそのおもしろさに感動したので、ぜひ本書を多くの人に伝えたい。

『Xの悲劇』は読まなくてOK

Xの悲劇 (角川文庫)

Xの悲劇 (角川文庫)

 

本作は隠居生活を送る元俳優、ドルリー・レーンを主人公(探偵役)に据えた「ドルリー・レーンの悲劇4部作」の2作目で、ほかに『Xの悲劇』『Yの悲劇』『Zの悲劇』『レーン最後の事件』がある。ただ、やはり個人的にはこの『Yの悲劇』が突出した出来栄えなので、あまり時間がない人はほかの3作品は読まなくてもいいと思う。

とはいえ、一応時系列に沿って話が進むので、『Yの悲劇』のなかでたまーに『Xの悲劇』の話が出てくる。ただ、本筋にはまったく関係ないので、だからといって『Xの悲劇』を読んでおく必要性はないだろう。

あらすじ

ちょっと細かく書いておく。

アメリカ有数の大富豪ながら、一族そろって悪名高いハッター家の当主、ヨーク・ハッターの腐乱死体が海で発見された。毒を飲んで海に身を投げたらしく、遺書も発見されたので、警察は自殺として処理した。

それから数ヵ月後、ハッター家でさらに恐ろしい事件が起こる。ハッター家の聾唖の長女・ルイーザが毎日欠かさず飲んでいるエッグノッグに猛毒のストリキニーネが混入され、彼女は危うく命を落としかけたのである。警察が捜査に乗り出すが、結局犯人はわからなかった。

さらにその後、事件は再び起こる。ある晩、ヨーク・ハッターの妻であり、実質的にハッター家の権力者であったエミリー・ハッター夫人がマンドリンで殴られ、そのショックで心臓麻痺を起こして死んだのだ。エミリー婦人と同じ部屋で寝ていたルイーザは、耳も鼻も不自由なのでそばにいただろう犯人がだれだかわからない。だが、彼女の残された感覚――「触覚」「嗅覚」から犯人の手がかりを得ることができた。彼女は「すべすべしたほほ」と「甘いにおい」を覚えていた。

果たして、誰がルイーザの飲み物に毒物を混入させ、エミリー・ハッター夫人を死に追い込んだのか? 冴え渡る頭脳の持ち主、ドルリー・レーンは見事に犯人を示すが、それは、あまりにも驚くべき人物の名前であった……。

なぜ犯人はマンドリンを凶器に選んだのか?

本作ではいくつかの事件が発生し、複数の謎が提供される。中でも、もっとも一連の事件の核心部分に近く、そして奇怪なのは、「なぜ犯人は凶器にマンドリンを選んだのか?」に尽きる。ドルリー・レーンは以下の不可思議な点を指摘する。

●犯行現場には暖炉の火かき棒や金属製のブックエンドなど、もっと重くて確実にエミリー夫人を殺せそうな凶器がいくつもあった

マンドリンは別の階の部屋に保管されている。持ち主は数ヶ月前に腐乱死体で発見されたヨーク・ハッター氏のもので、わざわざここから持ち出して犯行現場に持っていく理由が見つからない

このように、犯人がマンドリンでエミリー夫人を殺害するのは不可解すぎる。しかも、ドルリー・レーンは次のように断言する。

「犯人の目的は最初からエミリー夫人の殺害であり、その人物は自らマンドリンを持ってきて、最初からそれで婦人を殺害するつもりだった」

この謎が解ければ、必然的に犯人はある人物に絞られる。たとえそれが、到底ありえなさそうな人物であっても。

徒花からのヒント

これから本書を初めて読む人に向けて、私からささやかながらヒントを出しておく。もちろん、これで犯人がわかることはないとは思うが、余計なことにあまり頭を煩わせずに済むだろう。

●犯人は単独で犯行を実行している。共犯者はいない

●犯人はひとりである。つまり、複数の犯人が互いの存在に気づかず、別々に事件を起こしていた……ということはない

●犯人はハッター家の一族のだれかである。物語の序盤のほうから登場している人物であり、後半になっていきなり登場したりはしない

●犯人の一連の行動は、すべて論理的に説明がつけられる。精神に異常があったとか、投げやりになったとか、そういうことはない

●犯人の行動指針は、少なくともエミリー夫人殺害などあるところまで終始一貫している。途中でころころ目的や態度を変えたりしていない

●犯行に特別な技術や知識は必要ない

●偶然によって出来上がったトリックやアリバイなどは存在しない。基本的に、犯人の計画通りに事件は発生する

割とシンプルな物語で読みやすい

ここからはトリック以外の面で、本書の好ましいところをまとめておこうと思う。

たいがい、長編ミステリは読むのが大変だ。それは「登場人物が多すぎる」「人間関係が複雑すぎる」「場所がころころ変わる」などの要素があるからだ。

しかし、本作に限っては、そうしたわずらわしさはあまりなく、長編ながら読みやすい作品ではないかと思う。登場人物は(少ないとはいわないが)決して多くはないし、一族モノとしては血縁関係がシンプルだ。また、場所はずっとハッター家のお屋敷で繰り広げられる。それに、翻訳が読みやすい。文章量はそこそこあるが、そんなに読むのに骨は折らずに済むだろう。

ドルリー・レーンが超いい人

古来、探偵といえば偏屈で酔狂で自意識過剰で我侭で独善的だったりするキャラクターが多く、人によってはそうした部分を毛嫌いすることもあるのだが、本作に登場する名探偵・ドルリー・レーンはそうしたあくの強い探偵たちとは一線を画するほど礼儀正しく、さわやかで、人に優しい。しかももともとは俳優だったので、細身の体に色気のある超絶イケメンである(齢60歳ではあるが、老いを感じさせない)

f:id:Ada_bana:20160817113045j:plain青山剛昌の名探偵図鑑【名探偵コナン】 - NAVER まとめより

彼は慎重に慎重を重ねてうかつに犯人の名前を口にしたりはしないが、まぁ、事件の構造上、その慎重さにも納得できる部分はある。

本作の不満点

とはいえ、手放しで礼賛もできない。この作品で、私はふたつ、苦言を呈したい。

①肝心の謎のトリックが、日本人だと感覚的に理解できない

本作の謎はすばらしいのだが、ひとつ、残念だったのが、その最大のヒントは、日本人が普通に読んでもなかなか納得できない――という点だろう。だが、そもそもアメリカの作家さんが書いた本を翻訳したのだから、仕方ない部分ではある。

②解明されない謎がひとつある

本作は最後、ひとつだけ解明されないまま終わる謎がある。これは物語の性質上「そうしないと決着がつかない」という仕方のない部分であるし、かえってそれに何かしらの理由をつけようとすることは無粋になってしまうのかもしれない。が、もうすこし何かを匂わせるような一言二言があっても良かったのになーとは思う。

おわりに

結局私は諦めきれず、そのまま歩き続けて2駅くらい先にあるセブン-イレブンに行って、無事に目当てのものを購入した。本当はついでにアイスも買いたかったのだが、その場所から帰ると家に着くころにはアイスが溶けてしまいそうだったので断念した。

ともかく『Yの悲劇』。犯人と事件のカラクリが見事なので、未読の方はぜひ一度読んでみていただきたい。

 

今回はこんなところで。

それでは、お粗末さまでした。

*1:個人的には、実際の中本の蒙古タンメンよりもおいしく感じる

*2:私が疑念に感じているのは次の2点。①コンビニが改装のために休業するなんて、これまで聞いたことがない。階上は見たところいつもどおりで、立ち入れないのは1階のコンビにだけであるようだ。つまり、建物全体を立て直すとか、そういう事情ではなさそうである。②休業するにしても11月まで休むとは、ちょっと期日が長すぎではないか? そもそも、駅からも近く、それなりに客足のあるコンビニだったと思う。いったい、どこをどのように改装しようとしたら、それだけの時間がかかるのか。