北欧神話の主要キャラ紹介~『いちばんわかりやすい 北欧神話』のレビュー?~
今回紹介するのはこちら。
聖樹・巨樹研究家で、あり、エッセイストでもある著者がまとめた北欧神話の解説書。不思議な肩書きだが、プロフィールによれば、「世界中の木にまつわる神話、思想を中心に植物と人間の交流を研究」しているらしい。ほんとうに、世の中にはいろいろな人がいるものだ。
kindle版でセールが実施されていて、299円で購入できたので読んでみた。Amazonのレビューを見ると内容の浅さを指摘している人もいるが、まあ初心者向けならこのくらいの内容で悪くない一冊だと思う(ただし、通常価格で買う価値があるかはビミョー)。とくに、本のつくり方として、できるだけ素人でも楽しめるように工夫しようとする意思が読み取れた。
それが、「第3章 神々の事件簿」の部分。この章では、北欧神話の中で神々が起こしたさまざまな事件を紹介するのだが、それがさながらスポーツ新聞の記事のような形になっていて、なかなかおもしろい。
北欧神話最大の特徴・ラグナロク
引用しよう。
北欧神話の最大の特徴は最終戦争ラグナロク(神々の黄昏)、つまり世界の滅亡までが描かれていることだ。個々のエピソードには喜びや悲しみ、ユーモアといったものがあるが、すべての出来事は最終戦争に向かって突き進む伏線にすぎず、悲劇的な空気が漂う。救いは最後に世界が再生し、人間の祖先を思わせる男女が登場することである。
たしかに、神話というのはわりとボヤッと終わるものが多い。ギリシャ神話でも、インド神話でも、日本神話でも、いつのまにか物語の登場人物が神々から人間に変化していって、神様たちはフェードアウトしながら「歴史」につながっていく。
その点、北欧神話は「終わり」が明確だ。ラグナロクによって神々や人間は滅び、新たに人間の世界・人間の歴史が始まるという区切りがある。
神々のトップに立っていたオーディンも、巨大な狼・フェンリルと戦って敗北してしまう。本来なら、人間の歴史で主神として崇拝されるポジションであるはずなのに、敵によってアッサリ敗北してしまうのは珍しい。
世界は巨人の身体から創られた
北欧神話では、「世界は巨人の身体で作られた」という舞台設定になっている。これはギリシャ神話や日本神話とはちょっと違うが、インド神話でも原人プルシャという千本の足を持つような巨人から世界が創られたとされるので、特に北欧神話特有というわけでもない。
北欧神話では、おもに3つの種族が登場する。神(アース神族とヴァン神族に別れる)、巨人族、人間だ。
一番最初に誕生したのはユミルという巨人で、彼の子孫と氷の中から誕生した神ブーリの子孫の間に生まれたのがオーディンである。オーディンは三人兄弟の長男で、彼は弟たちと協力してユミルを打ち殺し、その身体で世界を作り上げたのである。たとえば天空は、ユミルの頭蓋からできている。
なお、神が敵役である巨人から生まれたり、親を殺したりすること自体はそんなに珍しくない。ギリシャ神話の主神・ゼウスも、もともとは生みの親である巨人・クロノス(クロノスは「時間の神」と「大地の神」の2人がいるが、これは後者のほう)をぶち殺したりしている。
登場人物紹介
では以下、メインの登場人物を徒花的に簡単に紹介していこう。
オーディン ひそかな努力家
世界を創ったアース神族の主神。三人兄弟の長男だが、弟たちは特に活躍しない。基本的に自由奔放だが、ルーン文字習得のために9日間ユグドラシルに逆さづりをしたり、知恵の泉の水を飲むために方目を差し出したりと、ひっそり努力したりしている。浮気性だったり、怒りっぽい勝ったりするのはゼウスと同じ。ラグナロクでは巨人族の狼・フェンリルに飲み込まれて死ぬ。
トール 女装もする武神
カミナリの神様で、強い。ミョルニルという、敵に投げても自動的に手元に戻ってくる槌が武器。ミョルニルは結婚のときの儀式でも使ったりする。ミョルニルが巨人に盗まれたときは、女神フレイヤに女装してロキと一緒に取り戻しに行ったりした。ラグナロクでは大蛇ヨルムンガンドと戦って相討ちになる。
テュール フェンリルの飼い主?
勝利の神様で、フェンリルがまだアース神族に飼われていたとき、えさをやって可愛がっていた。その後、大きくなりすぎたフェンリルを神々が捕縛するとき、フェンリルを信用させるために口の中に右腕を入れ、食いちぎられてしまうちょっと可愛そうな人。ラグナロクでは冥界の番犬・ガルムと戦って相討ちになる。
バルドル ラグナロクが起きたのはこいつのせい
オーディンの息子で、光の神。地上のあらゆるものでも傷つかない身体だったが、ロキの悪ふざけによって唯一傷つくヤドリギの若木の矢で命を落とす。神々は冥界に行ってしまったバルドルを、冥界の女王ヘルと交渉して取り戻そうとするが、ここでもロキが邪魔をして交渉失敗。彼がいなくなったことで世界から光が失われていき、ラグナロクが始まる。しかしバルドル自身は、ラグナロク後に世界に復活するので、ある意味で最後まで生き残った人物。
フリッグ オーディンの奥さん
オーディンの正妻で、バルドルの母親。バルドルを守るため、世界中のあらゆるものと「バルドルを傷つけない」という約束を取り付けて息子を守ろうとしたが、ヤドリギの若木だけは若すぎて契約が取れなかった。フレイヤと同一人物ともされている。
ヘイムダル ロキと腐れ縁
神の国と人間の国を結ぶ虹の橋・ビフレストの見張り役。高い視力と聴力があり、睡眠時間が短いショートスリーパー。ラグナロクでは攻め込んで来る巨人族を見つけて、角笛ギャランホルンを吹き鳴らした。ロキと一緒に行動することが多く、腐れ縁かもしれないが、ラグナロクではそのロキと一騎打ちをして相打ちになる。
イズン リンゴのお姉さん
アース神族の不老不死の元「若返りのリンゴ」を管理している女神。ラグナロクでは戦闘に参加しておらず、ユグドラシルの梢から落下して姿を消したとされている。
ノルン ユグドラシルの世話係
「運命」の女神ウルズ、「存在」の女神ヴェルザンディ、「宿命」の女神スクルドの総称。世界樹ユグドラシルに水をやって管理しているのは彼女たち。ちなみに、ギリシャ神話ではモイラという③女神でいて、それぞれクロートー、ラケシス、アトロポスという。
フレイ でかい男根
ヴァン神族のイケメンで、現存するフレイ像は巨大な男根がトレードマーク。さまざまな宝物を持っていて、
・どんな方向の風もつかみ、折りたたんでポケットにしまえる魔法の船「スキーズブラズニル」
・馬より早く走る黄金の猪「グリンブリスティン」
・ひとりでに戦ってくれる宝剣
などがあった。ただし、巨人族の娘・ゲルズと結婚するために宝剣を手放したため、ラグナロクでは鹿の角で炎の巨人・スルトと戦うことになり、敗北してしまう。
フレイヤ エロスの権現
フレイの妹で、豊満な肉体と美しい容姿を持つヤリマン女神。美しい首飾りを手に入れるために4人の小人族とベッドインし、オーディンの愛人で、お気に入りの人間を猪に変えてそばに置いていた。そのうえ、得意な「セイズ呪術」は性的なエクスタシーを伴うという筋金入り。
ロキ 憎めないけど諸悪の根源
もともとは巨人族の両親から生まれたが、オーディンと義兄弟の契りを結んでアース神族に仲間入り。両性具有者で変身が得意。序盤こそトールやヘイムダルとつるんで仲良くやっていた。子どもをたくさん作り、ヨルムンガンドやフェンリル、ヘル、スレイプニルなどはみんなロキの子ども。
バルドル殺しあたりからアース神族の信頼を失い、捕えられて洞窟に幽閉される。ラグナロクで開放され、子どもたちやほかの巨人族と共に神々に戦いを挑み、ヘイムダルと相討ちになる。
フェンリル いろいろ不憫な子
ロキの子どもで、ヨルムンガンド、ヘルのお兄さん。しかし、「アース神族を滅ぼす」という予言で弟や妹は追放され、自身も魔法の紐グレイブニルで捕縛される。ラグナロクで開放され、オーディンを丸呑みにして復讐を果たすも、オーディンの息子・ヴィーザルに殺される。
ヨルムンガンド 成長しすぎた蛇
フェンリルの弟で、巨大な蛇。小さいときに捨てられるが、海の中ですくすく成長し、世界を取り囲めるほどの巨体になる。動くだけで大津波がおき、口からは毒を吐く。ラグナロクではトールと戦い、ミョルニルで頭を勝ち割られて死ぬが、毒の息でトールも殺す。
ヘル 冥界の女王
フェンリルとヨルムンガンドの妹。幼いときに神々の国から追放されたが、オーディンから9つの世界を支配する力を与えられ、死の国ニブルヘルを治めて冥界の女王となった(オーディンは女に甘い)。ラグナロクでは自ら戦場に出ることはなかったが、父であるロキに死者の軍隊を貸している。
ゲルズ なんだかんだでフレイに惚れる
巨人族だが、フレイの奥さん。超絶美人で、フレイからの猛アタックを突っぱね続けたが、最終的には脅されて結婚。しかし、結婚後はなんだかんだフレイと仲むつまじい夫婦になった。
スルト 世界を滅ぼした張本人
火花が飛び散る大地ムスペルスヘイムを支配する炎の巨人。いつ生まれたかはわからないが、かなり古くからいて、ムスッペルという一族と一緒にいる。ラグナロクではムスッペルたちと一緒に神々の国に攻め込み、フレイと戦って彼を殺害、さらに炎の剣によって世界を燃やしつくし、大地を海に沈めた。
シグムンド オーディンに翻弄された王様
オーディンに選ばれた人間族の勇士。しかし、オーディンに選ばれたことで妹の夫に逆恨みされ、一族を殺害される。彼は復讐をして国王となるも、女性関係でゴタゴタした挙句、再び現われたオーディンに剣を折られて戦争で敗れ、死後、ヴァルキューレに連れられてヴァルハラにいく。
シグルズ 竜殺しの英雄
シグムントの子どもで、戦士の王。幼いときは鍛冶屋のレギンに育てられ、成長したあと父シグムントのかたき一族を滅ぼす。その後、レギンにそそのかされて黄金を守る竜ファヴニールを討伐。その心臓から流れた血をなめたところ、小鳥の声が聞こえてレギンの裏切りを知り、彼を殺害する。
その後、小鳥の声に導かれてヒンダルフィアルの山頂で、オーディンに逆らったがために眠りの呪いをかけられていたヴァルキューレ・ブリュンヒルドに出会い、結婚を約束。しかし、そのことを忘れた彼は別の女性と結婚し、嫉妬に狂ったブリュンヒルドの策略で命を落とすのだった。ちなみに、ドイツ語でジークフリート。
ファヴニール 黄金を守る強欲な竜
黄金を守る竜。じつはもともと人間で、黄金への執着による呪いで竜に変身してしまった。しかも、じつはシグルズの養父レギンの実の兄でもある。
そもそもの発端は、ファヴニールの兄をロキがうっかり殺してしまったため。ファヴニールとレギン、そして彼らの父親は賠償金を請求したが、ロキは小人族から奪った呪いのかかった黄金で支払ったのである。黄金に取り付かれたファヴニールは父を殺し、黄金を守る竜に姿を変えてしまったのだった。
この本を読んでいて思ったのが、想像以上にゲームの「オーディンスフィア」って北欧神話に忠実なつくりだったんだなぁ、ということ。知っているといろいろおもしろい。
後記
Amazonビデオで久しぶりに『サムライチャンプルー』を見ていたら、おススメで『ウィッチハンターロビン』という作品が出てきたので見てみた。
嫌いじゃない。設定やシナリオは平凡だが、媚びないキャラクターデザインと暗くてどこかバロックを思わせる作品全体の雰囲気が好み。しかし、主人公のロビンはこの貫録で15歳らしい。。プライムは無料なので、ちょいちょい見ていきたい。
今回はこんなところで。お粗末さまでした。