ウンコのにおいがする~『「香り」の科学』のレビュー~
今回紹介する本はこちら。
東海大学の教授が書いた、香りを科学した本。本エントリーではすべてスルーしているが、実際には化学式をふんだんに用いた、純粋文系が軽い気持ちで手に取ると結構しんどい一冊であることは申し伝えておく。
ちなみに、ブクログのプレゼントで当たった一冊。うれしい。ブクログでも読書メーターでも、けっこう献本プレゼントをやっているので、コツコツやっているとけっこう当たったりする。
ウンコの香りを感じるメカニズム
香りは多くの人が日常生活で気にしているものだと思うが、そもそも「香るとはどういうことか」については知らない人も多いと思う。
すごく簡単に説明すると、香りというのは分子(粒子)であり、その分子が鼻の粘膜にくっつくことで香りを感じる。つまり、ウンコの香りがしている場合、ウンコの香りの粒子があなたの鼻の粘膜にくっついている。
もう少し正確に言うと、ウンコの分子はGタンパク質共役型受容体(GPCR)の外側に接触する。するとGPCRのαサブユニットであるグアノシン二リン酸(GDP)が外れ、代わりにグアノシン三リン酸(GTP)が結合する。αサブユニットは細胞内を動いてアデニル酸シクラーゼと結合し、Gタンパク質のαサブユニット+GTPが結合することで酵素として働くようになり、アデノシン三リン酸(ATP)を環状アデノシン一リン酸(cAMP)に変換。このcAMPがウンコの分子がGPCRと結合したことを伝える役割を持っていて、ウンコの香りの情報を細胞内に伝えるわけだ。別の言い方をすれば、鼻の中に吸引されたウンコの香りは嗅上皮に到達した後、嗅覚細胞のボーマン腺から分泌される粘膜に溶け出すのである。
ちなみに、人間は821個の嗅覚受容体遺伝子を持っていて、そのうち実際に396個が機能していると考えられている。そしてひとつの嗅覚細胞は1種類の嗅覚受容体しかないので、ウンコの香りがしたということを伝える信号は特定の糸球体だけが担っている。なお、嗅覚は視覚や聴覚とは異なり、視床で中継される意外に、嗅覚神経から大脳辺力系にダイレクトに情報を伝えるルートもあるため、ウンコの香りの一部も直接脳に伝えられる。ここの領域は記憶や学習、さらにその付近に位置する視床下部や下垂体にも伝達されるので、ウンコの香りをかぐと、実神経や免疫系、ホルモン系にも影響を与えると考えられる。
ウンコの香りの表現方法
香りを表現する場合、いろいろと独特な表現方法がある。紹介しよう。
フローラル
薔薇やジャスミンを含んだウンコの香りを表現するときに使える
フルーティ
リンゴやバナナ、メロン、パイナップルなど、果物をふんだんに含んだウンコの香りを表現するときに使える
スイート
バニラやカラメルなど、砂糖を熱した甘ったるいウンコの香りを表現するときに使える
ハニー
はちみつをふんだんに含んだウンコの香りを表現するときに使える
アニス
漢方薬を含んだウンコの香りを表現するときに使える
シトラス
レモンやオレンジなど柑橘系をふんだんに含んだウンコの香りを表現するときに使える
アロマティック
甘い香りのハーブをふんだんに含んだウンコの香りを表現するときに使える
バルサミック
乳香(フランキンセンス)をふんだんに含んだバニラのような香りのウンコを表現するときに使える
グリーン
葉っぱをたくさん含んだフレッシュなウンコの香りを表現するときに使える
ウッディ
ヒノキやスギなど木材をふんだんに含んだウンコの香りを表現するときに使える
アーシー
土臭さもまじったウンコの香りを表現するときに使える
ミンティ
ミントのふんだんに含まれたウンコの香りを表現するときに使える
ハーバル
ラベンダーやローズマリーをふんだんに含んだウンコの香りを表現するときに使える
スパイシー
ショウガや赤唐辛子などをふんだんに含んだウンコの香りを表現するときに使える
マリン
海藻をふんだんに含んだ少し生臭いウンコの香りを表現するときに使える
レザー
タバコの煙を感じさせる動物的なウンコの香りを表現するときに使える
アンバー
甘みのある琥珀を砕いたものがふんだんに含まれたウンコの香りを表現するときに使える
ムスキー
ジャコウジカの腹にある分泌物が混じったウンコの香りを表現するときに使える
アニマリック
獣臭やウンコのようなにおいのするウンコの香りを表現するときに使える
パウダリー
おしろいが混じった軽く甘い香りの混じったウンコの香りを表現するときに使える
アルデヒド
アルデヒド基を持ったウンコの香りを表現するときに使える
ウンコの香りとは関係ない香り分子3つ
インドール
窒素原子をふくみ、濃度が濃いと獣のような香り。しかし、薄めるとジャスミンのような香りになる。
スカトール
名前の由来はギリシャ語で「糞」を意味する「skat」。哺乳類のクソのような香りがするが、やはり薄めるとジャスミンのような香りがして、お茶にも微量に含まれていたりする。逆説的に考えると、ジャスミンの香りを濃くすると、哺乳類のクソのような香りがするということなのだろう。
ムスコン
0.1%以下の溶液にするとムスクの香りだが、それ以上の濃さだとひどいアック週に代わる。
余談だが、本書では非常に上品かつ高尚で教養あふれる本なので、「ウンコ」などという人間の腐ったやつが使う言葉は一度も出てこないことは明言しておく。
今日の一首
97
来ぬ人を まつほの浦の 夕なぎに
やくや藻塩の 身もこがれつつ
権中納言定家
現代語訳:
いくら待っても来ない人を待ちながら、松帆の裏で夕方に焼かれる藻塩のように、私はあなたに恋焦がれています。
解説:
百人一首の選者である藤原定家が、万葉集の長歌を本歌として、女性の目線に立って読んだ歌。「松帆の浦」というのは淡路島にある海岸だが、もちろん「待つ」にかけている。「こがれつつ」は、塩を作るために火にかけられている海藻と、恋に身を焦がす女性の表している。女性と藻塩を重ねるのが風流なのかは微妙なところではある。
後記
先日自宅でシャワーを浴びていたら別にエロいことを考えていたわけでもないのに唐突に鼻血が出てきて困った。ヘタに浴室の外に出て部屋を汚すと奥さんに叱られる(しかもうちのバスマットは珪藻土のやつなので、たぶん血が染みこんだら削るしかない)ので、しばらくすれば血は止まるだろうと待っていたのだが、一向に止まる気配がなく、もしかしたらこのまま失血死して死ぬのだろうかと思いながらダラダラと裸で鼻血を流しながら途方に暮れていたのだが、その刹那、私の脳裏にはある歴史上の人物の名前があるとんでもない明暗とともに浮かび上がったのである。
それは誰か。シャワーと血といったあの人しかいない。そう、エリザベート・バートリである。一応知らない人のために説明しておくと、バートリ夫人はハンガリーの貴族で、村娘を融解しては惨殺してその生き血を全身に浴び、それによりツヤツヤの肌と髪の毛を手にしていたとされる鬼女である。一説によれば、吸血鬼のモデルともされている。
要するに、このことを思い出した私はただ鼻の穴から排水溝に流れていくだけの血を見ているうち、これを自分の肌や髪の気に塗り込んでみたら本当にツヤツヤになったりするのかしらん、という素朴な疑問を抱いたため、それを実行に移さざるを得なかったのである。私はせっせと自分の鼻血を髪の毛や肌に塗りたくってみたのだが、もしこの時に奥さんが何かの用事で風呂場をのぞきこんだら、私は精神病棟に入れられてしまっていたかもしれないとゾッとしない。
しかして、シャワーで血を流した後、私の髪の毛や肌がツヤツヤになったのかというと、そこはよくわからない。やはり乙女の地でなければ効果がないのかもしれないが、幸いにして私にはそんな度胸もないのは幸運であるといえるかもしれない。
あなたももし、シャワーを浴びているときに鼻血に見舞われたら、エリザベート・バートリを思い出そう。もしあなたが乙女で、この方法を実践してみたのなら、自分の血が効果があったのか、こっそり教えてくれれば幸いである。
今回はこんなところで。
それでは、お粗末さまでした。