本で死ぬ

基本的には本の話。でもたまに別の話。

どんでん返しの宝石箱や!~『この闇と光』のレビュー~

今回紹介する本はこちら。

 

この闇と光 (角川文庫)

この闇と光 (角川文庫)

 

 

盲目の王女レイアと父王を巡るゴシックミステリー。

 

ゴシックミステリーとは?

 

読んだ人は「ゴシックミステリーとはなんぞや?」という疑問が浮かぶかもしれない。安心してほしい。私もそう思った。

 

調べてみると、ミステリー的に「ゴシックミステリー」というジャンルは確立されているわけではない。これは単に、本作のための造語だと考えたほうがいいかもしれない。

 

ただし、ゴシック小説というのはWikipediaにも記事がある。それによると、「18世紀末から19世紀初頭にかけて流行した神秘的、幻想的な小説」のことを指すようだ。察するにゴシック・ミステリーというのは、「神秘的・幻想的な雰囲気のミステリー」だと考えればよさそうである。

 

カテゴリすら罠

 

ただし、注意してほしい。

じつはこの「ゴシック・ミステリー」という聞きなれないカテゴリこそ、まず最初に仕掛けられた罠なのだ。読者は本を読む前から、この言葉によって一つの魔法にかけられてしまうのである。

 

というのも、本作は「どんでん返しに次ぐどんでん返し」が最大のウリなのだ。もっと端的に言ってしまうと、一首の叙述トリックである。つまり、読者だけがいろいろと騙されてしまうパターンだ。

あらすじを紹介しよう。

 

森の奥の家に幽閉されている盲目の王女・レイアは、優しい父王と、いじわるな小間使いのダフネによって、目が見えないながらも、何不自由しない生活を送っていた。父王によれば、彼の国は敵に占領され、彼もまた娘とともに幽閉されているのだという。母親は、レイアが幼い時に死んでいた。

しかし、年頃になったレイアに“生理”がやってきた日、ある騒動がきっかけで、レイアはダフネの手によって家の外に放り出されてしまう。やがて、見知らぬ人々に保護された彼女は、驚愕の事実を知ることになる……。

 

出版年は、じつは1998年

 

叙述トリックが施されたミステリーにレビューを書く場合、難しいのは、いろいろと書きすぎるとすぐにネタバレになってしまう点である。だから、あまり何も書けない。

 

とはいえ、本書はただ最後の最後に一発のどんでん返しが用意されている単純な構造ではない。いくつものどんでん返しが用意され、章を越えるごとに読者は思ってもみなかった事実に驚かされることになる。

そのため、最後前読み終えてからもう一度読み直すと、すべての出来事が違う意味を持って描かれていることに気づくだろう。叙述トリックは書くのがいろいろと難しいと思うが、本書の場合、それらがごくごく自然に書かれていて、うまい。とりあえず読んでみて欲しい。

 

ちなみに、本書が上梓されたのは1998年とかなり昔だ。しかも、著者の服部まゆみ氏は2007年に肺がんのため、58歳という若さで死去している。ただし、本書は2014年に改めて出版された改訂版の文庫本だ。

装丁イラストを手掛けているのは佳嶋さんというイラストレーター。この人と言ったら、皆川博子氏の小説が思い浮かぶ人が多いと思う。幻想的で、グロテスクなタッチが特徴的だ。

 

倒立する塔の殺人 (PHP文芸文庫)

倒立する塔の殺人 (PHP文芸文庫)

 
開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU―

開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU―

 
アルモニカ・ディアボリカ

アルモニカ・ディアボリカ

 

 

全体的におもしろい作品で、読み始めると止まらなくなってしまう「かっぱえびせん本」なのだが、個人的に好ましくない点もある。それはラストだ。

私はやっぱり、最後はきっちり白黒つけて欲しい派。「99%はこういうことだろう」と思われるような結末であっても、そこはやっぱり作者の口からハッキリとした結末を聞きたいと思ってしまうのだ。

本作の場合、最後の最後の真相が読者の解釈に行だれられてしまう部分があるので、徒花としては底がちょっと不満だった。とはいえ、楽しめる作品ではある。

 

あと、ケチをつけるとしたらタイトル。別に悪くはないのだが、もうちょっとひねりがあるタイトルでもよかったのではないかと思わなくもない。

 

この闇と光 (角川文庫)

この闇と光 (角川文庫)

 

 

今日の一首

 

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51.

かくとだに えやはいぶきの さしも草

さしも知らじな もゆるおもひを

藤原実方朝臣

 

現代語訳:

せめて、これだけは言いたいんだけど、やっぱとても言えないなぁ。

あなたは知る由もないでしょうね。伊吹山のもぐさのように燃える私の想いを。

 

解説:

かなり複雑。

まず、「えやはいふ」というのが「言うことができない」という意味なのだが、最後の「いふ」が「伊吹山」にかかって両方の意味になっている。

さらに、伊吹山と言ったらもぐさの原料になる「さしも草」が有名で、もぐさはお灸の原料なのでよく燃える。これが、「もゆるおもひ」とつながっている。さらに、「おもひ」の「ひ」は「火」の意味も持っている。しかもしかも、「さしも草」が次の「さしも(こんなにも)」にかかって、これで同音反復になっている。

ただ、技量はかなりこらされているのだが、その反面、歌としての純粋な美しさは損なわれている感じ。

 

後記

 

U-NEXTで『マダガスカル』と『珍遊記』と『ミス・ぺレグリンと奇妙な子どもたち』を見た。

 

珍遊記

珍遊記

 

 

『マダガスカル』はまあ、予想通り。

 

『珍遊記』は期待以上のおもしろさだった。というよりも、思っていた以上にしっかり原作に沿った映画だった。冒頭から倉科カナが真顔で「ちんちん?」と連呼するお下劣さが印象的。あと、山田太郎が特に大した意味もない周りの町民に振るう理不尽な暴力もウケた。

ただ、後半になると全体的な雰囲気に慣れてきてしまうのか、物語の単調さにちょっと飽きてくる。後半はもうちょっと頑張ってほしかった。しかしそれにしても、全般にわたって倉科カナがいい仕事してた。

 

『ミス・ペレグリン~』もまあ、だいたい思っていた通り。近年のティム・バートン作品にしてはしっかりとしたグロテスクさがあって、個人的には割と好み。ただ、ヒロインがもうちょっと可愛かったらよかった。あと、ちょっと説明不足なところもあるので、映画だけを見ていてもよくわからない部分があるのも不親切。

ちなみに、この作品は小説が『ハヤブサが守る家』というのが原作になっている。そのうち、時間ができたら読んでみたい。

 

ハヤブサが守る家 (海外文学セレクション)

ハヤブサが守る家 (海外文学セレクション)

 

 

今回はこんなところで。

それでは、お粗末さまでした。