売れるコンテンツを作るもっともシンプルな考え方~『どうすれば、売れるのか?』のレビュー~
今回紹介する本はこちら。
どうすれば、売れるのか?―――世界一かんたんな「売れるコンセプト」の見つけ方
- 作者: 木暮太一
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2017/04/13
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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サイバーエージェントやリクルートで働き、ビジネス書作家として多数の著作を持つ著者の「売れる商品のコンセプトの考え方」をまとめた一冊。
まず、本書のターゲットは「自分でコンテンツ(中身)を作っている人」である。そのため、私のような個人レベルで企画を立案する人間には役立つ。
また、個人でブログやオウンドメディアを運営している人にも、「どうすれば人が集まるコンテンツを作れるのか?」という面で、有益な一冊になるだろう。
ドリルではなく穴が必要なんだけど……
商品開発やマーケティングの本でよく言われるのが、「顧客が欲しがっているのはドリルではなく、穴である」。
本も同じだ。読者は本を買うとき、本そのものを欲しているわけではない。ビジネス書のなかに書かれている情報や、その情報を応用することによるビジネスの成功を求めている。小説なら、その物語を読むことによって経験できる楽しさ(ワクワク、ドキドキ、共感、感動)を欲しているのである。
ただし、本書の著者、小暮太一氏はこの考え方では不十分だという。もう一歩、踏み込まなければならない。
つまり
「いや、そもそも、みんな穴をほしがってるの?」
というところまで突き詰めるべきだというのだ。
ここを間違っていると、「こんなに高性能なのに売れない」「こんなにくわしく丁寧に書いてあるのに読まれない」ということがでてくる。必要ないものは買わない。当たり前である。
人々は「ベネフィット」の意味を分かっていない
よい商品は購入者にベネフィットをもたらす。では、ベネフィット(便益)とは、つまりなんなのか?
本書ではベネフィットを次のように定義している。引用しよう。
このベネフィットという言葉は、日本語で「便益」とか「利便性」と訳されることが多いです。ただ、これでは結局どういうことなのかわかりません。なので、ぼくは別の定義をしています。
ぼくのベネフィットの定義は、
「Aだった人を、本人が望んでいるBにさせること」です。
Aの状態だった人を、望んでいるBの状態にすることが「ベネフィット」です。つまり、「ベネフィット」とは、変化(A→Bの変化)のことなのです。
そのため、どんなに便利に使えても、いくらデザインが良くても、いくら性能が良くても、その人が望んでいる「B」の状態に連れて行けないのであれば、それはベネフィットを持ちません。
これは本で考えると分かりやすい。
たとえば、この小暮氏の本のタイトルは『どうすれば、売れるのか?』だ。つまり、ここからどういう人がどういう変化をすると考えれるかというと
「売れる商品を作れなかった → 売れる商品を作れるようになる!」
という変化をもたらすと考えられるのだ。
なお、これは小説をはじめとするエンターテイメントでも同じである。小説の帯などで、「感動超大作」「手に汗握る冒険譚」といった説明をしているのは、その作品がどういう心理的変化を読者にもたらすかをアピールしているのだ。
「なんかつまらないなあ → ワクワクドキドキできる!」
読む前と読んだ後で、読者にまったくなんの変化も起こせない本は、少なくとも世間的には存在価値がない。
ライザップのCMのすごさ
極端に言ってしまえば、作る側がこのベネフィットをしっかり理解していれば、それだけで売れるコンテンツ(中身)が作れる。
本書ではライザップの例がたびたび出てくるが、それは、著者がそのPR戦略を非常に評価しているからだ。
ライザップのCMを見ればわかるが、あれが伝えているのは
「ぽっちゃりした人がマッチョになれます」
「太ってる人が痩せられます」
ということだけである。それ以外のことは、何も伝えていない。
・具体的にどうやって痩せさせるのか?
・どのくらいの期間で痩せられるのか?
・どのくらいのお金がかかるのか?
・そもそもライザップってどういう会社なのか?
消費者が気になりそうなこういう情報を一切排除している。
また、レッドブルもそうだ。
ほかの栄養ドリンクは「タウリン1000㎎配合」「ウコンエキス配合」とか、どういう成分が入っているのかをアピールしている。が、ぶっちゃけ、消費者にとってどんな成分が入っているのかなんてどうでもいい。
しかし、レッドブルはそんなことは云わない。CMで伝えているのはただ一つである。
「翼を授ける」
これしか言ってない。のに、すごく売れている。これは、
「体が重い → 翼が生えたように体が軽やかになる!」
というベネフィットを端的に、ちょっとかっこよくアピールしているわけだ。
売れるためのほかの3要素
売れるための要素として、小暮氏は次のものも紹介しているが、重要性は圧倒的にベネフィットが高い。これを忘れてはいけない。
・資格
「誰が言っているの?」ということ。
本の場合、たとえばプログラマーが書いた「不動産投資で儲ける方法」という本をだれも読もうとは思わない。それは、資格がないと多くの人が考えるからだ。
・目新しさ
ベネフィットを提供するのが大事だが、すでにほかの人がそのベネフィットを解消するような商品を作っていたら、当然ながらそれとの差別化が必要になる。しかも、既存のものより「ラク、安い、もっと効果がある」など、すごい点がなければならなくなるわけだ。
・納得感
「あー、言われてみればそうかも」という感覚を受け手に抱かせることができるかも重要だ。
たとえば、ただ「水」を売るよりも「天然水」のほうが売れるのは、天然水のほうが水よりもおいしいという説明に、多くの人がなんとなく納得感を抱くからだ。
ここで重要なのは、納得感が理屈ではない点である。「たしかにそうかもしれない」というのはすごく感覚的なので、これを把握するのはちょっと難しい。
私のブログで最も読まれ続けている記事について
ちなみに、私のブログでつねに圧倒的に読まれ、安定的なアクセス数を稼いでくれている記事がある。それがこれだ。
はてなスターの数はそれほどでもないのだが、他の記事を圧倒するようなアクセス数を常に稼ぎ続ける。それは、本書に従えば、このエントリーが多くの人にベネフィットを提供するからだろう。(スターの数が少ないのは、おそらく検索でたどりつく一見さんがほとんどのためだろう。「ディズニー 絶叫」で検索すると、いまだにこのエントリーがトップに来る)
つまり、上記のエントリーが提供しているのは
絶叫マシンが苦手なんだけど、ディズニーランドに行くことになった。どのアトラクションがどのくらい怖いのかよくわらなくて不安だ。
↓
ライド系のアトラクションの怖さを分かりやすく説明し、絶叫ポイントも細かく書かれているので、ちょっとそういう不安感が和らぐ!
というベネフィットである。
しかも、ディズニーランドは一年を通じて多くの人が訪れ、そのなかには初めてディズニーランドに行く人も一定数いる。つまり、この不安を抱いている人もつねに一定数いるわけだ。
そのうえ、ディズニーランドの絶叫系アトラクションは富士急ハイランドのようにぽんぽんできたりしないので、細かく更新する必要がなく、現状に即したものになっている。
次に、「資格」を考えよう。
私はディズニーランドの関係者ではないが、奥さんがディズニー好きのため、交際していたころは年に5~6回はディズニーリゾートに行っていた(最近はそんなに行ってない)。
奥さんは絶叫系大好きだが、私は大嫌いだ。しかし、さすがに断り続けると奥さんの機嫌が悪くなるので、本当は乗りたくないのに絶叫マシンに乗り続けていた。「せめて、なんとか怖いところだけでも把握しておきたい」という気持ちがあったので、自分の経験からまとめておいたのである。
つまり、私は誰よりも絶叫系が苦手な人の気持ちがわかるし、本当は乗りたくないのに乗らざるを得ない状況があることも理解している。そして、何度もディズニーリゾートに行き、ほぼすべてのアトラクションに乗った実体験を綴っているので、説得力が出てくるわけだ。
読まれ続けるのもまあ納得である。
どうすれば、売れるのか?―――世界一かんたんな「売れるコンセプト」の見つけ方
- 作者: 木暮太一
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2017/04/13
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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今日の一首
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いにしへの 奈良の都の 八重桜
けふ九重に 匂ひぬるかな
伊勢大輔
現代語訳:
かつての都だった奈良の八重桜が
今日は京都の宮中で美しく咲いていますねー
解説:
九重というのは宮中のこと。古代中国では都を9つの門で囲っていたことに由来するらしい。つまり、「いにしへ ⇔ けふ」「奈良 ⇔ 京都(九重)」「八重 ⇔ 九重」がそれぞれ対比されている。しかも、「八重 < 九重」という力関係も感じられるので、奈良の都よりも現在の京都の都のほうが素晴らしいですよね、という賞賛の意味も入っている。
驚くべきは、これほどの技量が凝らされたこの歌が、奈良から八重桜が送られたとき、藤原道長から「即興でなんか詠め」といわれたときにとっさに出てきたものだということ。
参考:
後記
そういえば劇場版のコナン君をみたとき、予告編で今年の劇場版ポケットモンスターのCMが流れた。
ポケモンはそれまで子ども向け映画だったが、劇場版アニメが20周年を迎える今年、ついに大人をもターゲットにした作品を作るつもりみたいだ。これは、ヒットしそうな気がする。
もう音楽とか、すごい懐かしい。最後のタイトルへのカットインがかっこよすぎる!
とりあえず今回はこんなところで。
それでは、お粗末さまでした。