本で死ぬ

基本的には本の話。でもたまに別の話。

『ジャンヌ・ダルクまたはロメ』のレビュー~王道冒険譚『エッセ・エス』がおもしろい~

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おとといの記事で、私はSchickハイドロ5のことをボロクソに書いたが、私は大きな間違い……というか見落としをしていたことに気付いた。

もくじ

次の写真を見ていただきたい。私が問題にしていたローションとは刃の上についている白い点々部分である。これが、髭を剃ろうとすると、邪魔をするのだ。

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私はこれをなんとかできないものかと私は水で流そうとしたり努力したのだが、いじくっていたら、こんなことができるとわかった。

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この時に私が受けた衝撃をお分かり頂けるであろうか。まさか、本製品の最大の特徴であるローション部分をずらして役に立たないようにする仕組みが備わっているとは思わなかった!! Schickハイドロ5はじつは、とても親切設計だったのだ。もちろん、ローションが役に立たないということに変わりはないし、開発側もそれを感じていたのではないかという疑惑が新たに浮かび上がったが、それについてはもう考えないようにしよう。

佐藤賢一氏について

本題に入ろう。今回紹介するのはコチラの一冊。

ジャンヌ・ダルクまたはロメ (講談社文庫)

ジャンヌ・ダルクまたはロメ (講談社文庫)

 

著者の佐藤賢一氏は山形県出身の小説家で、東北大学の大学院でヨーロッパ中世史を学んでいるため、中世ヨーロッパを舞台にした歴史小説をいくつも書いている人物。デビューは1994年で、支倉常長遣欧使節団をテーマにしたジャガーになった男』が第6回小説すばる新人賞を受賞してデビューした。

ジャガーになった男 (集英社文庫)

ジャガーになった男 (集英社文庫)

 

また、中世フランスの王妃、ジャンヌ・ドゥ・フランスの離婚裁判をテーマにした『王妃の離婚』は1999年に直木賞を受賞しており、その実力は折り紙つきといえる。

王妃の離婚 (集英社文庫)

王妃の離婚 (集英社文庫)

 

また、ほかの代表作にはイギリスとフランスの百年戦争を描いた『双頭の鷲』も有名だ。上下巻となかなかのボリュームだが、こちらもおもしろい。

双頭の鷲〈上〉 (新潮文庫)

双頭の鷲〈上〉 (新潮文庫)

 

また、じつは作品がマンガしていたりもする。『傭兵ピエール』と『かの名はポンパドール』がそれだ。

傭兵ピエール〈上〉 (集英社文庫)

傭兵ピエール〈上〉 (集英社文庫)

 
傭兵ピエール 1 (ヤングジャンプコミックス)

傭兵ピエール 1 (ヤングジャンプコミックス)

 

 

文章の特徴としては、なんといっても緻密な描写。なにしろ本人が中世ヨーロッパを専門的に勉強していたので、当時の風俗とか生活の細かいディティールにとことんこだわって描写している。また、登場キャラクターのセリフをカギカッコ以外にも著すのも非常に特徴的だ。『ジャンヌ・ダルクまたはロメ』の解説を書いた石原千秋氏によれば、これによってキャラクターのセリフが歴史的史実に基づいたものか、それとも佐藤氏の空想の産物かをあえて曖昧にし、それらふたつを滑らかに結び付ける効果を持っている、としている。

ジャンヌ・ダルクまたはロメ』について

本作は中世ヨーロッパを舞台にした短編集である。全部で7つの物語が収録されているが、ハッキリ言って、物語自体はそんなにおもしろくなかった。たしかにしっかりとしたディティールのおかげでリアリティはあるのだが、エンターテイメントして読んでいてもそんなにおもしろいものではない。

ただ、イベリア半島を舞台にした騎士道物語『エッセ・エス』だけはすごくおもしろかったので、今回のエントリーではそれ以外の物語についてはサラリと紹介するにとどめ、メインに紹介するのは『エッセ・エス』にする。

さて、表題作と『ルーアン』の主題はジャンヌ・ダルク。表題作のタイトルの由来は、ジャンヌ・ダルクの本名が「ジャンヌ・ダルクまたはロメ」だからだ。当時、ジャンヌの出生地であるドムレミ村の地方では、女性は父方の姓と母方の姓の2通りの名前を名乗っていたのである。そのため、ジャック・ダルクとイザベル・ロメの娘である彼女を正式に呼ぶとすれば「ジャンヌ・ダルクまたはロメ」になるのだ。

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『戦争契約書』はそんなジャンヌ・ダルクが活躍した百年戦争に参戦しようとした2人の騎士を主人公にしたコメディ色の強い作品。そして、『ヴェロッキオ親方』『技師』『ヴォラーレルネサンス時代で一番の著名人、レオナルド・ダ・ヴィンチをモチーフにした作品である。

『エッセ・エス』のレビュー

物語の構成

本作の語り部はカスティーリャ王国の老騎士、ティエレス・デ・カルデナスだ。この人物についてはネットで検索してもあまり詳しいプロフィールが出てこなかったが、作中の説明によるとエンリケ4世の治世のとき、その妹姫であるのちのイサベル1世に仕えていた。

f:id:Ada_bana:20160508095923j:plainイサベル1世

カルデナス家の紋章は「S」の字をふたつ重ねたものであるのだが、いまや彼の家族では誰もこの紋章の由来を知らないでいるのでけしからん!ということで、なぜ自分がこの紋章をイサベル姫から賜ったのか、その由来を説明しよう――という形で物語は始まる。要は、この物語はティエレスの回顧録だ。

15世紀のイベリア半島情勢について

まず、カスティーリャ王国イベリア半島の北のほうにあった国で、現在のスペインの元になった国だ。ちなみに、カステラの語源となったとされる国でもある。

次にエンリケ4世は1454年に即位したカスティーリャ王だが、一言でいえば無能である。当時のカスティーリャ王国内では貴族の地位が高まって相対的に王族の地位が低下していたのだが、それに対してなんら効果的な政策を実施できなかった。そのうえ、2度も結婚したのに子どもをひとりも残すことができなかったため「不能王」と呼ばれている。無能であるうえに不能でもある、しょーもない王だった。

f:id:Ada_bana:20160508100903j:plainエンリケ4世

そして、イサベル姫。彼女はエンリケ4世の異母妹であり、のちにアラゴンカタルーニャ王国の王子フェルナンドと結婚。その後1474年にイサベル1世としてカスティーリャの女王に即位し、フェルナンド2世として即位したアラゴン王と共同統治を開始。まずポルトガルとの戦いに勝ってカスティーリャの地位を安泰にし、カスティーリャアラゴン連合王国(すなわちスペイン王国を作った。そしてグラナダ王国も滅ぼしてレコンキスタ(国土回復運動)を完成。さらに、コロンブスを支援してアメリカ大陸発見にも協力するなど、エンリケ4世と比べるまでもなく有能な人物だ。

あらすじ

若き騎士・ティエレスが仕えていたイサベル姫は18歳。イベリア半島随一の王国の姫である彼女には4人の花婿候補がいた。イングランドのグロスター公リチャード、フランスのベリー公シャルル、ポルトガル王国の国王アルフォンソ5世、そしてアラゴン王太子・フェルナンドである。

イサベル姫の兄・エンリケ4世は彼女の結婚相手としてアルフォンソ5世を選んだが、これがイサベル姫には気に入らない。というのも、そうした花婿選びには王妃や寵臣の利害が絡み、必ずしもカスティーリャのためにならない専横を生み出すと彼女は考えていたからだ。それよりも、バルセロナを拠点に地中海の覇権国家として台頭しているアラゴンの将来の王が決定しているフェルナンドと結ばれた方が、カスティーリャにとってより大きな利益をもたらすと彼女は信じていた

とはいえ、兄であり王でもあるエンリケ4世の決定を、いかに妹といえども覆すなどできるはずもない。とくに、かねてより反目し合っていたため、自分の行動が下手をすればカスティーリャ内の貴族たちを伴った内乱に発展したり、姫の暗殺につながる危険性もあった。実際、アンダルシアに遠征していたエンリケ4世が妹の思惑を聞いて、軍を反転させて彼女の元に急いでいるという情報も入っていた。事態は急を要する。

そこでイサベル姫が考えたのは、いまのうちにフェルナンドに使者を送り、アラゴン軍を都に招き入れてしまうというかなり乱暴なものだった。外国の軍と一戦交えるとなるとアラゴンとの全面戦争になってしまうため、こうなれば兄もそう簡単に手は出せなくなるだろうという魂胆だ。アラゴンへの使者として指名されたのがティエレスと文官のパレンシアである。こうして2人は、国の命運を分ける、アラゴンへの旅へと旅立つこととなった。

さて、ティエレスとパレンシアがアラゴンにたどり着き、国王フワン2世に軍の派遣をお願いしたが、じつはこのとき、アラゴンはそれどころではなかった。カタロニアで商人たちが反乱を起きており、軍がほとんど出払っていて、王都の守護さえもまともにできていない状況だったのだ。これではとても、カスティーリャに軍を派遣するなどできるはずもない。だが、肩を落として帰ろうとする2人を挑発的に引き留めたのは、そのときまだ17歳だったフェルナンド王太子その人だった。

軍なんて派遣せずとも、俺がカスティーリャまで行って結婚式を挙げてしまえばいいのだ。イサベル姫がアラゴン王太子妃になってしまえば、いかにエンリケ4世といえども簡単には手を出せなくなる。披露宴なんてやらなくてもいいから、とにかくキリスト教の司祭の前で誓いを行えば、それは神聖不可侵なものとなり、やはりエンリケ4世には手出しできない状況だ」

とはいえ、軍がいないのだから、当然ながら、フェルナンド王太子を護衛する者すらまともにかきあつめられない。それに、花嫁にとって一生に一度の晴れ舞台である婚姻がそんなに地味に終わってしまうのはイサベル姫がかわいそうだ。ティエレスとパレンシアは反対したが、結局、自信満々のフェルナンドを説得することはできず、数少ない護衛とともに彼らはフェルナンド王太子を伴って再びカスティーリャに戻ることになったのだった。果たして、彼らはカスティーリャの警邏の目を盗んでエンリケ4世の軍勢よりも早く王都バリャドリッドに到達することはできるのだろうか?

感想

白馬の王子様の到来を待つお姫様と、その姫と結婚するために少数の護衛のみで冒険に出発する王子様の冒険譚。シナリオはベタベタではあるが、それが史実に基づいた物語なのだからおもしろい。とくに、芯の強いイサベル姫、堅物の騎士・ティエレス、頭はいいが皮肉っぽい文官・パレンシア、そして自信過剰気味だけれど頭が切れて常識にとらわれないフェルナンド王太子と、登場人物たちのキャラクターが非常にうまく立っていて、読んでいてワクワクドキドキする

f:id:Ada_bana:20160508202423j:plainフェルディナンド2世

家紋の由来についてはネタバレしないでおくが、この物語、また終わらせ方が素晴らしい。ちょっと長いし、若干のネタバレになってしまうが、引用してしまおう。(太字は徒花)

そう小生を咎めたとき、イサベル王女は専ら大理石を思わせた左右の頬を、さっと薔薇色に染めていた。ああ、そうかと気づかされた秘密は、我らが女主人が恋をしていたという事実だった。アラゴンを選んだのはほかでもない、ひとつ歳下の王子の噂を聞きながら、フェルナンド王子に夢を膨らませていたというのが真相だった。

なるほど、ポルトガルは選ばれないはずだった。アルフォンソ5世という花婿候補が、くたびれた男やもめの中年男だったからである。政治も、政略も関係ない。兄王の宮廷で引合されるたび、にやけた愛想笑いを投げられては、こんな男にだけは嫁ぎたくないと、イサベル様は嫌悪感を募らせておられたようだった。

もしアルフォンソ5世が若き美男子であり、あるいはほかに適齢の王子がいたならば、今日の国際政治で「スペイン」と呼ばれているのは、カスティーリャポルトガルであったかもしれない。が、そうであれば、今日の「スペイン」が、これほどの繁栄を謳歌していたか、それは定かではないと思う。思うほどに女の眼力は馬鹿にならないものだと、感嘆の念を新たにせざるをえないのだが、それが盲目的な恋情のなせる業であったとしても、あのときフェルナンド王子を御導きして正解だったと、そうでなくては情熱の国はならなかったと、小生は与えられた家紋に覚える誇りを強くするばかりなのである。

おわりに

GW中は本当は毎日更新しようと思ったのだが、ふとニコニコ動画でおもしろいゲームの実況主を見つけてしまったため、すっかりその人の動画を見ていて時間がつぶれてしまった。当面は見続けよう。

今回はこんなところで。

それでは、お粗末さまでした。