『ただし少女はレベル99』のレビュー~初めての汀こるもの~
ビジネス書とか実用書とか新書とかばかり読んでいると「いかんな、小説読もう」としみじみ思う。
もくじ
んで、いざ夜更かししてベッドでモソモソとファンタジーとかミステリーとかを読んでいると翌日、びっくりするほど仕事に対するやる気が起きなくなる……のは私だけだろうか。霊能力者もいなければ、密室殺人のひとつやふたつも起こらない日常の中で仕事をするのが虚無的に思えてくる。しますけどね、仕事。
しかし、そういうときにモチベーションを挙げるのが自己啓発本だったりビジネス書だったりする。そういう本を読むと「アカンな」と急に危機感に襲われて、もうちょっと毎日を規則正しく生きようとか、仕事を効率的に処理して成果を出そうとか、そういう意欲がムクムク湧いてくる。自己啓発書で人生が変わるとか、物事が好転するわけじゃないけれど、とりあえず今日明日のカンフル剤にはなる。その具体の効能を期待したほうが、現実的ではなかろうかと。
私が単純な人間であるというだけかもしれないが。
汀こるもの氏について
今回紹介したいのはこちら。
著者の汀こるもの(みぎわ・こるもの)氏は1977年生まれのミステリー作家で、2008年に『パラダイス・クローズド』が第37回メフィスト賞を受賞してデビューした。
パラダイス・クローズド THANATOS (講談社ノベルス)
- 作者: 汀こるもの
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2008/01/11
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双子の美少年探偵(?)が主役で、THANATOSシリーズとしていまのところ8作品がリリースされているが、2013年以降、続編は出ていない。徒花は第6作目にあたる『空を飛ぶための三つの動機』までは読んだ。
空を飛ぶための三つの動機 THANATOS (講談社ノベルス)
- 作者: 汀こるもの
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/10/06
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端的に汀氏を説明するなら「魚好きのアニメオタク(とくにエヴァ)」である。作中はアクアリウムに関する薀蓄に文章量が割かれていて、たいへん鬱陶しいタメになる。ペンネームも、おそらくこの魚フリークぶりからつけられたものと思われる。また、登場人物たちはマンガやアニメのセリフをもじったものやネットスラングを多用するので、そこらへんの知識がないと一体なにをいっているのか理解できないところも多い。
実際、本人はネット上の活躍も活発に行っていて、twitterではだいたいどうでもいいツイート日常ツイートをつぶやいるほか、「古畑任三郎twitter小説」が話題になったこともあったがこれももう6年も前の話なのだ。
さらに、Amazonでは、おそらくダイレクトパブリッシングで個人的に短編小説を発表したり、ドラマCDを発売したりもしている。
商業出版で言えば、ほかにも『完全犯罪研究部』から始まるシリーズがある。
『ただし少女はレベル99』の概要
『ただし少女はレベル99』汀こるもの|講談社ノベルス|講談社ノベルス|講談社BOOK倶楽部
公式サイトからはじつは壁紙が無料ダウンロードできるのです
本作はTHANATOSシリーズ、完全犯罪研究会シリーズに続く、新たなシリーズの第1作目。続編も2作出ていて、巻を重ねるごとに少女のレベルが下がっていく。
まずはあらすじ。
ごく普通の女子高生・葛葉芹香(くずのは・せりか)はあるときから、お菓子の景品が当たったりライブのチケットに当選するなど、やたらラッキーが続くようになる。しかし、その原因は彼女のクラスメイトである不思議少女・出屋敷市子(でやしき・いちこ)が関係していた。じつは彼女は超ウルトラ級の力を持つ霊媒者であり、芹香は彼女の力をいつのまにか奪っていたというのだ。そのことがきっかけで、いろいろと世界にひずみが生じ始める……。
公式ページのコメントで汀氏は「1話からもうアニメ化されたくてむしゃくしゃして衝動的にやってしまった」などと供述しており、さらに「※本文中で出屋敷市子が「首を傾げ」ているところは全部、「シャフ度で言った」と脳内変換してください。」と締めくくるなど、アニメの制作会社まで指定している図の乗り具合なのでどんなテンションの内容かは推して知るべし。
序盤こそ魔力少女のファンタジーだが、後半になると時空移動をともなう、いわゆる「セカイ系」の話になる。ミステリー的な要素はナシ。あくまでライトノベルよりもちょっと大人びたファンタジーSFエンタメ小説、と捉えるのが正確だろう。
なお、本作の出屋敷市子はTHANATOSシリーズで監察医として登場している出屋敷の娘さんで、本人も登場(というか、後半になると完全に主役はになる)するほか、THANATOSシリーズでお馴染みのイケメン警視正・湊俊介もヒョロッと登場するため、厳密にはTHANATOSシリーズのスピンオフ作品といえる*1。
おもしろいんだけど、「書きすぎ」
おもしろいことはおもしろいが、正直なところ、続編を買うかはビミョー。
なぜかというと、汀氏の作品はけっこう読むのがしんどいからだ。1冊読むとおなかいっぱいになってしまう。なんでおなかいっぱいになるかというと、話の割に文章のボリュームが多いのがその一因だ。端的に言えば、「書きすぎ」と感じる。*2
もちろん、ディティールにこだわるのは悪いことじゃない。しっかり作りこまれた状況は呼んでいて納得感が高いし、世界観に引き込まれるものだ。しかし、そうした作りこみをどこまで読者に微細に説明するかは、また別の問題ではなかろうか・・・・・・。
たとえば、話はマンガに変わるが、たとえば『ウィッチクラフトワークス』では、本編以外の部分でこの作品の世界について(おもに魔法のメカニズムとか)がかなり詳細に説明されているが、そうしたことは、あまり作中では説明されていない。
しかし、読んでいると「ちゃんとこうした設定に基づいてストーリーが作られているんだなぁ」と納得する次第である。マンガの場合、小説よりもスピード感などが重視されるからだろうか。あと、単行本などで裏設定を披露する場があるというのも大きいかもしれない。
何を書くかより「何を書かないか」
個人的に、文章の執筆では「何を書くか」よりも「何を書かないか」が大切なんじゃないのか、と考える。私の仕事は編集者で、著者やライターから原稿をもらって読むわけだが、最近は「編集と云ふは削る事と見つけたり」と思う。書き手は書きたいことがたくさんあって、文章の中に盛り込んでくる*3のに対し、私は本筋から外れる内容はバッサバッサと削っていく(とくに、私が作ってるのはビジネス、実用書だし)。
――と、こんなことを考えるのは最近、ふたたび星新一がマイブームになっているからかもしれない。とにかく、短く、でもおもしろく文章を作るというのは、とてつもなく高い技術が必要なのだなぁというのを改めて実感している次第なのだ。
おわりに
上で紹介したマンガ『ウィッチクラフトワークス』だが、じつは5巻くらいで飽きて読むのが止まっている・・・・・・。長い物語にあまり私がよい評価を下さないのは、単純に私が「飽きっぽい」ということが理由のひとつなのかもしれない。
それでは、お粗末さまでした。