本で死ぬ ver2.0

基本的には本の話。でもたまに別の話。

『「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本』(山下泰平・著)のレビュー

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最近はブログから書籍化するケースが増えてきましたね。

ブログの記事が元になった書籍をまたブログで紹介するというのは、ちょっと変な感じがします。

だったら元ブログを紹介したほうが話が早いんじゃないかな、とか。

 

今回紹介する本も、元はと言えばバズったブログ記事が発端となったものです。

 

 

元記事はこちらです。

 

cocolog-nifty.hatenablog.com

 

本書で紹介されているのは、著者が「明治の娯楽物語」と称した、文学よりも低俗で、とにかくエンターテイメント性を高めるためにとんでもないストーリー、設定、キャラクターが理屈を超えて跳梁跋扈する本です。

 

明治といえばたくさんの文学作品が登場したような印象がありますが、とはいえいわゆる世間一般の人々がもっと読んだのは、むしろすぐにゲンコツを振るう軍人やドロンと姿を消す忍者が活躍するこれらの作品だったわけですね。

 

元記事では鴎外の『舞姫』をパロった単発の作品を紹介するにとどめていますが、本書ではそれに類する「明治の娯楽物語」をゆるっと年代の経過とともにその傾向を分析しつつ、雑多に紹介する本になっています。

タイトルに「20万字くらいかけて~」とあるように、見た目以上に分厚く、ボリューミーな本です。文章自体はウィットに飛んでいて読みやすいのですが、いかんせん文字が小さく、情報がぎっちり詰まっているので時間がかかります。

 

・宇宙空間にまで旅行しちゃう弥次喜多

・蝦蟇の能力を持つ自来也が邪悪なキリスト教をぶっ潰す話

・日本初の覆面ヒーロー「悪人退治之助」

・身長と肩幅がほぼ同じ「豆腐市兵衛」

・ゲンコツでハイカラ討伐をするため世界をめぐる

 

タイトルになっているのは最後のやつ。

『蛮カラ奇旅行』です。

主人公の島村隼人はとにかくハイカラを目の敵にしていて、ハイカラを殴るためだけに旅に出る。そこで、明らかに『舞姫』の主人公・豊太郎に捨てられたエリスを彷彿とさせる気が狂ってしまった女性の話を聞いて、その日本人男を殴ることを決意。途中でアフリカ人のアルゴを引き連れて、日本人男をボッコボコにするのです。

 

なんだかんだで島村隼人はアフリカ人のアルゴを引き連れ、日本へと帰国する。なぜアフリカ人なのかというと、〈蛮カラの本家本元なる阿弗利加(アフリカ)蛮人〉だからである。今ならアウトだが、明治であれば問題ない。そもそもこの作品は、面白そうなモノはなんでも取り入れようではないかという姿勢で書かれている。例えばイギリスの老人と島村隼人が子供を集め、スパルタ式で武士道と騎士道を徹底的に教え込むというエピソードがある。最終目的はより良い世界にするために世界を統一するというものであり、この狂った集団は〈世界統一倶楽部〉という安易な名前だ。そしてこの倶楽部の基本的な方針は、〈ハイカラ撲滅主義〉、どこまでもハイカラを目の敵にしている。

(中略)

アルゴは脱出不可能とされた孤島にある牢獄から脱出するついでに、海賊組織を壊滅させ、政府主義者の組織までブッ潰す。大きなトラブルの六割程度は彼が解決するほどの、作中きってのチートキャラであり、仮面ライダーでいうとギギとガガの腕輪を装着した完全体の仮面ライダーアマゾンの位置付けにあり、もはや完全無敵だと言えよう。そもそも人種には重きを置かず宗教も無意味、すべての頂点に蛮カラが位置している世界観だから、本家本元のアフリカの蛮人が一番強く、偉いという結論が出るのも当然であろう。

 

今の私たちがこのような本を通じてわかった気になると、

「こんなとんでもない本が多くの人に読まれた時代があったんだなァ」

などとのんきに考えてしまいますが、冷静に考えてみると、別に明治時代でなくたって、現代の出版界にも客観的に見てみれば奇々怪々な本がたくさんあります。

 

たとえば、いわゆるライトノベルだって、100年後くらいになって掘り起こされたら

 

「当時はあらゆるモノを美少女のキャラクターにのべつ幕なしに変身させてエンターテイメント化してしまうという潮流がありました」

 

などと解説されてしまうかもしれないわけです。

そうでなくても、エンターテイメント性(つまり売上)を追求するがゆえに分別なく「売れそうな要素」を詰め込んで作品を量産するという行動自体は、明治時代の出版人でも現代の出版人でも変わらないわけで、そういう節操のない作品はつねにあるものなのかもしれません。

 

まあ、そんな小難しいことを考えなくても、単に「おもろ」と感じながらダラダラ読める一冊です。

 

 

後記

本書に限らず、ですが、タイトルの長い本というのはなかなか考えものです。

その端緒といえば、ベストセラーになった『もしも高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』あたりから、たまにビジネス書でも長いタイトルのものが出るようになりました。 

 

 

長いタイトルをつける場合、大事なのは「略称」です。

上記の本の場合も、ちゃんと正式名称を覚えている人はまずいないでしょう。

もしドラ』という略称で認知されています。

ほかにも、人気になったライトノベルのタイトルはだいたい省略して呼称されますね。

これはだいたい、編集者などの意向で「こんな略称で呼ばれるようにしよう」という狙いがあるものだと思います。

 

これがないまま、ただダラダラと長いだけのタイトルをつけると、ほんの場合はだいたい失敗します。

私も挑戦してみようと思ったこともありますが、いろいろ考えて断念しました。

タイトルは難しいものです。

 

今回はこんなところで。

それでは、お粗末さまでした。

『PIXAR 世界一のアニメーション企業の今まで語られなかったお金の話』(ローレンス・レビー著)のレビュー

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ピクサーはいまではディズニーが買収しています。

しかし、もとはといえば、いまでは伝説的経営者として歴史上の人物になってしまったスティーブ・ジョブズが買収して名付け、独立させた会社であるということを知らない人が意外といるみたいです。

当時のジョブズはアップルから追い出されたところで、NeXTという会社を立ち上げていました。それと同時並行でやっていたのがピクサーの経営だったわけです。

 

とはいえもちろん、ジョブズCGアニメーションに関しては完全な素人。それでいてこだわりは強く、ワンマン体質だったため、職人気質のアニメーターたちとはかなりの軋轢がありました。

 

そんなジョブズとアニメーターたちの間に立ち、四苦八苦していたのが、財務責任者である、本書の著者、ローレンス・レビー氏でした。

 

 

しかも、創業当時のピクサーが一生懸命制作していた「トイ・ストーリー」というアニメは当たるかどうかもよくわからない代物。しかもこの作品はディズニーとの間で権利ががんじがらめにされた、ピクサーにとってかなり不利な契約が結ばれてしまっているものでした。

 

ピクサーはつねに金欠で、オーナーだったジョブズは金が足りなくなると追加出資してなんとかしのいでいる状態だったのです。

 

そんなアニメーターとジョブズの間に立ち、会社のお金のやりくりをなんとかしていたのが、本書の著者であるローレンス・レビー氏です。以下、レビー氏がはじめてピクサーの財務状況を確認したときのところをちょっと引用してみましょう。

 

「資金はどうしているのですか?」

エドエド・キャットムル)によると、毎月なんとかかんとかしのいでいる状態らしい。映画の制作費用はディズニーからもらっているし、レンダーマンとアニメーションコマーシャルも多少の収入にはなっている。だが、ピクサーの費用をまかなうには少なすぎる。

「不足分はどう埋め合わせているのでしょう」

「スティーブです。毎月、スティーブのところへ行き、いくら不足なのかを言うと、小切手を切ってくれるのです」

これには驚いた。スティーブがピクサーを支えているのはわかっていたが、まさか、毎月、個人小切手で資金を供給しているとは思わなかったのだ。投資家は、普通、6カ月か1年分、場合によってはもっとたくさんのお金をまとめて提供する。毎月お金をもらいに行くのは極めて珍しいし、そんなことが楽しいはずもない。

 

さらに、レビー氏はピクサーがディズニーと結んでいる契約の内容を精査してまた驚いた。ピクサーはディズニーのために3つの作品を制作することを義務付けられていたのだ。ピクサーにはもちろん、同時にいくつもの作品をつくる体力なんてないから、実質的にディズニーのためだけに作品を9年くらいは作品を作り続けることを意味していた。

それだけではない。

 

もうひとつ、気になる点があった。ある段落の最後にさらっと書かれているのだが、ディズニーに提示した映画のアイデアは、却下されたものも含め、契約が終了するまで他社に提示してはならないというのだ。

「これはおかしいでしょう。まったく興味がないと1995年に却下されたアイデアがあったとして、それから10年間、そのアイデアについて、ほかの映画スタジオに話もしてはならないことになってしまいます。でも、映画というのは、公開の何年も前に配給会社とアイデアをすり合わせる必要があります。つまり、すばらしい映画のアイデアがあってもディズニーに気に入ってもらえなければ世の中に出せなくなってしまうわけです」

「ええ、それこそが契約の取り決めです。ディズニーの映画に専念しろ、ほかのスタジオの仕事はするなということです。そういう条件だからディズニーはピクサーの映画に多額の資金を投入してくれるわけです」

(中略)

「この条項があっても、ディズニーに提示せずアイデアを追求することは可能ですよね。そういうアイデアにはこの条項が適用されないので、ほかの配給会社と話をすることもできる、と」

「いいえ、それもできません」

そう言ってサムが示したのが「独占条項」である。そこには、契約期間中、ピクサーのアニメーション部門は、クリエイティブスタッフも含め、ディズニー専属とすると定められていた。

これには驚いた。

ジョン・ラセター以下、チーム全体が、今後10年間、ディズニーの仕事しかできないということですか? ほかのスタジオと映画の話をすることはまったくできない、と?」

「そのとおりです。実績がない場合、こういう契約にするのが普通なのです」

「でも、ピクサーはバンドや俳優と違います。会社です。アニメーション部門にこれから千人採用しても、この契約では、その全員がディズニーの仕事しかしてはならないことになってしまいます。こんなふうに会社全体を縛る契約、ありなんですか?」

「おっしゃりたいことはわかりますよ。でも、ディズニーの立場で考えてみてください。映画を制作した経験のないピクサーと契約するわけです。しかも、実績のない種類のアニメーションですし、監督も無名で実績がありません。かなり危険な賭けだと言えます。ディズニーの資金で制作する映画に集中してもらわないと困るんですよ」

 

ピクサーが生き残るためには、これからつくるすべてのアニメーション作品が尋常でないヒットになり、ピクサーにお金が入ってくるようにするしかない。

そしてその第一発目である「トイ・ストーリー」がすべての命運を握っていたということです。結果として、この作品は伝説を生むような超ヒットとなるわけですから、なかなかドラマティックですね。

 

ハリウッドでは、国内の興行成績が基準となる。つまり、北米の映画館における入場料収入である。そのレベルに応じて、どのくらいの収益がピクサーに入ってくるのか試算してみた。国内の興行成績が1本1億ドルではお話にならない。製作コストがかさむこと、公開頻度が低いことから、その程度では事業を続けられないのだ。1億5000万ドルでもぎりぎりなんとかなるレベルで、いい感じになるのは1本1億8000万ドル超だ。

対して、1億5000万ドル以上の興行成績をコンスタントにたたき出すのは前代未聞というのが現実である。だれも達成したことがないのだ。1937年の『白雪姫』以来、ディズニーはたくさんのアニメーション映画を公開してきたが、そのうち、国内の興行成績が1億5000万ドルを超えたのは2本だけ――2億1700万ドルをたたき出した1992年の『アラジン』と3億1300万ドルという記録を打ち立てた1994年の『ライオン・キング』をのぞくと、平均が1億ドルを下回ってしまう。

そう、ディズニー・アニメーションでさえもそうなのだ。世界の隅々までその名が響きわたっているブランドでさえも。ほかの会社のものも含むアニメーション全体の平均はもっとずっと低くなる。というか、公開時に5000万ドルを大きく超える興行成績をあげたアニメーション映画は、ディズニー以外どこも出せていない。

 

さて、『トイ・ストーリー』の公開結果はみなさんご存知のとおりですが、ここでレビー氏たちはディズニーとの契約内容の交渉を始めます。

 

金銭面はもちろんのこと、レビー氏がこだわったのは、ピクサーをディズニーと対等に扱うということでした。しかし、これにディズニーは難色を示しました。

 

「でもどう考えてもおかしいですよね。映画は我々が作っているのに彼らの成果になるって道理に合いません」

と、道理まで持ちだしてきた。私も同じ思いだ。

「残り2本の映画も成功すれば、それはディズニーの功績になる。失敗すれば、それは我々のせいということで切り捨てられておしまいだ」

「当然のことなのに、なぜ、してもらえないのでしょう」

ジョン(ジョン・ラセター)だ。

「ストーリーもキャラクターも、ここで生まれています。このビルで、です。あっちじゃないんです。我々としては、自分たちがしたことの功績を認めてほしいだけなんですが。それを取りあげようというのはどういう了見なんでしょうね」

感情的な物言いだが、それも当然だろう。何年もかけて育ててきたのだから。子どものようなものだ。ピクサーの子どもだ。「ディズニーの『トイ・ストーリー』」と大きく書かれた横に小さくピクサーの名前が添えられたポスターなど見たくないというのが本音だろう。

 

この契約のやり取りの結果は、その後のピクサーの扱いを見ればわかるように、認められることになりました。

そしてレビー氏は、ピクサーの2作目『バグズ・ライフ』において、アニメーションの制作スタッフだけではなく、ピクサーのバックオフィスの人たち、つまり自分たちのように会計やマネジメント、資材担当者、採用などを担っている人達の名前もクレジットに乗せてほしいと交渉したのです。

 

私も知らなかったのですが、映画におけるクレジットはその人の履歴書の役割も果たすそうで、基本的には映画にあまり関係ない人の名前は載せられないと言う方針があるようです。そのため、ディズニーはこの条件にも反対しました。

しかし粘り強い交渉の末、この要求も認められます。

しかし、そのためには悲しい結末が待っていました。

 

「いいってさ」とスティーブ。「ただ、条件がひとつあるそうだ」

「なんでしょう」

ピクサー役員のクレジットはなし、この慣例はやぶれない、だそうだ」

これがなにを意味するのかはすぐにわかった。スティーブもエドも、『トイ・ストーリー』に製作総指揮としてクレジットされている。そして、『バグズ・ライフ』の感謝クレジットで我々役員がクレジットされることはない。つまり、ピクサー役員のなかで私だけ、名前がスクリーンに登場することなく終わってしまうわけだ。部下は全員登場するのに。

正直なところ、ちくりと来るものがあった。1回だけでもいいから、自分の名前が登場したらどんなにいいだろう。家族は大喜びしてくれるはずだ。でもそうはならない。それがどうした。望みを達成したのだ。言うべきことは決まっている。

「いいんじゃないですか。やりましたね。ディズニーへの申し入れ、ありがとうございました」

 

これは悲しすぎる。

お金の面で、契約の面で、ピクサーというブランドを守るために東奔西走していた影の立役者であるレビー氏は、ついぞクレジットに名前が乗ることはなかったのです。

 

本書で紹介した内容はごくごく一部。

これからピクサーがディズニーに買収されていく経緯、そしてスティーブ・ジョブズの死なども語られていきます。

ぜひ実写映画化されてほしい一冊ですね。なかなか泣けそう。

 

 

後記

コロナの影響で遅れるかもしれないけど、春アニメが始まりますね。

個人的に気になるアニメをピックアップしました。

 

singyesterday.com

まさかこれあアニメ化するとは。

マンガを途中まで読んでたけど忘れてしまいました。見てみようかな

 

www.ghostintheshell-sac2045.jp

 攻殻機動隊の新作ですね。

こちらは地上波ではなくNetflixオリジナル。

CGアニメなのが気になるけど、また加入しようか悩む・・・

 

www.toei-anim.co.jp

こちらはニチアサ。

アラサー直撃ですね。

 

namiyo-anime.com

これはマンガよりアニメのほうが楽しいかも。

 

fugoukeiji-bul.com

筒井康隆対象のこれがまさかのアニメ化ですね。

なんとなくBLっぽさを感じるのは私だけでしょうか

 

今回はこんなところで。

それでは、お粗末さまでした。

 

 

『サブスクリプションで売上の壁を超える方法』(西井敏恭・著)のレビュー

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みなさんは本を選ぶときに、どんなところで選ぶでしょうか。

タイトルとか装丁、内容(小説だったらあらすじ)、あるいは著者名あたりを見る人が多いと思います。

まあ購入をちらっと考えたら、その段階になってから値段もチェックしますよね。

編集者が書店で本をチェックするとき、普通の読者の人がチェックしないところをチェックします。

奥付とかデザイナーの名前とかライターの有無とかいろいろありますが、とりあえず見るのは「出版社名」です。

「この本、どこの会社が出したんだ?」というのは、必ずチェックします。

 

世の中には2種類の商品があります。

「メーカーがチェックされる商品」と「メーカーがチェックされない商品」です。

 

前者で言えば、クルマとか洋服、腕時計、PC、スマートフォンなんかが代表的ですね。「どこがつくってるのか」が気になるものです。

反対に、書籍とかお菓子、文房具なんかは、どこのメーカーかいちいち確認しないと思います。

 

この両者の違いは何かというと、「使い続けるものかどうか」というところじゃないかなと思います。

クルマや洋服、IT機器は、一度購入したらしばらくの間はそれを使い続けるものです。

値段もそれなりにするだろうから、ホイホイ買い換えるわけにもいきません。

そのため「失敗したくない」という心理が働きますね。

でも、本やお菓子や文房具なんかは、値段もたかが知れているし、使う期間が限られているから、「まあ失敗してもいいや」という心理が働くがゆえに、いちいちメーカーをチェックしたりはしないわけです。

※あと書籍の場合、内容のおもしろさを担保するのはメーカーである出版社であるよりも著者が負うところが大きい、というのもあるかもしれません。

 

ただ、やっぱりこれからのビジネスを考えたとき、やっぱり前者のように「メーカーで選ばれる商品」をつくったほうが強いでしょう。

その代表格こそ、アップルです。

アップルはもちろん性能の良さやデザイン性の高さがあるわけですが、「アップル製品だから買おう」というファンの人たちがいます。

それが、アップルという会社を支えているわけです。

 

一方、たとえば書籍の場合は、「その出版社の出す本のファン」というのに、少なくとも私はお目にかかったことがありません。

人々が本を買うのは、その商品(あるいは著者)が気に入ったからであり、つまり単発的なものなのです。

だから、出版社は新刊をつくったら、その都度、ゼロベースからプロモーションをかけなければいけません。

一回一回の買い物がすべて単発で終わり、仕切り直しになるので、またゼロから見知らぬ人たちに向けてその本の良さをアピールし続けなければいけないわけです。

これはけっこう面倒くさい作業で、時間も手間もかかります。

 

会社をブランド化してファンになってもらうことが大事だということは最近はよく言われますが、どうしてお客様にファンになってもらうことが大事なのかというと、一度ファンになってもらえれば会社としては楽だからです。

(そのためのブランド構築やブランドイメージの死守は大変みたいですが。最近読んだアップルの本でもそのあたりのことは書かれています)

 

Think Simple アップルを生みだす熱狂的哲学

Think Simple アップルを生みだす熱狂的哲学

 

 

ここのところ流行っているサブスクリプションというやつも、端的に言えば「単発の取引はやめて、定期購入してもらおうよ」ということですね。

そのほうが会社としては安定的にキャッシュ(現金)が入ってきて経営が安定します。

 

そのわかりやすい教科書的な本を読んだので、サラッとご紹介しておきます。

 

サブスクリプションで売上の壁を超える方法(MarkeZine BOOKS)

サブスクリプションで売上の壁を超える方法(MarkeZine BOOKS)

  • 作者:西井 敏恭
  • 発売日: 2020/01/23
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

著者の西井さんはオイシックスをはじめとするEC企業でサブスクリプション事業をやっている方みたいです。

前著にはこちらもあります。

本書はこちらの続編のような感じみたいですね。

 

 

LTVとはなにか

仕事でマーケティングをしている人は馴染みのあるだろう「LTV」というのがあります。これは「顧客生涯価値(Life Time Value)」のことで、一人のお客さんが生涯に渡って企業にもたらす利益のことを指します。

 

たとえばiPhoneを使っている人は、スマホを買い換えるときにもまたiPhoneを買う事が多いと思います。

でも、たとえば富士通Android端末を使っている人は、買い換えるとき、次はファーウェイのAndroid端末に買えるかもしれません。

アップルがすごいのは、一度アップルの製品を買うと、それに満足した顧客がずっとアップルの製品を「買い続けてくれる率」が高い点です。

サブスクリプションというのは、つまるところ、このLTVを向上させるための仕組みの一つであると言えるわけですね。

 

サブスクリプションのよくある勘違い

ちなみに、著者は「多くの人がサブスクリプションについて誤解している」と述べています。

「定額利用・定額販売=サブスクリプション」ではありません。

サブスクリプションと呼べるのは、定期的な利用があり、かつ、そのデータが活用されている商品・サービスに限ります。

その意味で言えば、日本企業が実施しているサブスクリプションビジネスが、じつはサブスクリプションではないということですね。

 

この本も、マーケティングでは参考になります。

 

2025年、人は「買い物」をしなくなる

2025年、人は「買い物」をしなくなる

  • 作者:望月 智之
  • 発売日: 2019/11/15
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

かなりエッジの立ったタイトルですが、要するにどういうことかというと、

「人の行動が『買う』から『利用する』に変化する」

ということです。

これは人々の所有欲の減退からも見て取れます。

シェアリング・エコノミーという言葉も一時期もてはやされたりしましたが、別に色位なものを自分で所有しなくても、「自分がつかいたときに使いたい文だけ使えれば十分」なわけです。

たとえばゲームソフトでも、いまではクリアしたらメルカリに出品してしまう人は少なくないと思います。

一度クリアしたことでそのゲームソフトを利用し終えてしまったわけだから、手放すと同時にいくばくかのお金も手に入れようという流れですね。

 

サブスクリプションビジネスはまだまだいろいろな企業が試行錯誤を繰り返しているところだと思うのですが、本書ではこうしたサブスクリプションの定義からKPI(Key Performance Indicator:評価の指標)、具体的なビジネスモデルの作り方まで、デジタルマーケティングにあまり造詣が深くない人でもわかるよう、擁護を割と丁寧に解説しながら説明してくれる一冊です。

 

サブスクリプションで売上の壁を超える方法(MarkeZine BOOKS)

サブスクリプションで売上の壁を超える方法(MarkeZine BOOKS)

  • 作者:西井 敏恭
  • 発売日: 2020/01/23
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

後記

最近はディズニーのポップタウンをやっています。

poptown.sundaytoz.com

 

ちょっと前には「猫のニャッホ」もやってたんですが、こういうシンプルなパズルゲームはハマるとやめられないですね。

まあ、不意に飽きてやめてしまうのですが。

ちょっとしたストーリーもあり、主人公がいろいろなディズニーキャラクターを模したコスチュームに変わるので見ていて楽しいです。

 

今回はこんなところで。

それでは、お粗末さまでした。

『ヒトの目、驚異の進化』(マーク・チャンギージー)のレビュー

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・人間の目は他者の感情を見抜く

・人間の目は透視をする

・人間の目は未来を予見する

・人間の目は死者の意思を読み取る

 

こんなふうなことが主張された本があったら、まあトンデモ科学本かちょっとうさんくさいスピリチュアル系の本ではないかと勘ぐってしまいますが、本書ではこれらのことが科学的な調査をベースにして、しごく真面目に語られています。

 

 
著者のマーク・チャンギジーカリフォルニア工科大学で理論神経生物学の研究員をしている人物。カバーのそでに写真が載っていますが、なかなかイケメンですね。

 

「理論神経生物学」というのはネットで調べてみても説明がないのですが、人間の認知・知覚に関して研究をする人のことみたいです。

 

本書は冒頭で述べた、人間の目が持っている4つの「超人的能力」について解説していくのですが、ここではそのあらましを説明してみましょう。

 

人間の目は他者の感情を見抜く

人間の目は多種多様な「色」を認識します。

人間がなぜこんなに細かい色を識別できるのか?

従来の説では「実っている果物が熟しているかを判断するため」などと言われていましたが、チャンギーじーさんはそれに対して懐疑的です。

そうではなく、むしろ「相手の肌の色の変化を識別するために、細かい色を識別できるようになったのではないか」ということなのです。

 

「肌色」というのは、――いまはもう差別的なニュアンスを含むのでクレヨンの色などでも使われなくなってしまったようですが――別の言い方がなかなかできない色ですね。いろいろな色が混じり合っています。

 

そして、この肌の色は相手の健康状態や心理状態、感情などを如実に表すものなのです。人間の目は相手の肌の色を変化を見抜くことで、相手の感情を洞察している……ということです。これが「人間の目は他者の感情を見抜く」と言う主張の正体です。

 

ちなみに「黒人の場合はどうなんだ」というツッコミに対しても、著者はちゃんと説明していますので詳しくは本書を読んでみてください。

 

人間の目は透視をする

多くの動物は「2つの目」を持っています。

しかし、人間のように「2つの目がどっちも前を向いている動物」は多くはありません。多くの動物は右側面と左側面に1つずつ目がついていて、より広い視野をカバーできるようにしています。

 

じゃあ、なんのために人間の目は前方に向けて2つついているのか。じつは、ちょっとズレた位置に2つの視点があることで、「片方の目では見えない前方部分をもう一方の視線でカバーしている」のだとチャンギジー氏は主張します。

 

たとえば、左目をつぶって、右目だけでグッと左端を見ると、「自分の鼻」が邪魔をして視野の一部を塞いでしまいます。しかし、左目ではその部分を問題なく見られます。そのため、私たちの目は自分の鼻を「透過」して向こう側を見ることができるのです。

これが「人間の目は透視をする」の正体です。

 

人間の目は未来を予見する

錯視というやつがありますね。たとえば、こういうやつです。

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どちらも先の長さは同じなんだけど、下のほうがなぜか長く見える。これは別に私たちの目が欠陥を持っているからではなく、「そう見える必要がある」からそうなっているわけなのです。

私たちの網膜がとらえた情報が脳に送られて処理されるには時間がかかります。それはコンマ何秒というレベルの話ですが、リアルタイムで送られた情報は、脳で処理されているときにはすでに「過去」のものになってしまうのです。

人間が「現在」を知覚するには、「コンマ数秒後に起こるだろう」ことを先読みする必要があります。これができないと、私たちは飛んできたボールをキャッチすることも難しくなります。

これが「人間の目は未来を予見する」の正体です。

 

人間の目は死者の意思を読み取る

少し考えてみると、私たちは四六時中、死者の考えを耳にしている……たんに、文字を読むことで。表記法が発明されると、死者は突然、生者に語りかけられるようになった(逆方向のコミュニケーションは遅々として進まないが)。あなたにしてみれば、私は死者も同然で、あなたは今この瞬間、霊読の技能を行使している。偉い!

私たちの目は文字を……紙に書かれた何千という小さな形を素早く処理して意味を読み取ることができるように進化してきています。私たちはものを見たとき、その特徴をシンボル化して表記するように見ているというのです。

これが「人間の目は死者の意思を読み取る」の正体です。

 

 

ということで、ここではかなりザックリと説明しましたが、実際の書籍ではもっともっと細かく、それぞれの能力について説明してくれます。専門的な言葉も多く、読むのはなかなか大変かもしれないけど、刺激的でおもしろい一冊です。

 

  

後記

ボヘミアン・ラプソティ』を見ました。

 

ボヘミアン・ラプソディ (字幕版)

ボヘミアン・ラプソディ (字幕版)

  • 発売日: 2019/04/17
  • メディア: Prime Video
 

 

伝記ものの映画ってけっこう好きで見たりするんですが、逆に世間で盛り上がりすぎると見る気が失せてしまう天の邪鬼な性格のため、鑑賞がここまで遅くなってしまいました。

いい映画でした。やっぱり音楽の力というのは偉大ですね。とくにクイーンの楽曲は印象もさまざまな名曲がいっぱいあるので、耳馴染みのある音楽があるだけで、各シーンをおもしろいものに仕立て上げられるのかなと。

ちなみに私はエンドロールで流れた「Don't Stop Me Now」がなんだかんだ一番好きです。

 

今回はこんなところで。

それではお粗末様でした。

『折りたたみ北京』(ケン・リュウ編)のレビュー

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SFというのはその性質上、著者が作品を書いた当時の社会を反映させたものになると思うわけです。

筒井康隆御大の古い短編小説などを読むと、当時の日本社会のことがなんとなく想像できますね。

 

くたばれPTA (新潮文庫)

くたばれPTA (新潮文庫)

  • 作者:筒井 康隆
  • 発売日: 2015/12/22
  • メディア: 文庫
 

 

当たり前だけど、「すでに現実世界で実現しているもの」を題材にしてもSFにはなりえませんから、時代とか著者の住んでいる国によって、傾向が出てきます。

 

というわけで、じゃあ現代に生きる中国人SF作家はどういう作品を生み出しているのでしょうか。

中国といえば経済発展が著しく、深センなんかだと現金はほとんど使われていないくらいキャッシュレス化が進んでいるらしいです(行ったことないから話に聞くだけだけど)。

でもその一方、農村と都市部の格差は日本以上に開いているとか、共産党による一党独裁一人っ子政策が続いているとか、なかなか興味深い国です。

 

中国のSFといえば、去年は『三体』が大きな話題になりました(まだ読んでない)。

 

三体

三体

  • 作者:劉 慈欣
  • 発売日: 2019/07/04
  • メディア: ハードカバー
 

 

今回紹介する中国SFアンソロジー『折りたたみ北京』も、当然ながらこの『三体』ヒットの裏で発売されたもので、『三体』の著者である劉慈欣(リウツーシン)さんの2つの作品が収録されています。

 

 

当然ながら、作家さんによって作品の色はまちまちなので、簡単に紹介していきましょう。

※ちなみに、登場人物は当たり前ながら中国人名が多いのですが、登場するたびにふりがなを振ってくれているのは親切ですね。あとやっぱり、中国語本来のよみがなのほうがかっこいい気がします。

 

[陳楸帆(チェン チウファン)]

『鼠年』

やたらと大きなネズミ(ネオラット)を退治するためにかき集めらた若き軍隊の物語。大きな力に翻弄される、力ない者たちの悲愴。まあまあ。

 

麗江(リージャン)の魚』

神経症の治療のために麗江を訪れた男と、そこで出会った女の物語。経済成長を優先させるがために人間の「時間感覚」すらも操作する社会。まあまあ。

 

『沙嘴(シャーズィ)の花』

ボディフィルムという、社会的地位を示すディスプレイを身にまとうことが当たり前の社会。その修理工と娼婦。男女のいざこざ。まあまあ。

 

[夏 笳(シア・ジア)]

百鬼夜行街』

ロボッたちだけが暮らす街でひとり一緒に生きる人間の少年の物語。微妙。

 

『童童(トントン)の夢』

要介護状態の祖父と介護ロボットの物語。ほのぼのとしたハッピーエンド。まあまあ。

 

『龍馬夜行』

人間がいなくなった世界で一人放浪の旅を続ける龍馬ロボットの物語。微妙。

 

[馬伯庸(マー・ボーヨン)]

『沈黙都市』

人々の思考と行動を制限するため政府から「健全語リスト」以外の言葉の止揚が禁じられた世界物語。これはいいディストピア。おもしろい。

 

 

[郝景芳(ハオ・ジンファン)]

 『見えない惑星』

二人の語り手がこれまで訪れた惑星とそこに暮らす人々を語る物語。うーん、微妙。

 

『折りたたみ北京』

時間帯によって3つのエリアが交互に現れる北京を舞台にした物語。割と王道的な話で嫌いじゃない。

 

[糖匪(タン・フェイ)]

『コールガール』

不思議な力を持つ少女の物語。ちょっとよくわからんかった。趣味じゃない。

 

[程 婧波(チョン・ジンボー)]

『蛍火の墓』

太陽が光を失い、新天地を求めてさすらった末に時間の流れが止まった<無重力とし>に流れ着く物語。よくわからん。

 

[劉慈欣(リウ・ツーシン)]

『円』

秦の始皇帝が不老不死を得るため、荊軻(けいか)に命じて全軍を動かし、円周率を計算させる歴史SF。これはおもしろい。発想もおもしろいし、物語としても高品質。

 

『神様の介護係』

これがこの本のなかで一番好きな話。ある日、いきなり「人類を創生した」と名乗る神々が現れ、高齢になった自分たちの介護を地球人たちにお願いする物語。しかし、後半になると神様たちが地球にやってきた本当の目的が明らかになります。ギャグテイストとシリアステイストが見事に融合した傑作。

 

 

総括ですが、まあいろいろバリエーションに富んだ作品が多いので、どれか気にいるものがあるのではないでしょうか。

 

 

後記

アルカディア』を見ました。

 

アルカディア(字幕版)

アルカディア(字幕版)

  • 発売日: 2018/11/02
  • メディア: Prime Video
 

 

カルト宗教を信奉する村から脱出した兄弟がひょんなことから村に戻ることになるんだけど、その村で不思議なことが起こる・・・・・・という物語。

ストーリーだけ聞くとなかなかおもしろそうなんですけど、実際、村の秘密とか、どういうことだったのかというのがいまいち明かされないまま終わってしまいます。

あと全体的に暗く、B級臭がする。

 

今回はこんなところで。

それでは、お粗末さまでした。