『ロボットには尻尾がない』(ヘンリー・カットナー著)のレビュー
今回紹介するのはこちら。
なにで見つけた本なのかまったく記憶がないのですが、刊行したのが双葉社なのがちょっと珍しいなあと思ったのだけ覚えていました。
こういうSF系の文庫の場合は早川書房とか東京創元社とかが多いのですが、はたして双葉社文庫はほかにどういうのを出しているのだろうかと調べてみました。
まあ、このリンクを見てもらえばわかりますが、ざっくり「時代劇」「ラノベ」「サスペンス」あたりが多いですね。
ターゲット年齢高めな感じです。
さて本書『ロボットには尻尾がない』はアメリカのSF作家ヘンリー・カットナーの連作短編集です。
私もまったく知らない作家でしたが、1915年生まれで1958年に45歳の若さで亡くなっています。
最初はクトゥルフ神話ものの物語を書き、その後、さまざまなペンネームを使い分けながら活躍したようです。
あまり知名度は高くないですが、じつはアメリカSF小説史のなかでは影響力が大きかったようで、当時は新しいSF作家が登場すると「これもカットナーの別名義なんじゃないか」と疑われる"カットナー・シンドローム”みたいなことも起きたということが本書の解説には書かれています(真偽の程はさだかではありません)。
さらに本書の解説によれば、『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』の脚本を手掛けたリイ・ブラケットや、『華氏451度』『火星年代記』などで著名なレイ・ブラッドベリの師匠として、創作術を指南したとも紹介されています。
ちなみに、カットナーはプロットづくりには抜群の才能を発揮しましたが、文章とか表現部分には難があったようで、奥さんのムーアと共同執筆した作品も少なくない、とされています。
ただ、共同執筆を重ねるうちにヘンリーのほうの文章力もアップしていったようで、妻ムーアによれば本書の物語は100%ヘンリーが書いたものであるとされています。
内容に入りましょう。
本書の主人公はサブタイトルになっている天才発明家ギャロウェイ・ギャラガーです。
ただし、ギャラガーはただの天才ではありません。
彼は酒を飲んで酩酊状態になったときだけ天才になり(Gプラスという潜在意識というか別人格が動き出す)、手近なガラクタをつかってとんでもないマシンをつくりだしてしまうのです。
そのため、ギャラガーが酔いからさめると、目の前に使い道のまったくわからない発明品が転がっている状態になり、ギャラガー自身が「こりゃなんだ?」と不思議に思いながらその使い道を探っていく……という感じでほぼすべての物語が進んでいきます。
※ちなみに、ギャロウェイ・ギャラガーという名前は最初から決まっていたわけではなく、一作目に主人公の名前を「ギャロウェイ」にしたのを忘れて二話目に「ギャラガー」と表記してしまったカットナーが、「じゃあギャロウェイ・ギャラガーって名前にするか」というすごいテキトーな感じで決まったみたいです
ちなみに、本書のタイトルは『ロボットには尻尾がない』ですが、そういうタイトルの話は入っていませんし、それを象徴するような内容の話もいっさいありません。
これは原著のタイトル『Robots Have No Tails』を直訳しただけです。
一見するとこれは『Tails(尻尾)』と『Tales(物語)』をひっかけた言葉遊びのようにも思えますが、そういった深い意図はまったくなく、単に単行本化するときに提案したタイトルが片っ端から没になってヤケクソになったカットナーが
「好きなように題名をつけてくれ。なんなら、『ロボットに尻尾はない』とでもしてくれ」
といったところ、それがそのまま採用されたとされます。
このように行き当たりばったりで適当な著者ですが、そうした性格がそのまま反映されたキャラクターが本作の主人公であるギャロウェイ・ギャラガーであるといえるでしょう。
(しかも、そんなにテキトーなくせに物語づくり/発明の天才であるというところもそっくり)
※ちなみに、作中では「クレジット」というのがお金の単位として使われているみたいですが、そのくせ「ドル」という言葉がひょこっと出てきたりする辺りにも、作者のいい加減さが見え隠れします。でもそれも愛嬌のひとつ
さて、本書の魅力は以下の2つにまとめられます。
〈1〉魅力的なキャラクター
〈2〉使い道が不明な謎の発明品
主人公が事程左様にちゃらんぽらんな人間であるだけで十分な気もしますが、それ以外にも「未来からやってきた、弱いオツムで世界征服を企むフワモコの火星人」とか「隙あらば鏡の前に立って自分の美しさに見惚れるナルシストなロボット」などなど、キャラが濃すぎる登場人物たちがぞくぞく登場して物語をひっかきまわしていきます。
そして、ストーリーの中心にいつもいるのが「謎の発明品」なのです。
動力も原理もまったくわからないけれど、すごいことをしでかすので、どちらかというとドラえもんのひみつ道具みたいな感じでしょうか。
それぞれの話について簡単に説明していきます。
『タイム・ロッカー』
酔った拍子に入れたものを物理的に小さくして収納できるロッカーを発明したギャロウェイ。犯罪者の弁護を生業にする悪徳弁護士がロッカーをその安く買いたたき、犯罪の証拠品である債券の隠し場所にしたけれど……という物語。
本書の中では最初から発明品がどういうものなのか、主人公が把握している(ほんとうはちゃんと把握してない)物語で、話のオチは星新一の短編集のような感じもする王道的な結末が待っています。
『世界はわれらのもの』
ギャラガーの家に突然リブラと名乗るうさぎのような見た目のフワモコの生き物がやってきて「世界征服をしにきた」という。遊びに来ていたギャラガーの祖父の話によると、酔った勢いでギャラガーがタイムマシンをつくったところ、未来の火星から彼らがやってきたらしい。その後、リブラの指示でギャラガーが熱線銃をつくると、突如として裏庭に男の死体が出現する……。
本書の中でもっともカオスなストーリーだけど、リブラの言動がとにかくかわいい。
こちらは初期の『うる星やつら』のような雰囲気がある。
『うぬぼれロボット』
ギャラガーの家に男が怒鳴り込んでくる。その男によると、先日、男が抱えているビジネス上の問題を解決するような発明品の開発を依頼したところ、酔っていたギャラガーは快諾して金を受け取ったらしい(すでに記憶も金もない)。しかし、家にいるのは鏡の前でひたすら自分の美しさに見惚れ、屁理屈をこねくり回すロボットだけ。仕方がないのでギャラガーはロボットを引き連れつつ、酔った自分がどうやって自体を解決しようとしたのかを探りに出かける……。
このあとの話でもギャラガーの相棒役みたいな立ち位置になるうぬぼれロボット・ジョーが登場する話。
ジョーはリブラとはまた違う尖ったキャラクターで人をイラつかせる天才。
『Gプラス』
ギャラガーがいつものごとく酔いから覚めると、部屋のなかに大きなガラクタのようなマシンがあり、庭にはとんでもなく大きな穴があいていた。と同時に、家を訪ねてきた警察官が裁判所から召喚状をもってくる。自分の口座の明細を見ると、どうやら、今度は3人の人間からそれぞれ別の悩みを解決する依頼を安請け合いして金だけ受け取っているらしい。果たして自分はどんな依頼を受けて、それに対してなにを発明しようとしていたのか……。
話の流れ自体は前の話『うぬぼれロボット』と似ているし、強烈な新キャラも出てこない(ただし、ABC順で酒を飲みに行くくだりはちょっとおもしろい)、またオチもなんとなく読めてしまうので本書の中では凡作。
『エクス・マキナ』
いつものごとくギャラガーが二日酔いを治すために迎え酒をしようとジョーにビールをもってこさせるが、なぜか飲もうとするたびに酒がこつ然と消えてしまう。ジョーによると、小さな茶色い生き物がササッと飲んでいるという。さらにジョーによると、昨晩は耳の大きな男とギャラガーの祖父がやってきたらしい。ギャラガーが仕方なく部屋の様子を録画していたテープを回したところ、どうやら耳の大きな男から発明品の依頼を受けたようだった。一体今度はギャラガーはなにを発明したのか? なぜ酒が消えるのか? 茶色い小さな生き物とは?
依頼人パターンが3つ目になるとちょっとマンネリ化してくるけれども、茶色い小さな生き物の正体にはちょっと笑った。
タイトルの回収は最後だけれども、ここはいまいち。
「酔っているときだけ天才発明家になる」というエッジのききすぎたキャラ設定のため、どうしても話が続いていくとシチュエーションがマンネリ化してしまうのが玉に瑕ではあるけれど、それにつけても設定がおもしろいので一読の価値はあるSF短編集でした。