『完全版 無税入門』(只野範男・著)のレビュー
どの本だったかは忘れましたが、先日Amazonでとある本のレビューをザッ見ていて、「著者の主義主張が入っていてよくない」というような書き込みを見ました。
私からすれば、著者の主義主張がまったく感じられない本なんて読む必要があるんか?……などと思ってしまいますが、まあ本に求めるものは人それぞれです。
しかい、じゃあ「著者のキャラが文章に出る」っていうのは具体的にどういうことなんでしょうか。
これは、なかなか説明するのが難しいです。
でも、ちょっとした言い回しや言葉の選び方、具体例の挙げ方といった文章の端々に「その人らしさ」というのは絶対に現れてくるものなのです。
あとは、「余計な一言」ですね。
別に必要ではない、最後の余計な一言に、びっくりするくらい著者の人間性みたいなものを感じ取れたりします。
というわけで今回紹介するこの本なのですが
著者のキャラクターが炸裂しているおもしろい本でした。
税金の本なので専門用語とか小難しい話がどうしても出てきてしまうのですが、会社員なら読んでおいて損はない一冊ですね。
著者のキャラについて説明する前に、まずはこの本の主張について説明しておきます。
著者の名前は只野範男(ただの・のりお)です。
これは明らかに「タダ乗り」をもじったペンネームです。
自分は税金を払わないのに、税金によって成り立っている社会の恩恵を受けているような人を「フリーライダー」といいます。
要するに税金を極限まで払わずに日本で生活している自分を自虐した名前であるわけです。
実際、只野氏はサラリーマンのかたわら、副業としてイラストレーターの仕事で年間50~100万円くらい稼いでいましたが、日常生活のあらゆるものをイラストレーターの仕事の経費として税務署に認めてもらい、赤字にしていたといいます。
イラストレーターの仕事が赤字だとなにがいいのか。
イラストレーターの仕事の赤字と、会社からもらう給与所得を合算して、自分の所得を減らすことができるのです。
この結果、只野氏は「所得ゼロ」になり、サラリーマン時代は所得税も住民税も払わないで生活していたということですね。
ただし、なんでもいいから副業をして赤字にすればいいというわけではありません。
会社員として得るのは「給与所得」です。
一方、副業で得た収入は「雑所得」か「事業所得」になります。
雑所得では、給与所得と合算して損益通算することができないのです。
つまり、雑所得でどれだけ費用を計上して副業を赤字にしても、本業の収入と相殺して所得税を減らすことはできないってことですね。
大事なのは、自分の副業が「事業所得」であると税務署に認めさせること。
端的にいえば、本書はそのための方法が書かれています。
その具体的な方法についてはぜひ本書を読んでみてもらいたいのですが、ここではあえて内容には踏み込まず、著者である只野範男さんの文体について分析してみましょう。
もっとも著者らしさが現れているなあと感じたのは、次の箇所でした。
この計算式でわかるように、売り上げが同じなら、必要経費がいちばん多くかかった人の課税所得がいちばん少なくなるので、税金もいちばん安くなります。
節税の最強かつ簡単な方法は、レシートなどの証拠物を付けて、必要経費を積み上げることです。当然ですが、友だち、知人からレシートを調達するのは、違法行為です。参考までにいうと、時効は5年です。
この文章を読んでみて、どう感じるでしょうか。
私はこれだけでもけっこう個性的な文章だなあと感じます。
どのあたりが個性的か、解説していきます。
まずこの文章は「です・ます調」で書かれています。
ふつう、「です・ます調」で書かれた文章は「だ・である調」で書かれた文章よりもやわらかい印象を与えます。
ただ、先の文章を読んで「この著者はやさしそうな人だ」と感じる人はあまりいないんじゃないかなと思います。
文章が短くて断定的なものの言い方をしているからです。
いいか悪いかは別として、けっこう自分本意な文章なんですね。
それがよく現れているのが「この計算式でわかるように」という部分と「当然ですが、」という部分です。
「これでわかってるよね?」というスタンスが透けて見えます。
また、「いちばん」「最強」といった断定的な修飾語も特徴的ですね。
「いちばん」なんて、1つの文章で3回も使っています。
こういう言葉って、意外と使うのに勇気が必要だったりします。
とくにこの本が扱っているのは「税金」という、かなり正確性が求められるというか、読者からイチャモンをつけられやすいテーマです。
たとえば「節税の最強かつ簡単な方法」だなんて、そう簡単には言えません。
とりわけ、この著者は税理士でも公認会計士でもないのです。
でも、強い言葉でさらっといってしまう部分に、著者の揺るぎない自信みたいなものを垣間見ることができるわけです。
なお、勘違いしてはいけないのですが、上記の2点のような特徴が「悪い」わけではありません。
実際、この本は人気を博して売れています。
大事なのは、こういった文章の特徴が著者の「自信」をさりげなーーく読者に植え付け、文章に説得力があるように感じさせるのに役立っているという点です。
そしてこれが極めつけなのですが、最大の特徴は最後の一文ですね。
「参考までにいうと、時効は5年です。」
この文章、別に書かなくてもいいんです。
でも、この一文を付け加えるかどうかによって、この段落の文章の述べることの意味がまったく違うものに変わってしまいます。
端的に言うと、この一文を付け加えることによって、
「友だちや知人からレシートを調達して必要経費を積み上げるのは違法行為だけど、5年間バレなければ時効になるから、やるんだったらバレないようにやってね」
というふうに受け取ることもできる……ということです。
この一文があることによって、著者の頭のよさというか、狡猾さがわかります。
そしてこれこそが著者らしさであり、私はこういう文章がけっこう好きなのです。
ちなみに、これ次のページもなかなか特徴的な文章です。
当然ですが、あらゆる領収書が経費で落ちるわけではありません。経費で落ちるレシートと落ちないレシートがあるのです。
「落ちないレシート」が混在していることが発覚すると、税務署はあらゆるレシートに疑惑の目を向けます。
担当者の追求に対し、理の通った説明ができないと、「あまり調子に乗るなよ」と追徴金というお灸を据えられるかもしれません。
では、どのように必要経費を計上すればいいのでしょう?
経費計上するかどうか、強く迷うものは外し、軽く逡巡するものは入れる、といった「自分なりの選別基準」をつくっていれば、作業がスイスイはかどります。
税務署に「これは経費として認められない」と突っぱねられれば、そのときに外せばいいのです。
「なぜこれが経費なの?」と訊かれて、「わかりません」は最悪の答え。一気に「いい加減な経費計上をしている」と税務署に不審に思われ、すべての経費に疑いの網がかけられてしまいます。
もういちいち説明しませんが、前の引用部分から引き続き、言葉選びの端々、文章のリズムから、いかんなく著者らしさが表現されていますね。
文章で自分のキャラクターを表現しようとするとき、べつに難しい言葉や、珍しい表現なんて使う必要はないのです。
ちょっとした部分の積み重ねが、読んでいる人にいつの間にか「その人らしさ」を植え付けていくわけです。
この『無税入門』は中身ももちろんおもしろいのですが、こういった著者の独特なキャラクターが文章の端々から感じられるということがなかなか楽しい一冊でした。
後記
「二ノ国:Cross Worlds」をやってみました。
これはいわゆるMMORPGというやつで、ゲームをプレイしていると、フィールド上でなんやかんややっているほかのプレイヤーがたくさんいる世界です。
知り合いと協力してやってもいいし、一人でコツコツやっててもいいというやつですね。
プレイヤーは5つの職業(キャラクター)から1人を選択します。
私はエンジニア(回復補助キャラ)を選びました。
ガチャは「装備」「オトモモンスター(イマージェン)」「コスチューム」の3つがあります。
ガチャはけっこう無料で回す機会が多いですね。
さてプレイしてみた感想ですが、設計がうまいというか、とにかく「プレイを中断させないようにする」ための工夫が詰め込まれています。
人間ってタスクがあると達成したくなる習性があるというか、「やり残していることがある」とそれをクリアにしてしないと気持ち悪く感じてしまいがちです。
このゲームの場合、デイリーのタスクとか、1日で階数が制限されているクエストとかがものすごくたくさん用意されています。
それらを1個ずつクリアしていこうとすると、それだけで2~3時間はあっという間にかかってしまうんですね。
しかも、それらをクリアするごとにちょっとずつ報奨というか、アイテムとかお金がもらえたりするから、やっておかないと損みたいな気持ちにさせてきます。
私はこのゲームを3日ほどやってみて、「これはやり続けたら生活がダメになるやつだ」と気付き、サッサとアンインストールしました。
ガチャでまあまあいい装備が手に入ったりもしたのですが、もうやらないです。
これはもう何年もいわれていることですが、いまのビジネスは消費者の「可処分所得(自由に使えるお金)」ではなく「可処分時間(自由に使える時間)」をどのくらいゲットできるかを大事にしています。
こういうアプリゲームなんかは、どれだけ長時間プレイしてくれるかによって課金される可能性が変わると思うので、できるだけプレイヤーを長く拘束しておきたいと考えるものなんですね。
もちろん、プレイしていても課金しなければ出ていくお金はゼロ円なわけですが、むしろ大事なのはお金よりも時間なので、こういう巧妙なゲームには注意しなければならないなあと思いを新たにした次第でした。
今回はこんなところで。
それでは、お粗末さまでした。