本で死ぬ ver2.0

基本的には本の話。でもたまに別の話。

『一人の力で日経平均を動かせる男の投資哲学』(cis著)のレビュー

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私は、すべての活動は「投資」であると思っています。

 

たとえば、私が仕事の帰りにコンビニで、「青汁アイス」(税抜120円)という新商品を見つけて、買ったケースで考えてみます。

このとき、私は「この青汁アイスは120円に相当する価値がありそうだ」と思ったから、買うという行動に出たわけです。

つまり、私は青汁アイスに120円の投資をしたとも言えるわけですよね。

 

もし、青汁アイスがすごくおいしくて、「150円でも買っちゃうな」と私が感じたとすれば、この投資は成功です。

でも、青汁アイスが死ぬほどまずくて、「こんなのタダでもいらない」と思ったら、その投資に失敗したというわけです。

 

これは私の仕事である出版も同じです。

新しい本を作って発売するということは、「この本はこれだけ売れそうだ」という予測をして、そこに会社のお金を使って投資しているということです。

たとえばその本をつくるのに、さまざまな経費等もひっくるめて500万円かかるとします。

その場合、その本を発売して、500万円以上の収益があれば会社としては投資に成功したことになるし、500万円に満たなければ失敗したことになります。

 

お金を出していなくても、すべてのことは「投資」になります。

これはたしか、けらえいこさんのエッセーマンガにあった話だったと思うのですが、

「道に落ちている一円玉を拾うためには、1円以上のエネルギーを消費してしまうから、一円玉が落ちているのを発見しても拾わないほうがおトク」

という理論がありました。

 

セキララ結婚生活

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たたかうお嫁さま

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いっしょにスーパー

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7年目のセキララ結婚生活

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※このあたりのどこかに一円玉のエピソードがあったはずです

 

体を動かしたり、頭を働かせたりすればエネルギーを使います。

それどころか、なにも活動していなくても、私たちは「時間」という限りある資源を消耗しています。

つまり私たちは毎日、エネルギーや時間という資源を投資して、快楽・満足を最大化させようとしているわけです。

 

あるいは、もう少し過激な言い方をすれば「すべての活動はギャンブルである」という言い方もできるかもしれません。

青汁アイスを買うのもギャンブルだし、新しい本を出版するのも出版社にとってはギャンブル、一円玉をひろうか拾わないかの意思決定もギャンブルです。

(もしかしたら、その一円玉がじつは1万円くらいの価値があるすごいレアな一円玉だった、という可能性もゼロではないですから)

 

ここでいうギャンブルとは、「損するか得するかわからない行為」のことだと考えてください。

人生におけるすべての意思決定は、それがプラスになるのかマイナスになるのかわかりません。

でも、絶対にどれかを選ばなければならない。

(「どれも選ばない」というのも、選択肢の1つにすぎません)

 

となると、私たちは、じつは思っている以上に勝ち続けている投資家やギャンブラーの人たちから学ぶことが多いのではないか、ということがいえるのです。

もちろん、投資や各種ギャンブル(カジノや麻雀、パチンコなど)は独自のルールが敷かれている世界で、細かく見ていくと、勝つための方程式が異なることは事実です。

ただ、その根底にあるセオリーや、マインドの部分を見てみるとけっこう示唆に富んでいて、勉強になります。

 

ということで前置きが長くなりましたが、今回紹介するのはこちらの一冊です。

 

 

「一人の力で日経平均を動かせる男」とはまたすごいパワーワードですよね。

 

著者のcis(シス)氏は本名非公開、メディアに顔出しもしていない個人投資家です。

2011年、かつて放送されていたフジテレビお昼のバラエティ番組『笑っていいとも』に出演されたことがあるようですが、そのときも顔は隠していたとのことです。

おもに掲示板サイト「2ちゃんねる」で積極的に活動・発言されている方のようなので、ねらーの人たちにはかなり名前が知られています。

 

帯にもでかでかと書かれていますが、個人資産は230億円。

アフリカのガンビア共和国の国家予算と同じくらいな感じです。

もちろん、230億円をつねに動かしているわけではないですが、それでも個人トレーダーとして数億円レベルの取引を行っているわけですから、cis氏の取引で実際に日経平均に影響を与えることも多いようです。

 

ちなみに日経平均というのは「日経平均株価」のことです。

勘違いしている人もけっこういるのですが、これは東証一部に上場している企業のうち、有力とされる225社から算定されています。

すべての株式の平均というわけではありません。

けっこう、母数は小さいです。

東証一部に上場している全銘柄から算出されるのは「東証株価指数TOPIX)」です。

 

さて、タイトルに「投資哲学」とあるように、本書は株式投資のハウツー本、マニュアル本ではありません。

もっといえば、読者に投資を勧めているわけでもありません。

cis氏がこれまでどのようなことを考えて株式投資をしてきたのか、ふだんどんな暮らしをしているのか、どんな考え方を持っているのかを赤裸々につづったエッセーのような感じだと考えていいと思います。

そもそも、一般の人はcis氏のような投資はできないと思います。

たとえばこんなエピソード。

 

たとえば専業トレーダーになって2年めのゴールデンウィークに妻と一緒に旅行したことがあったけれど、ゴールデンウィークの途中に平日が2日あって、その日にわざわざ相場をやるために東京に戻ってきていた。乗り物酔いするからなるべく飛行機なんて乗りたくないのに、1日だけ相場をやるために九州から東京に戻って、すぐまた九州に戻る。そのあいだ妻には一人で観光してもらっていたりした。

目の前をマンモスがいっぱい通っていくのに逃すわけにはいかないよ、みたいな感覚。

その年は20億円ほど稼いだから、時給にしたら100万円は軽く超えている。そうなると、どうしても休めなくなる。

 

冷静に読むと、プロフェッショナルというよりも、「株式投資依存症」の患者みたいですね。

実際、このくらいやっていたときには病院の検査で白血球が異常値を示したり、抜け毛がすごくなったり、お腹に水が溜まって胃がんの疑いをかけられたり、年間200回くらいお腹を下したりしていたそうです。

こんなのマネしようと思ってもできることではないし、マネしたいとか、羨ましいという気持ちにもならなくなってくるように思います。

 

本書ではこんなような感じで、あまり自分のことを美化せず、年間数十億円を稼ぐトレーダーがどんな毎日を送っているのかが垣間見えます。

たとえば

 

・たまたま気に入った青りんごゼリーがおいしかったので、製造元である寿スピリッツとい会社の株を買って2ちゃんねるで「寿スピリッツいいぞ」と投稿し、翌日株価をストップ高にさせる

・家の近くにコンビニがなかったので、近くのビルを買ってコンビニを入れたら楽なんじゃないかと考え、ビルを購入する

スマホゲーム「リネージュ2 レボリューション」に9000万円課金する

・中3のころにはパチンコを攻略し、友達に打ち子(いい台を見つけて自分の代わりにパチンコをさせる)させて高校生のうちに200万円を貯める

・「1時間後に銀座に来れる人募集」と掲示板にオフ会の告知をして80人以上集まり、飲食場所代に300万円くらい払う

・「1億2000万円持ってます、彼女募集中」と掲示板に投稿して3000通以上のメールに目を通し、週3~4人のペースで会い続ける(いちいちセックスするとつかれるから本当にご飯を食べるだけ)

ライブドアショックのときに失敗して1日に5億円の損を出したあと、2ちゃんねるに「おっすおら損五億」と書き込んでから麻雀をしにいく

 

こんな感じのエピソードがあります。

 

本の持つ魅力はいろいろあると思いますが、フィクションでもノンフィクションでも、自分がなかなか触れられない違う世界を垣間見れるのもあります。

本書はまさにそんな魅力に満ちていて、「なるほど、これが1日で数億円を稼いだりする男の生活なのか」というのを覗き見することができるのです。

 

さて、cis氏の投資の手法はとても凡人が真似できるものではありませんが、冒頭で長々と書いたように、私たちの日常生活のすべてが投資であると考えると、このcis氏の投資哲学から私たちが学べることはあります。

私の場合、もっとも大きな学びになったのは第1章にあるこの言葉です。

「上がり続けるものは上がり、下がり続けるものは下がる」

これは、cis氏が「何かアドバイスをください」とお願いされたとき、言うことが多い言葉だそうです。

 

投資の用語で「順張り」「逆張り」というのがあります。

順張りというのは、株価が上がっている会社の株式などを買うことです。

逆張りというのは、株価が下がっている会社の株式などを買うことです。

cis氏のアドバイスはいたってシンプルで、「逆張りをするな、順張りだけしろ」ということですね。

これ、すごく正しいと思うのですが、なかなか実践できる人はいないです。

私も最近になってようやく、順張りの正しさを理解できるようになってきました。

 

たとえば本の企画をつくるとき、以前の私だったら

・これまでにない本をつくろう

・まだ人気はないけど、新しいムーブメントを作れる本にしよう

・いまはこういう本が売れているから、それと真逆のカウンターカルチャー的な位置を狙おう

・いまは全然人気がないけど、この人はきっとこれから大物になるだろう

・いまの潮流から外れた本をつくろう

ということを考えてしまいがちでした。

これって全部、「逆張り」的な発送なんですよね。

みんながいまこうしているから、いまのメインストリームがこうなっているから、それと自分のやることを差別化させようという意識が働いています。

 

これを「順張り」的な発想に考えるなら

・売れている本をマネしよう

・いまのムーブメントに乗っかる本をつくろう

・いま人気がある著者さんに頼もう

ということになります。

本の文化的な価値とか、その本を作って楽しいかということは脇においておけば、明らかに、こっちの本のほうが売れます。

 

私たちはなんとなく「ブームに乗っかるのはかっこ悪い」「売れているものをマネするのは節操がない」「人と同じことをやってもつまらない」と考えて、なにか自分のオリジナリティを押し出そうとするのですが、そういうことをするから、商業的にうまく行かなくなってしまうわけです。

タピオカが流行っているならタピオカ店を開けばいいし、マンガを描くなら『鬼滅の刃』っぽい作品を描けばいいし、ライトノベル作家としてデビューしたいならとりあえず異世界転生モノを書けばいいのです。

 

……とはいえ、やっぱり順張りだけだと「おもしろくない」というのも事実ですね。

「順張り」の本だけ淡々と作るのが仕事であれば、私も編集者をやめているとおもいます。

問題はバランスです。

逆張りの売れない本ばっかりつくっていたら会社をクビになってしまいますし、順張りの本ばかりつくっていたらむなしくなる。

だから、順張りの本と逆張りの本をちょうどいい塩梅で作ればいいわけです。

個人的には順張りと逆張りで8:2くらいがいいんじゃないかなと思っています。

気を抜くとすぐに逆張りにしたくなるので。

 

あとは、見た目とか大部分は順張りにするけれど、その中に少しだけ逆張りの部分を入れるのもひとつのテクニックだと思います。

売れるか売れないかは客観的な事実なので自分ではコントロールしにくいところですが、「おもしろくない」とか「むなしい」というのは自分のメンタルの問題なので、自分で以下用にもコントロールできます。

要するに、逆張りの部分は自己満足でいいわけです。

 

こういう側面はcis氏も持っているように思います。

cis氏は株式投資を通じて自分の好きな会社を応援したいとか、社会を良くしたいとか、株主優待がほしいとか、そういう気持ちは基本的には持っていません。

ただ、株を始めた最初のころに買った松屋の株はいまも持ち続けていて、優待券を使ってたまに牛めしを食べたりするそうです。

また、旅先でたまたま見つけて気に入った青りんごゼリーがあったのですが、鳥取自体が過疎っていて大丈夫かとおもったので、そのメーカーさんの株を買って2ちゃんねるに投稿し、翌日にストップ高にもっていったこともあるみたいです。

あとは、ご自身が働いていた叔父さんの会社の取引先である会社の株も、「叔父さんの会社への注文を切らないでね」という情から持ち続けていると書いてありました。

人間誰しも、そんなふうにしてメンタル的なところのバランスを取っているのではないかなと思います。

 

本書は具体的な投資のエピソードとかロジック、ギャンブルの話もいろいろ書かれていますが、そういうちょっと小難しいところは適当に読み流しても、一冊の本としてなかなかおもしろいものだと思います。

 

後記

 

べつにKADOKAWAさんの回し者ではないですが、いま、私が本のレビューを投稿している「読書メーター」というサイトで、こういうキャンペーンをやっています。

 

 

読書メーターKADOKAWAさんの本のレビューを書いたときに、最後に「#ニコカド2020」と書いておくと、100人に5000円分の「図書カードNEXTネットギフト」という、要するに電子図書カードがもらえるというキャンペーンです。

ただ、私がざざっと見た感じ、あんまり認知されていないのか、それとも面倒くさいのか、意外と読書メーターのユーザーの皆さんはこのハッシュタグつけてないなあという感じがします。

ということは、もしかしたら当選倍率が意外と低く、当たりやすいかもしれません。

(とはいっても、キャンペーン期間が2021年1月10日までとめっちゃ長いので、なんだかんだ倍率は高くなりそうですけど)

 

ちなみに今回紹介した『一人の力で日経平均を動かせる男の投資哲学』も版元はKADOKAWAさんなので、私はしっかりハッシュタグをつけて投稿しました。

せっかく5000円もらえるかもしれないなら、やっておいて損はないでしょう。

230億円と比べるとおそろしくスケールの小さな話で、今日は終わりにします。

 

今回はこんなところで。

それでは、お粗末さまでした。