『コンテナ物語』(マルク・レビンソン著)のレビュー
世界を一変させるテクノロジーの誕生はたびたび起きてきました。
たとえば活版印刷、自動車、インターネットなどですね。
ただ、じつはそうしたイノベーションで大きな役割を果たすのは、そうした新しい技術そのものを生み出した人というよりも、それを広く社会に一般化させた人のほうなのかもしれません。
というわけで、今回紹介するのはこちら。
コンテナリゼーションがグローバル・サプライ・チェーンを大幅に再編し、物流における大幅規制緩和の誘引となり、北大西洋が中心だった世界貿易に東アジアを組み込むことになるとは、誰一人として想像していなかったのである。コンテナリゼーションが始まった当初から、港湾労働者の仕事を奪うことは予想されていた。だが、港の近くに立地することにメリットがあった製造業や卸売業で大量の労働者が職を失うとまでは、誰も予想していなかった。そしてコンテナの可能性を理解していなかった政治指導者、組合運動家、企業経営者は、見込みちがいをしでかしたことの高い代償を支払う羽目に陥る。アメリカの鉄道は一九六〇年代と七〇年代にコンテナリゼーションに頑強に抵抗した。コンテナは、鉄道の伝統ある有蓋貨車の仕事をなくしてしまうだろうと考えたからである。二一世紀には自分たちが年間一四〇〇万個ものコンテナを運ぶようになるとは想像できなかったのだ。また多くの大手海運会社は、最後はマクリーン自身の会社も含め、破綻の憂き目に遭う。コンテナ・ビジネスがどう発展するか、見誤ったことが原因だった。それに海運業界の誰一人として、アメリカの海運業がアジアやヨーロッパの企業に支配される日が来ると予想していなかったことは確実である。政府による保護と規制を受けて発展し、アメリカ人船員とアメリカ籍船を使っていた純アメリカ製の海運会社は、急激に変化する世界で生き残れなかった。
コンテナは地味な発明のようにも思えますが、まさに世界のロジスティクスを変えるような画期的な手法でした。
現代では、たとえばある商品について、原材料はタイで作って、それを中国で組み立てて、最後にアメリカで発売するなんていうことが普通に行われていますが、こうしたグローバリゼーションが可能になったのも、コンテナによって非常に安価に船で運ぶことができるようになったからです。
いくら発展途上国で作ったほうが人件費が安く済むといっても、輸送コストが高かったら企業からすれば割に合わないわけですから。
というわけで、本書ではそんなコンテナがいかに世界を変えていったのか、ということが描かれています。
ただ、冒頭でも述べたように、イノベーションで難しいのは技術の開発よりも、むしろそれを広く一般化させることでしょう。
そのため、本書で多くのページを割いて取り上げているのは、マルコム・マクリーンという実業家です。
彼はコンテナを発明したわけではありませんが、トラックの運送会社から海運事業に乗り出し、コンテナを普及させたのです。
『コンテナ物語』に対する反応は多くの点で驚かされることばかりだったが、中でも予想外だったのは、多くの読者がイノベーションについて型にはまった見方をしていることだ。トラック運転手だったマルコム・マクリーンが最初のコンテナ船の投入にこぎつけるまでの大胆な道のりは、第三章にくわしく書いた。そのマクリーンはのちに、どうやってコンテナを思いついたのか、とよく質問されたものである。すると彼は、一九三七年末にジャージー・シティの埠頭で荷下ろしの順番待ちをしているとき、そうだ、トラックごと船に積んでしまえばいいと閃いたのだと答えている。もしこれがほんとうだとすると、老朽タンカーを買って三三フィート・コンテナを積めるよう改造する決断は、それから一八年も経ってから下されたことになる。
この「閃きの瞬間」を私は『コンテナ物語』では取り上げていない。そんな瞬間はなかったと考えたからだ。もちろん証拠はないが、コンテナ輸送で成功を収めて長い年月が経ってから興味津々で質問されたとき、アイデアマンのマクリーンはひょいと思いついたのではないだろうか。
(中略)
ところがたいていの人は、埠頭での閃きといったエピソードが大好きだ。ニュートンの前にリンゴが落ちてきて万有引力の法則が閃いた、といった輝かしい逸話はたしかに感動的ではある――たとえ作り話だったと後日判明したとしても。これに対して、すでに実用化されていたものを手直しし、どうやって利益を上げるか手探りし、せっかくのイノベーションがなかなか普及せずじりじりとする、といった話はまったく魅力的ではない。みんなヒーローが大好きなのである。だが技術の進化は複雑なプロセスであり、一人の人間の英雄的な努力だけでやり遂げられることはめったにない。
ここで重要なポイントは2つ。
・成功した人の話(ストーリー)は当てにならない
・イノベーションはだれかすごい1人(ヒーロー)の力だけではなし得ない
本書では政府の手厚い保護に守られた、物流業界の既得権益者などが強固にコンテナ船やコンテナ船を受け入れるための港の整備などに反対します。
この本は新技術開発の物語ではなく、新技術が世間に根付くという、ほんとうの意味でのイノベーションの過程が詳細に綴られた一冊なのです。
その意味で、引用した文章のように鮮やかなヒーロー物語を期待すると肩透かしを食らうかもしれませんが、実際に新技術は世の中にどうやって浸透し、どのように変わっていくのかという点を知ることができる楽しい本ではあります。
そして、世界が変わるときには、多くの人が思っているよりもすばやく変わるものなのかもしれません。
とりわけ、ネット技術が発達した現在では、もっともっと速く。
後記
『つぐもも』のアニメが始まったので読みました。
もっと『鬼滅の刃』っぽい王道の少年マンガなのかなと思ったら、わりとハーレム系ですね。だからこそ、『鬼滅の刃』にはなりえないのかもしれませんが。
エロ要素というのはマンガにおいて手っ取り早く人気を勝ち取る有効な方法のひとつだと思うのですが、一度その方法を選択すると「一般化」しないというデメリットを背負うことになるのは否めないのかもしれません。
今回はこんなところで。
それでは、お粗末さまでした。