本で死ぬ ver2.0

基本的には本の話。でもたまに別の話。

あなたも教祖になろう! ~『完全教祖マニュアル』のレビュー

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ちょっと古いが、2015年にマイナビが行った「うさんくさい職業ランキング」がある。それによると、ワースト10の結果がこちら。

 

もくじ

 

第1位 ○○コンサルタント

第2位 探偵

第3位 占い師

第4位 ハイパーメディアクリエイター

第5位 キャンドルアーティスト

第6位 政治家

第7位 ○○ソムリエ

第8位 傭兵

第9位 YouTuber

第10位 自称○○

 

不思議なのはここに「新興宗教の教祖」が入っていない点だが、よくよく考えれば宗教団体は営利団体ではなく、その代表者である教祖も働いているわけではないので、「職業」というくくりには入らないのかもしれない。

 

完全教祖マニュアル

 

そんなこんなで今回紹介する本がこちら。

 

完全教祖マニュアル (ちくま新書)

完全教祖マニュアル (ちくま新書)

 

 

著者のひとりである架神恭介氏はわりと好きな作家さんで、キリスト教を皮肉りながらわかりやすく伝えてくれる本を数冊出している。

個人的には『よいこの君主論』がおすすめだ。(いつのまにかコミカライズもしていた)

 

よいこの君主論 (ちくま文庫)

よいこの君主論 (ちくま文庫)

 
よいこの君主論(1) (ビッグガンガンコミックス)

よいこの君主論(1) (ビッグガンガンコミックス)

 

 

教祖はなにもしない

 

さて本書は架神氏のほかの本よりもっと実用的な一冊となっている。なにしろ新興宗教の教祖となり、「人々をハッピーにする方法」を伝授してくれているからだ。

じゃあ教祖とは何をすればいいのか?

その答えがこれだ。

 

企業が愛や平和を公言してもどこか噓臭さが漂いますよね。綺麗事だけで生産活動はできませんから。たとえば、農業だって畑を耕せば土の中にいた生き物を殺してしまうかもしれません。「おいおい、そんなこと言ったら何もできないじゃないか」と思うでしょうが、そうです、何もしないのが教祖なのです。

 

何もしないのが教祖。

しかし本当にそれでいいのか?

いいのだ。

 

あなたがある程度教祖として大成した後は、ふらふらしたり、適当なことを言ったりするだけでも、それが教義となるので大丈夫です。あなたの行為に隠された深い真意は弟子たちが一生懸命考えてくれます。そうなればあなたは自然体で生きていくだけで良いのですから楽ちんですね。釈迦もお腹が痛くて寝てるだけで、その姿が大仏になったくらいです。また、あなたの言ってることが前後で少々食い違っていても気にしないで下さい。これも弟子たちが適当にアレンジして 辻褄 を合わせてくれます。

 

全編がこのような感じで、新興宗教および既存の宗教を皮肉りながら、読者をおちょくるような調子で進んでいく。

私はこういうノリが大好きだ。

 

オンラインサロンは現代の新興宗教なのか

 

ということで、本書では次のようなことを丁寧に教えてくれる。

・教義の作り方

・神の作り方

・大衆への迎合方法

偶像崇拝のやり方

・信徒の教育方法

・コミュニティの作り方

・甘い汁の吸い方

・後世への名の残し方

 

おもしろいのは、コミュニティの作り方と、ニーズの作り方の部分。

最近はネット上の著名人が「オンラインサロン」という月額制のコミュニティをつくることがトレンドになっている。

 

たとえばホリエモンこと堀江貴文さんは、DMMサロンで1700人を超える会員を獲得している。

月額10,800円なのに、である。

 

まあオンラインサロンを宗教と表現すると語弊がある気がしなくもないが、本書を読んで「宗教とは何か」を考えてみると、ビジネスというより宗教に近いコミュニティのように思えてくる。

 

ニーズがないところにニーズをつくる 

 

コミュニティを作る場合でもニーズを作る場合でも、人々の「不」の感情をキャッチし、取り込む必要がある。

「不」の感情というのは

・不安

・不満

・不足

などだ。

基本的には自分に近しい人間、社会的弱者、社会カーストの底辺当たりにいる人間を狙うのが定石となる。

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画像は本書より引用

 

ニーズの作り方なんて、普通にビジネスで商品やサービスを作るときに参考になる。

 

たとえば、立派な社会人が葬式に手ぶらで現れれば、「なんだあいつ、数珠持ってねえぜ」「故人に対する追悼の念が感じられないぜ」とナメられてしまうことでしょう。現に日本社会がこういうコミュニティなのですから、これはこれで需要はちゃんと生まれているわけです。筆者はこのような需要のあり方を決して否定しません。このような形もまた、れっきとした日本文化であり、私たちの伝統であるからです。

 

この文章の場合は「社会的ステータス」という購買意欲を刺激しているが、現代の日本社会では本当に必要なものはすべて満たされているので、基本的に衣食住に欠かせないもの以外は「不要なもの」であるといえる。

 

本なんてその代名詞的なものだろう。

本なんてあってもなくても、別に誰も困らないものである。なくても死にゃせん。

しかし、出版社に勤める人びとは本を売らないと飯をくいっぱぐれるので、あの手この手を使って「この本を読まないとやばい」というものを作り出すように苦心するのである。

 

とまあこのように、教祖のなり方を学びながら同時にマーケティングの手法まで学べる最高な一冊なので、そろそろ教祖になって崇め奉られたいと考えている人は一度読んでみてはどうだろうか。

 

完全教祖マニュアル (ちくま新書)

完全教祖マニュアル (ちくま新書)

 

 

今日の一首

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34.

 誰をかも しる人にせむ 高砂

松も昔の 友ならなくに

藤原興風

 

現代語訳:

(長生きをした)私は誰を友人とすればいいのだろうか

(長寿で有名な)高砂の松の木でさえ昔からの私の友ではないものを。

 

解説:

年を重ねたせいで昔からの友人たちをなくし、感じている寂しさを、長寿や縁起物の象徴である松の木と比べながら、人間のはかなさや孤独をしみじみとうたったもの。ちなみに、輿風は三十六歌仙のひとり。

 

後記

Amazonプライムで『デッドプール2』を見た。

 

デッドプール2 (字幕版)

デッドプール2 (字幕版)

 

 

今回は未来からやってきた男と、炎の力を持った少年の事件。デッドプールは冒頭で恋人を殺されてしまい、できるだけ「いい子」になろうとしているので、前作よりもハチャメチャ度合いはおとなしめな印象。

 

ちなみに、デッドプールが独自に結成したヒーロー組織「X-フォース」のメンバーの一人で、常に透明かつ一切喋らないのでいるのかいないのかよくわからないメンバー「バニッシャー」はブラッド・ピットが演じていて、一瞬だけ姿が見えるらしい。

 

まあ、おとなしめとはいえ、えぐいシーンはあるし、下品な言葉遣いが多いのであまり子どもに見せられる作品ではないが、なんだかんだちゃんと倫理的でハッピーエンドにしてくれるのはハリウッドクオリティ。安定感がある。

 

というわけで今回はこんなところで。

それでは、お粗末様でした。