極論と認識して吸収すること~『10年後の仕事図鑑』のレビュー~
おそらく、いま30代の人たちはいちばん将来に焦りを感じているのではないかと思う。
もくじ
今後、おそらく数十年の期間で、日本社会はこれまでとは大きく異なる形になる。現在の30代が将来も働くためにはその流れに乗らざるを得ないし、もっと先のことを考えると、十中八九「定年」という概念は消失するだろう。
上の世代が参考にならない社会で
これまで、基本的には会社の上司がロールモデルとして機能していた。上司と同じことをやっていれば、上司のような年齢になることには同じような生き方ができていた。
しかし、今やその状況は崩壊し、職場の上司をまねしても同じような待遇はまったく期待できないし、働き方は参考にならない……ことを多くの30代が薄らぼんやりと気づき始めている。だからこそ、既存の社会通念にとらわれない「新しい働き方」「新しい社会の在り方」を魅力的に感じるのだろう。
(もちろん私も30代なので、そのように魅力を感じてしまう当事者の一人である)
さて本書は、その界隈で熱い支持を集めている2人の思想家がタッグを組んで作った著作だ。破竹の勢いで売れている。
最近の新しい労働哲学を簡潔にまとめた良書
これにはもちろん、著者がビッグネームであるということは間違いないのだが、それだけではなく、本がわりと丁寧に作りこまれていることも影響しているはずだ。
いわば、本書はここ最近いろいろと出版されてきた「新しい働き方」「新しい社会の在り方」「新しいテクノロジー」をわかりやすく、包括的にまとめた本だと考えてもらえばいい。本書に登場するキーワードこそが、おそらく将来を定めるキーワードだし、たぶん30代にとってホットなワードなのだ。
人工知能 / ベーシックインカム / 信用経済 / 音声認識 / ワーク・アズ・ライフ / アート / 遊び / ドローン / 情報メタボ / シェア
仕事=お金を稼ぐ行為の終焉
本書の根底に通じているメッセージを端的に表現するなら「あなたが興味のあることをやりなさい」ということだ。
一番大きなパラダイムシフトは、「仕事=やりたくないけど金銭を得るためにやること」から「仕事=お金を出してでも時間と労力をかけてやりたいこと」という価値観の転換なのだろう。
だからこそ、いま「やりたくもないこと」にかけている時間を極力減らし、「やりたいこと」を見出してそれに時間をかけ、最終的にはその「やりたいこと」に価値をつけていくことが大切だと述べられている。
このことは、こちらの本でも書かれている。
これらの本に書いてあることを信じすぎるのも気持ち悪い
もちろん、本書や、それ以外に最近数多く出版されている「これからの働き方」みたいな本はおもしろいし、共感できるところはある。ただ、あえて私が言っておきたいのは
「そればっかり信じてるのも宗教じみてるよね」
ということだ。
ホリエモンさんや落合陽一さんが述べているのは極論である。本当にそうした未来になるのかは結局、だれにもわからない。
新しい価値観によって新しい断絶を生んではいけない
これは最近の私の実体験だが、仕事で50代くらいの男性の方と仕事でこういう話題になったとき、「人工知能が今後はどうのこうの」とか「ベーシックインカムというものがああだこうだ」とか、受け売りの知識を披露していた。
その男性の反応はいまいちパッとせず、おそらく理解していない風だった。そもそも、男性はあまり興味のない話だったのだろう。今になって冷静に考えれば、あの時の私は「引き寄せの法則」について熱く語るスピリチュアルおばさんと基本的には同じような感じになっていたのではないかと考えてしまう。
巷間をにぎわすの言説は、おそらくは行き詰まり感のある現代社会における一種の現実逃避のようなものかもしれない。
もちろん、そのことを真剣に考えて、そのような社会の到来を実現させようと活動している人々をバカにするつもりはないのだが、そのような主張が書かれている本を読み、「これから貨幣は価値がなくなる」とか「弁護士とかエリートなしごとほど大変になる」など、一種のひがみや自己正当化に走る口実を一部の人々に与えてしまってはいやしないだろうか。もしかすると、ニヒリズムや共産主義に傾倒するのと、あまり大差はないのかもしれない。
たしかに、「貨幣はなくなる」とか「ベーシックインカムで働かなくてもいい社会が到来する」というのは聞いていて刺激的だし、魅力的な未来をイメージさせてくれる。私自身、みれにある世代なので非常に共感できる。
ただ、あまりにもその考えに染まりすぎると、たとえばその考えに賛同しない人々を「古い考え方の人間」「理解力が足りない人間」などとカテゴライズし、人々を敵と味方に線引きをしてしまうおそれはある。
楕円で考えるということも大事かも
とはいえ、じゃあ極論がよくないかといえばそういうわけでもない。そもそも、本は極論を言ってくれないとおもしろくならないのも事実だ。
問題は、読み手が「この話は極論である」と認識し、それらを鵜呑みすることなくちゃんと自分で咀嚼して飲み込むことだ。
新しい考え方や視座を手に入れるのはいいが、それによって視野や思考の幅が狭まってしまうのはよろしくない。これについては、最近読んだこちらの本がおもしろく書かれていた。
二者択一で物事を考えていると思考の幅を狭め、敵対関係を生みだしてしまう。そうではなく、焦点が2つある楕円としていろいろな物事を考え、0と100の間を行ったり来たりできる柔軟性が本当に求められるのかもしれない。
とはいえ、「お金は大事でしょ」「仕事はいやでもやらなきゃ」など、いわゆる20世紀型の労働、資金の固定観念にとらわれている人が本書を読めば、いろいろ刺激的なことが書かれていて、学びが多い。お勧めだ。
今日の一首
100.
百敷や 古き軒端の しのぶにも
なほあまりある 昔なりけり
順徳院
現代語訳:
宮中の古い軒先のしのぶ草を見ると、
忍んでもなおあまりあるくらい懐かしいのは、古き良き昔だよ。
解説:
「百敷」はたくさん石を敷いた城で、宮中を指す。
読み手の順徳院が20歳のころに詠んだ歌だが、当時は鎌倉幕府が力を強めて天皇家は政治の実験から遠のいていたので、平安時代の天皇家の血筋である天智天皇の治世と、和歌をみんなで歌っていた貴族文化を懐かしんでいる。
百人一首の最後にこんな時代背景を持った歌を持ってきて締めるあたり、さすがのセンス。
後記
『レディ・プレイヤー1』を観てきた。
映画『レディ・プレイヤー1』日本限定スペシャル映像(メカゴジラ VS ガンダム編)大ヒット上映中
初めて4DXで視聴したのだが、そのせいもあってか「これは映画というよりアトラクションだな」という感想だ。特に序盤のカーレースのシーンはすごかった。
4DXは3D映像に加え、振動やミスト、風など五感をフルに使った映像体験ができるのだが、すごかったのが「振動」だ。
私はせいぜいバイブレーションくらいなものかと思っていたが、いやいやぜんぜん、ディズニーランドのアトラクションで言えば「スター・ツアーズ」くらい動いてた。あれぐらいやってくれるなら、追加で1000円払うのも納得だ。
で、ストーリーはまあスピルバーグでハリウッドだから予想通りなんだけど、興味深かったのは、完全なVRゲームの世界という現実世界でも実現しつつあるハイテクな未来を舞台にしているにもかかわらず、音楽やキャラクターなどにあえてレトロなものを強調して、どこかノスタルジーを感じさせている点だ。
ちょっと雑な言い方をすれば、作品全体から古臭さすら感じる。これはやっぱり、年代が上の人でも楽しめるようにという配慮なのか、それとも単なるスピルバーグ監督の趣味なのかよくわからない。
ただ、DVDを買って家でもう一度見たいかといえばそんなことはない。ある意味、この映画はまさしく4DXで見るからこそ価値がある映画であるような気がした。
今日はこんなところで。
それでは、お粗末様でした。