本で死ぬ ver2.0

基本的には本の話。でもたまに別の話。

「正解」の限界~『論理的思考力を鍛える33の思考実験』のレビュー~

いわゆる「ビジネス書」と呼ばれるものには、すべて共通していることがある。

 

これは「健康本」も「自己啓発本」も同じだ。

 

もくじ

 

それは「これが正解だよ」という答えを指し示していることだ。

(と述べている私も、この文章を読んでいるあなたに「正解」を提示しているわけだけど)

 

自分にとっての正解を探し続ける人々

 

とはいえ、正解はひとつではない。たとえば「効率的な仕事の進め方」の解決策は、いろいろある。だから、いろいろな人間がいろいろな「効率的な仕事の進め方」を編み出してかっこいい名前をつけ、それを本にまとめて売り出している。

 

となると、効率的な仕事の進め方を身につけたい読者は、それら星の数ほどある「効率的な仕事の進め方」のなかから、自分に一番マッチした方法を探し出さなければならない。

 

正解には賞味期限もある

 

しかし。

正解がひとつではなく星の数ほどあり、しかもそれがいつまで増え続けるのはいいが、そもそも「正解を求めること」そのものに意味なんてないのではないだろうか。

 

パソコンが普及する以前と以後では効率的な仕事の進め方がまるで違うように、「正解」には賞味期限があり、いまの時代では活用できても、10年後には使えなくなっている可能性がある。

 

そして10年後には、そのときのビジネス環境にもっともマッチした新しい「正解」を誰かが思いつき、それをまた誰かが本にする。

 

パソコンソフトやスマホのアプリがいつまでもアップデートを続けるように、人間は生きている間中ずっと、外部の情報を取り入れてアップロードすることを強いられているわけだ。

 

 

正解がないビジネス書

 

私はその意味で、そのようなビジネス書の棚の中で「これが正解だよ」から半歩抜け出したこの本をおススメしたい。

 

論理的思考力を鍛える33の思考実験

論理的思考力を鍛える33の思考実験

 

 

「半歩」と表現したのは、惜しむらくは、この本の目的が「論理的思考力」を鍛えることに特化しているからだ。

 

しかし、「ビジネス書なのに『正解』を提示しない」という点において、明らかに異彩を放つ本だし、こういう本がビジネス書の棚に置かれてベストセラーになるというのは、時代の移り変わりを感じる。

 

知っているかどうかは問題じゃない

 

この本はサンデル教授の「トロッコ問題」や、「アキレスと亀」のようなパラドックス、さらに「モンティ・ホール問題」など、じっくり考えないと答えが導き出せなかったり、そもそも明確な正解がない問題を取り上げている。

 

ぶっちゃけ、それなりに本を読んだり知識がある人にとっては「いまさら感」がある問題ばかりだが、ポイントは「読者に自分で考えさせる」ことを目的としている点だ。

 

「おなかをすかせている人には魚を与えるのではなく、魚の取り方を教えなさい」といわれる。

しかし、もっと突き詰めて考えれば、

「おなかをすかせている人には魚を与えるのではなく、魚の取り方を教えるのでもなく、自分で魚の取り方を見つけられるような知恵を身につけさせなさい

ということが大事なのではないだろうか。

 

この本で身につけられるのは、じつはタイトルで謳っているような「論理的思考力」にはとどまらない。

そうではなく、おそらくこの本で身につけられるのは、「答えのない問題の解決策を考える力」なのだろう。

 

くだらないことを考える力

 

すでにこの本を読んだ人も、まだ読んでいない人も、そのことを念頭に置きながらこの本を読めば、新たな発見があるかもしれない。

 

私が昨今の社会の変化や、ビジネスシーンなどをいろいろ見ているとふと思うのは、これからの時代は、こういう“くだらない”“役に立たない”ことを考えることができる人だけが、未来を作っていけるのかもしれないなあということだ。

 

論理的思考を駆使して最短距離の解決方法を考えるなら、コンピュータや人工知能がやってくれる。人間に残されているのは既存の価値にとらわれない新しい価値を見出すことだし、その方法としてきっと有力なのが、「正解のないことを考えてみる」という意味のない、くだらない行為なのだろう。

 

そういえば、先日とある文芸作家の先生と話をしていて、「車や電車に乗っているとき、外の景色を眺めながら、同じ速度で追いかけてくる人間を想像する」という話で盛り上がった。川や電信柱、ビルなどの障害物をかわしながら追いかけてくる忍者みたいなやつだ。私の同じようなくだらない想像をしている人がいたことに、ちょっと楽しさを覚えた。

 

論理的思考力を鍛える33の思考実験

論理的思考力を鍛える33の思考実験

 

 

今日の一首

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36.

夏の夜は まだ宵ながら 明けぬるを

雲のいづこに 月やどるらむ

清原深養父

 

現代語訳:

夏の夜はやけに短いから、まだ宵だと思っていたら明けてしまった。

月は、どの雲に宿をとっているのだろうか。

 

解説:

夏の夜の短さを、「月が沈む間もないくらい」というニュアンスで表現したオサレな一首。ちなみに、この人は清少納言のひいお爺さん。

 

後記

 

今期のアニメの中では『宝石の国』が抜群におもしろい。

 

 

原作を以前から読んでいたし、CGアニメだということもあって、放送前にはけっこうな不安があったのだけど、CGならではの光の美しい表現がさえわたり、かなり良い。

 

あと、主人公フォスの声優さんがすごくうまい。バカなんだけど賢い感じ。しかし、あの物語はけっこう連続性があって、しかもまだ完結していないから、アニメをどうやって幕切れさせるのかは気になるところ。 

 

 

今回はこんなところで。

それでは、お粗末さまでした。