あなたの隣の異世界転生~『「いまの説明、わかりやすいね!」と言われるコツ』のレビュー
『乱読のセレンディピティ (扶桑社文庫)』で外山滋比古センセもおっしゃっていたことだが、本(とくにビジネス実用書とか)を読んで、その内容をすべて覚えておく必要はない。
もくじ
ビジネス書を読むときのスタンスとして正しいのは、ごくごく自然に読み進め、読み終えたときにどのメッセージが自然と頭の中に残るのかを確認することだと思う。一番よくないのが、「とにかく書いてあることをすべて吸収してやろう」と意気込むことだ。
その意味で考えれば、1箇所でもいいから記憶に残る部分がある本は、それだけで十分価値がある。もし記憶に残るようなメッセージが3箇所もあったら、それは大変な名著だ。
著者はトヨタ出身
そう考えると、この本は良書だった。
著者の浅田すぐる氏はもともとトヨタに勤めていた人物で、デビュー作『トヨタで学んだ「紙1枚!」にまとめる技術』がベストセラーになった人物。本書の売れ行きも好調だ。
具体的かどうかの判断基準
さて本書の内容はタイトルの通りだが、私の記憶に残ったのは、「そもそもなぜ説明がヘタクソなのか?」という理由を究明する中で、トップバッターとして出てきた
「動詞」の「動作」化
という部分。
これは要するに「目的や目標を“行動”レベルまで具体化できているか」ということだ。
たとえば、あるプロジェクトを推進するためのメンバー間で、みんな忙しくてなかなか情報共有ができていないという問題があったとする。
そのとき、プロジェクトリーダーが「もっと情報共有をしっかりやろう」と全員に指示しても、それは実行されない。なぜかというと、「情報共有をしっかりやる」というのは動詞であって、具体的な動作ではない。だから、こういわれても、各メンバーは具体的に何をすればいいのかわからないわけだ。
しかし、この指示を次のように変えれば、とたんにわかりやすくなる
・週に一度行うミーティングには最優先で参加しよう
・プロジェクトに関係のあるメールはすべて共有しよう
・メンバーのスケジュールは共同のグーグルカレンダーに書き込もう
「ミーティングに参加する」「メールを共有する」「スケジュールをグーグルカレンダーに書き込む」は動作である。
世にあふれる「動詞」言葉
本書で登場する、ビジネスシーンでよく使われる「動詞レベル」の意味のない表現の例は次のようなものだ。
・お客様目線で考えよう!
・相手の立場に立って考えよう!
・まずは相手に関心を持つことからスタートだ!
・仕事では、優先順位をつけることが重要だ
・もっとよく考えろ、徹底的に考えろ、考え抜け!
・当事者意識、危機感を持て、主体性が求められる
もうちょっと違う言い方をすれば、ビジネスにおいて効率的なコミュニケーションをはかるためには、「相手に解釈の余地を与えてはいけない」という表現もできる。
当たり前だが、人間はそれぞれ生まれ育った環境が違うから、同じ言葉を読んでも感じ方が異なる。小説なら「この物語が果たしてハッピーエンドなのか、それともバッドエンドなのか、それはあなたの解釈次第ですよ」でもOKだが、ビジネスじゃそれはNGなのだ。
桜餅と異世界転生
コミュニケーションが上手くいかない理由のひとつは、「相手も自分と同じ常識を持っている」と無意識のうちに考えてしまっていることだ。
関東の人は「桜餅」と聞くと、あんこを薄いせんべいみたいなもので挟んだものをイメージするが、関西の人は粒の残ったもち米で包まれたものを想像する。これと同じだ。
基本的に、自分以外の人間はすべて違う星から来たエイリアンか、異世界から転生してきたか、違う世界線からきた人物であると考えたほうがいいと思う。
今日の一首
41.
戀すてふ わが名はまだき たちにけり
人知れずこそ 思ひそめしか
壬生忠見
現代語訳:
恋をしているという私の噂はもう広まっている。
誰にも知られないよう、心の中で思い始めたばかりだというのに……
解説:
平兼盛と手合せしたときに詠んだ歌。自分の実体験を非常にストレートに歌ったものだが、勝負に敗れた壬生は、食欲をなくして、それが原因で亡くなったともいわれている。
後記
最近は「誰ガ為のアルケミスト」やってる。
手持ちキャラクターで一番好きなのはソレイユです。
今回はこんなところで。
それでは、お粗末さまでした。