中年の声なき声の代弁者~『平均的サラリーマンの最強の生き方』のレビュー~
先日こちらの本を読んだのだが、文字を目で追いながら、私は少なからぬカルチャーショックを受けた。
平均的サラリーマンの最強の生き方 なぜかうまくいってる人が大切にしている7つのこと
- 作者: チーム安部礼司+TOKYO FM
- 出版社/メーカー: マガジンハウス
- 発売日: 2017/04/20
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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まず説明しておくと、本書は毎週日曜に放送しているラジオドラマをベースに作られた本だ。ドラマは「安倍礼司(アベレージ:1971年生まれ)」という極めて平均的なサラリーマンが主人公のハートフルコメディ。本書はそんな安倍礼司に学ぶ(?)、世の中の平均的なサラリーマンに送る応援賛歌だ。
内容はすべて見開き1項目で完結していて、「使える後輩には昼めしくらい奢っておく」「後輩女子は、会話のはしばしで褒める」など。実用性よりも共感性を重視した、ちょっと風変わりなビジネス書といえる。
いろいろと古臭い文章
じつをいえば、私は書店でこの本を見つけてパラパラとめくったときスルーした。しかし読むことになったのは、会社の上司(50代)から薦められたためだ。たしかに奥付を見ると発売1ヶ月で4刷もしているので、売れていることは確かである。
というわけで私は本書を読み始めたのだが、ほとんどの内容に私個人は共感できない。たとえば一発目の内容、「使える後輩には昼めしくらい奢っておく」(まず「使える後輩」「昼めしくらい」という言葉も引っかかるが)の文章を抜粋してみよう。
「年上の女房は金のわらじを履いてでも探せ」という言葉があるが、サラリーマンのみなさんに、姉さん女房よりよっぽど真剣に探してほしいものがある。それは「使える後輩」。
さあ、今すぐ金のわらじを履いてオフィスを血眼でサーチ!『教師びんびん物語』におけるトシちゃんの輝きの半分は、後輩「榎本」とのコンビネーションに由来するものであった、ということを肝に銘じてほしい。未熟で、バカで、そそっかしいけど、でもどこか憎めない「ザ・後輩」。俺、先輩のためならマジ何でもやります!そんな気概がありさえすれば、彼が「使えるかどうか」は重要ではないのかもしれない。
さあ、一緒にいるだけでおサボリや寄り道が楽しくなる、そんな後輩を探そう。いない場合はDo It Yourself! 気になる若手に昼飯を奢るなどして、自力で「マイ後輩」を育てるのもいいだろう。
まず冒頭の諺が古臭いし、ドラマで例えられてもまったくピンと来ない。「おサボリ」という言葉や、文章全体のノリもどうもなじめない……。困ったものだ。
ちょっと乱暴な言い方かもしれないが、私はこの本を読んでいて、つい先日ネットを騒がせた「美術館ナンパ騒動」を思い出した。この件について知らない人は、以下の記事などを読んでみてほしい。
共感できない年齢層はこの本から何を学べるのか?
ただ、私は別にこの本を「わかるわかる~」と共感して読む40~50代男性や、『GG』を読んで美術館で若い女の子をナンパしつつイチボをツンツンしたい「ちょいワルジジ」の人々を糾弾したいわけではない(基本的に他人は変えられないので、気に食わないからといって糾弾しても意味はない)。そうではなく、私はここから「世の中の中年男性のサイレントマジョリティは、実際こんなことを考えているのだ」と学ぶべきだと思うのだ。
本書のターゲットである現在の40~50代は「インターネットは使えるけど、ブログやSNSはやってない」という、インターネット上に発信しない人々のほうが(たぶん)大多数だ。新橋とか赤羽とかで飲んでいるサラリーマンのおっちゃんたちの意見は、ネットにはあまりあがらない。
いや、むしろ新橋とか赤羽のサラリーマンだったら、まだわかりやすい。私がこの本から得られたのは、じつは、こうした考え方は必ずしもそうしたオッサンシンボリックな場所に出現しない、一般社会にいるサイレントマジョリティの声を代弁しているのではないかという気づきである。
結婚して子どもを産むのが女性の幸せ!
私は最近、社内のごく限られた人との飲み会で、なかなか衝撃的な話を聞いた。先輩女性社員(たぶん30代なかばくらい?)の人が、私の上司の上司くらいのひとから「なんだかんだ女性の幸せって結婚して子どもを生むことだよね」と言われたことが何度もある――というのだ。これにも少なからずショックを受けた。
私は普段、その上司の上司と話をするが、とりあえず仕事の話をしている限りでは、そんな保守的な考え方の人だとは感じない。むしろ、ネットのほうでは私は比較的自由にやらせてもらっていて、「理解のある人」だとすら感じていた。
にもかかわらず、ついついこういう言葉が出てしまうのは、実際のところ、素の部分ではまだ旧態依然とした社会慣習にとらわれていることが露呈してしまっているのではないかと考えてしまうのだ。
ある意味、良書
こうした本が出版されてそれなりに人気を博している(共感を集めている)という事実を考えると、この本を読んで実際の40~50代のサラリーマンの人々がなにをどのように考えているのかを理解しておくのは、会社で働いている人やマーケティングに近しい仕事をしている人にとって大事なんじゃないか。先に相手のメンタルの傾向を知ることができれば、実際に感性がズレた発言を喰らっても、落胆したり憤ったりすることはなくなるだろう。
また、内容とは関係ないが、この本はかなり手馴れた感じのつくりになっていて、DTPデザインもなかなかイケてる。また、各コンテンツの下部には「こんなときの今ツボ曲」と称して、おそらく70年代生まれの人たちが懐かしくなるような楽曲が紹介されている。会社のカラオケでとりあえずご機嫌をとりたいなら、ここら辺の楽曲を勉強しておくのもアリかもしれない。
その意味では、40~50代のビジネスパーソンには共感され、20~30代のビジネスパーソンには上司や上層部を理解するための教科書になりうる良書といえるのかもしれない。日々是勉強。
今日の一首
57
巡りあひて 見しや夫とも わかぬ間に
雲がくれにし 夜半の月かな
紫式部
現代語訳:
せっかく会えたのに、それが本当にあなただったのかもわからないうちにいなくなってしまった。
まるで夜中の月のように。
解説
久しぶりに幼馴染にあったのに、短い時間しか話せなかったのを残念に思った気持ちを歌った一首。友人と夜中の月をかけているが、それほど技巧に凝っているわけでもない。
後記
映画『セッション』を見た。
良かった!
音楽大学の鬼教官と、それに食いついていく生徒の物語なのだが、想像以上にシナリオのエンターテイメント性が高い。普通、こういうちょっとおしゃれぶった映画はシナリオが途中で中だるみして眠くなってしまうものだが、本作に関してはそんな心配はご無用。まさかの展開がいろいろと続き、観客を飽きさせない。
平均的サラリーマンの最強の生き方 なぜかうまくいってる人が大切にしている7つのこと
- 作者: チーム安部礼司+TOKYO FM
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今回はこんなところで。
それでは、お粗末さまでした。