コピーライターには向かない人々~『最も伝わる言葉を選び抜く コピーライターの思考法』のレビュー~
今回紹介する本はこちら。
コピーライターが書いた、相手に伝わる言葉を「選ぶ」ための思考法に伝えた本。
広告コピーのように、短いながらも見た人の印象に残る言葉を選ばなければならない場合、本書によれば、2つのステップが踏まれる。
1.言葉をたくさん出す
2.そのなかからいい言葉を選ぶ
まず、なによりも大事なのが「どれだけたくさん言葉を出せるか」だ。
ボキャブラリの多さは必要ない
ただし、ここで誤解してはいけないのは、ボキャブラリが多ければいい、というわけではない点である。
ちょっと意識して広告を見てみればわかるが、広告とか、商品名とか、本のタイトルといったものには、まず難しい言葉は使われない。私は普段、編集者として本のタイトルを考えたりするが、二字熟語ですら避けたりする。
たとえば、
簡単 → ラク
効果的 → すごい
選択 → 選ぶ
みたいな感じ。
とくに、画数が多くなると、それだけでちょっと小難しそうに感じてしまうものだ。また、パッと見ただけでイメージが浮かびにくかったりする。
言葉をたくさん出すためにはどれだけ多くの語彙力があるかではなく、どのようにその状態を言い換えることができるか、とも言える。
そのために必要な能力は、想像力だ。
たとえば、上で挙げた「効果的」がなぜ「すごい」になるのかというと、私の頭の中で以下のような思考が繰り返されるからだ。
効果的 → ちょっとやっただけですぐに効果が出る → それはすごい
本書ではコピーライターの素養として、想像力の高さが挙げられている。その能力を延ばすためのひとつの方法は、「人間観察」だ。
電車でイヤフォンをしてスマホの画面ばかり見ているのではなく、ふと周りを見渡して人々が何を見ているのか、ふと耳を澄まして人々が何を話しているのかを気にかけると、その人がどういう人で、どういう生活をしているのかが想像できる。
世の中の「隠れた飢餓」
では次のステップとして、いい言葉を選ぶ方法である。
これにはいくつか方法があるが、まずひとつが、「世の中の隠れた飢餓を見つける」ということだ。引用しよう。
阿久悠さんにはご自分でつくった「作詞憲法15条」というのがあるそうです。その中のひとつ、「ヒット曲とは?」という項目。
「歌は時代とのキャッチボール。その時代の中の隠れた飢餓に命中することがヒットではなかろうか」
この「時代の中の隠れた飢餓」という言葉を聞いてハッとしました。ヒット曲についての言葉ですが、広告もまさにこれと同じことじゃないですか。その時代を生きているお客さんたちは、まだ言葉にできない、だけどかすかに感じている「何か」を持っていて。その言葉にできない「欲求」や「願望」が無意識の中にたしかにあって。それを「ほら、これでしょ?」と手にとって見せる。それが大ヒットになる。まだ誰も言葉にできていない「飢餓」を見つけ出す。
これはもちろん、本も同じだ。また、バズるブログ記事も同じだと思う。
みんななんとなく「これがなんかモヤッとする」という言葉にできない事柄について、それをズバリ言語化できると、そのコンテンツはみんなから支持されたり、議論の的になったり、または炎上したりする。支持されるか炎上されるかは方向性の違いだけであって、本質的には同じだ。
ダイヤモンド鑑定士の育て方
もうひとつ、いい言葉を選ぶための方法は、良いものだけに触れる、ということである。また引用。
ダイヤモンドの鑑定士を育てるには、どうするか。簡単だそうです。「本物のダイヤモンドしか触らせない」んだそう。偽物を見せない、触らせない。だから、偽物を見ると「あ、これは違う」とすぐにわかるようになるのです。徹底して、いいものしか見せない。生まれた時から純度の高いダイヤモンドしか見たことがなければ、ガラス玉なんか一発で「違う」ことがわかるのでしょう。生まれた時からシルクのパンツしか穿いたことがない子が、木綿のパンツを穿いて、「あ、違う」とわかるようなも(かな)。
本書ではこの後、「だから、いい広告の言葉を選ぶためには、いい広告だけをひたすら見ること大事」と続く。
ただし、広告で難しいのは、「なにがいい広告なのか」がわかりにくい点だ。広告賞をとったからといっていい広告とは限らないし、広告の商品がもしヒットしたとしても、それは商品が良かったからか、広告が良かったからか、それとも営業が頑張ったからか、よくわからない。また、どの商品がどのくらいヒットしているのかも、違う業界だとわかりにくいものだ。
それに比べると、本は分かりやすい。
本はまず確実に、タイトルが大きく影響する。とくに、発売直後の売れ行き(初速という)はまず9割くらいタイトルが決めるので、初速が好調な本は、それだけタイトルがうまい、とわかるわけだ。
また、もうひとつうまいタイトルを見極めるコツは、パブラインなどの書籍売り上げデータで、毎日少しずつでもいいからどこかの書店で売れているかどうか、ということだ。そういう本は、あまり広告をしていなくても、本屋にフラリと立ち寄った人がタイトルに惹かれて衝動買いしている可能性が高い。つまり、それだけタイトルが魅力的だと考えられるのだ。
コピーライターに向かない人たち
最後に、本書で書かれている「コピーライターに向かない人」について書いておこう。
本書では3パターン紹介されている。
1.駅で閉じた傘を持って歩くとき、先端を後ろに振りながら歩く人
2.混んだ電車の中でリュックを背負ったままの人
3.夜、無灯火で自転車を運転する人
すぐにわかると思うが、どれも「相手を思いやれない人」である。つまり、想像力が欠如しているのだ。
これは言い換えれば、客観的な視点で物事を見ることができない人、と表現できる。そんな人は、「この広告コピーは、他の人が見たらどう思うかな?」と想像できないので、ヒットする広告コピーは書けないはずなのだ。
ちなみに、以下の本は別に関係ない。
今日の一首
1
秋の田の かりほの庵の とまをあらみ
わが衣手は 露に濡れつつ
天智天皇
現代語訳:
秋の田んぼのほとりにある小屋の屋根のわらぶきの編み目が 粗いから、(その下に立っている)私の着物の袖は露にどんどん濡れていっちゃうなぁ
解説:
獣が来ないように、田んぼのそばの小屋で寝ずの番をしている農民の苦労を描いた一作。なんでそんな農民の生活を天智天皇が詠んだ(とされている)のかというと、そんな農民の大変な生活も思いやってくれる偉い天皇なのだ、というのが主題らしい。
参考:
後記
先日、百人一首を購入した。
別にコナン君の映画に影響されたわけではない。そうではなく、先日、とある飲み会に参加したら、ある人がサラッと百人一首を暗誦していて、それを見て純粋に「百人一首が暗証できるってカコイイ!」と思ったからだ。
というわけで、今回からブログの記事を書くごとに、一首ずつ紹介していくことで、自分の頭に刻みつけていこうと思う。
というわけで、今回はこんなところで。
それでは、お粗末さまでした。