女の子をデートにうまく誘う方法~『「いい質問」が人を動かす』のレビュー~
実用書の場合、「何が書いてあるか」が大事なのはもちろんだが、それと同じくらい「誰が書いているか」が重要だ。
たとえば20代でMBAを取得して会社を興し、世界で名をはせるベンチャー企業の社長であっても、執筆した本のテーマが「健康で長生きする方法」だったら売れない。そういう方法は、実際に長生きしている人か、医者に聞きたいと思うのが人情だ。
『「いい質問」が人を動かす』
今回紹介するのはこちらの本だが、著者はビジネス書でありながら弁護士である。
弁護士が書いたビジネス書というのはあまりない。というのも、弁護士というのはかなり特殊な職業で、多くの人はあまり触れ合う機会がないからだ。
しかし、本書の場合、著者が弁護士だからこそ、その内容に説得力がある。なぜなら、本書のテーマはビジネス書のなかでも「対人コミュニケーション」であり、そのメソッドとして「質問」を根底においているからだ。
弁護士の仕事はもちろん依頼人を法廷で弁護することだが、具体的には質問によって相手をうまく誘導(証言を引き出し)し、望む結果(勝訴)を勝ち取ることだ。つまり、彼らの仕事は「いかに良い質問をするか」にかかっている。
人間は、自分のことを自分で決めたい生き物だ
ではなぜ「質問」が相手を思い通りに動かすためのキーワードになるのか?
それは、すべての人間は「自分のことは自分で決めたい」と考えているからだ。人はどれだけ丁寧に言われても、相手に自分のことを決められたくない。だから「勉強しなさい」と言われても子どもはそれに従わないし、「これを買った方がいいですよ」と店員さんに薦めると客は去っていく。
そこで、質問の出番になる。
質問を受けると、その人は考える。そして、考えるとある結論を出す。つまり、何かを決めるわけだ。そして、自分で決めたことには人間は従おうとする(認知的不協和を嫌う……ともいえる)。
とはいえ、相手の考えた結果が質問者の望むものになるとは限らない。考えた子どもは「やっぱり勉強しない」という決定を下すかもしれないし、考えた客は「やっぱり買わない」という決定を下すかもしれない。そうすると、その決定は覆しにくくなる。
そこで、本書で書かれているテクニックの出番となる。つまり、質問の仕方によっては、相手の決定を自由にコントロールできるようになるわけだ(もちろん、完全にではないが)。
禁断の「誤導質問」
本書ではその方法がいくつか書かれているが、ここではそのひとつ「誤導質問」を紹介しよう。これは、質問の前提条件を隠したまま話を先に薦めてしまう質問のことである。
これは、次のような感じだ。本書から引用しよう。
「この車はとても燃費が優れているのです。色としては、黒と白はどちらがよろしいですか?」
「黒の方がいいね」
「私もその方が好きです。とても落ち着いています。3000ccと3500ccがありますが、どちらがよろしいですか?」
「うーん。値段次第だなあ」
「そうですよね。お見積もりに際して、お支払いは現金でしょうか、それともローンでしょうか」
「現金で払うよ」
「ありがとうございます。ちなみにお届けは来週末と再来週末では、どちらがよろしいでしょうか」
読めばわかると思うが、この会話の場合、すでに「買う」というのが前提条件になって質問による会話が進行している。 もちろん、こんな風にスムーズにいくわけがないとは思うが、自分が求める結果を前提条件にしてしまい、そこから質問をスタートさせるのは有用な方法だろう。
デートにうまく誘う方法
たとえば意中の女の子をデートに誘いたい場合も、単刀直入にデートを誘うと断られるリスクがある。そこで次のように質問してみるわけだ。
「イタリアンと中華だったら、どっちが食べたい気分?」
「イタリアンかな?」
「じゃあ、イタリアンを食べに行こうよ」
この場合、「一緒に食事を食べに行く」という前提が隠されており、さらに質問を受けた人物の選択肢が「イタリアン」か「中華」に限定されている。しかも、「イタリアンを食べたい」という自分で決めた意志を表明してしまったため、2つめの質問も断りづらくなってしまうのだ。
このあたりの方法は、ベストセラーになったビジネス書『伝え方が9割』にも書かれているので、読んでみていただきたい。
おわりに
本書でも述べられているが、基本的に会話は「質問をする人」が主導権を握ることができる。だからこそ、うまく質問する技術が大切なわけだ。
余談だが、本書は2009年に刊行された新書『人を動かす質問力』のタイトルを変え、加筆修正して出版されたものだ。
- 作者: 谷原誠
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2009/07/10
- メディア: 新書
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売り上げデータを見てみると、もともとの新書もそこそこ売れているが、おそらく2~3万部くらいだろうと予想できる。それに対し、こちらはちょっと内容とタイトルを変えて7万部突破だ。
本はタイトルが売り上げを左右するといっても過言ではない(あと、新書はカバーデザインなどで差別化しにくい……などのデメリットもある)。まさに本書は、これを企画して実現させた編集者の腕前によるものといっても過言ではないだろう。もちろんそれなりの手間暇はかかっていると思うが、すでにある本を修正して新たな本として売り出すのは、比較的手間暇をかけずに優良本を売り出す良い手法のひとつなのかもしれない……とも考えている。
今回はこんなところで。
それでは、お粗末さまでした。