本で死ぬ ver2.0

基本的には本の話。でもたまに別の話。

『イバラード物語』を読んで「魔法」について考える

 

『Fantôme』買ってしまった徒花です。

宇多田ヒカルのこれまでの曲だと、『嘘みたいなI Love You』と『Letters』が好き。

 

 

もくじ

 

イバラード」をご存じだろうか。

これは画家の井上直久氏が作り出した完全に架空の世界の名前で、そこでは不思議な生物たちが闊歩し、魔法使いたちが暮らしている。

 

 

ちなみに、「イバラード」という名前は著者の出身地である大阪府茨木市から取られている。

イバラードの世界には「タカツング」「スイテリア」という国も存在するが、これも同じく「高槻市」「吹田市」に由来する。

これはますむらひろし氏の「アタゴオル」と同じだ。

 

※余談だが、イバラード世界での主人公の位置にいる少年キ・ノナくんの姿はなんとなくアタゴオルに出てくるテンプラに似ている

※こうした実在の地名をもじったネーミングの源流は宮沢賢治の「イーハトーブ」である

 

今年の12月にBunkamuraで展覧会をやるヨ!

 

そんなイバラードの世界が、じつは今度の12月から渋谷にあるBunkamura Galleryで展覧会を開催する。

しかも、12月4日には井上氏が来場して、ライブペインティングをやるのだ!

これは見たいぜ。

 

『耳を澄ませば』にも出てくるヨ

 

このイバラード、あまり知名度は高くないが根強いファンがいて、じつは宮崎駿もそのひとりだったりする。

詳しくは以下のページを見てもらえばいいが、『耳を澄ませば』のなかで主人公の雫が書いた小説を映像化した部分で背景として使われているのは、明らかにイバラードの世界なのだ。

 

 

吉祥寺にある三鷹の森ジブリ美術館にも、じつはひっそり壁画があったりする。

 

イバラードの世界をマンガで描いた一冊

 

で、今回紹介するのがコチラ。

 

 

そんなイバラードの世界を描いたマンガである。

ちなみに私はAmazonで中古本を買ったのだが、そうしたら古いバージョンのカバーの本が届いた。

ある意味、レアもの。

 

 「世界観」を楽しむ一冊

 

まず、絵はヘタである。

女の子はかわいくないし、コマ割りもわかりにくい。

線はガタガタで、よく言えば「たいへん味のある」絵である。

 

さらに、ストーリーは基本的には存在しない。

とにかく住人たちがイバラードのいろいろな世界を巡って、独自のテクノロジーや環境について説明していくだけの話だと考えてもらえれば問題ない。

 

本書は純粋に井上氏が生み出した「イバラード」という、幻想的ながらどこか懐かしさを感じさせる不思議な世界を楽しむものなのだ。

 

イバラードの世界

 

イバラードの魔法「ソルマ」

 

イバラードに暮らす魔法使いたちは「思念」の力でさまざまなことをする。

なかでも代表的なのが「ソルマ」とよばれる、思念の可視化だ。

思念の力は個人差があるが、「シンセスタ」という増幅器(魔法の杖だと思ってもらえればよい)を使うことで思念を強めることができる。

なお、空に浮かんでいる無数のラピュタの岩盤を構成しているのもシンセスタである。

 

万能機具「リグダ」

 

シンセスタとはまた違う道具に「リグダ」がある。

これ、見た目はスターウォーズに出てくるライトセーバーである。

思念の力をエネルギーにして光の剣になったり、光線を発射する銃になったりするのだ。

もちろん、武器以外にも様々な用途がある。

出力を絞ればライト、コンロ、ライター、アロマキャンドル、ペンやカッターなどとしても使えるのだ。

 

恐怖の「めげゾウ」

 

これはイバラードにいきなり現れたり消えたりする生き物?である。

見た目は穏やかに眠っているゾウなのだが、魔法使いがこのめげゾウを目にしてしまうと、魔法を使う力を失ってしまうらしい。

本書の説明によれば、「その異様な存在感に圧倒され、魔法を使おうという意欲をなくしてしまう」とある。

※ただし、めげゾウは強い魔法使いが3人以上集まると実体化し、そうするとその不思議な力がなくなるとされる

※また、めげゾウはそもそも魔法使いの潜在的な意識に反応して現れるともされる

 

竜もいるよ

 

イバラードには竜も住んでいる。

とはいっても、よくファンタジーに出てくるモンスターではない。

イバラードに住む竜は種族のひとつであり、人間に非常に近いものから爬虫類のようなものまで、その姿形はさまざまだ。

もちろん、言葉を話すので意思疎通ができる。

 

そもそも彼らは卵の状態のときにほかの生き物の遺伝子を必要とするそうで、そのために見た目が個体によってバラバラになる。

彼らはみな、高い思念の力を持っていて、主観的時間を操作し、重層的な空間に住んでいる。

 

ほかにもいろいろ

 

それ以外にも、イバラードの各地にはゲームのロムが埋まった地層があったり、ジーマという思念に反応して動く乗り物があったり、ハイテクなスイテリアが生み出した生体脳(バイオブレーン)人間がいたり、なかなか憎めないキャラのしゃべるカエルとモグラのコンビがいたりして、楽しい。

ジブリのファンタジー系の作品が好きな人は、暇があれば読んでみて欲しい。

 

じつはゲームもある

 

イバラードは人気なので、イバラード時間』というDVDもある。

 

 

あと、じつはゲームもあったりして、私は(たしか)持ってる。

いまも実家にあるはずだ。

 

イバラード

イバラード

 

 

プレイステーションのソフトで、とにかくカメラワークが悪いうえ、主人公の一人称視点なのでゲロ酔う。

あまり記憶が鮮明ではないが、たしかめげゾウを見るとゲームオーバーかなにかになったような気がする。

 

イバラードの魔法は本当に「魔法」と呼んでいいのか?

 

以下は余談になる。

 

日本のファンタジーで魔法なり超能力なり特殊技能なりが出てくる場合、本書のようにそのメカニズムやエネルギーの正体などについて、けっこう科学的に考察されていることが多い。

むかし、どこかで読んだような気がするのだが、「魔法というのはどうして起きるのかわからないから“魔法”なのであって、そのメカニズムが解明されて単なる技能となったら、それはもう“魔法”とは呼べないのではないか」という考え方にはなかなか共鳴できた。

そして、日本のこうした魔法を科学的に分類しようとする傾向は、世界的に考えれば珍しいのかもしれない。

 

たとえば世界的に人気なファンタジーといえば『ハリー・ポッター』だが、私の記憶する限り、あの作品内では

「どうして魔法を使える人間と使えない人間がいるのか?(その差異はどこにあるのか?)

「魔法使いたちは魔法を使うときに何かしらのエネルギーを変換・消耗しているのか?」

などということについては説明されていなかったように思う。

 

しかしもちろん、だからといってあの作品に「リアリティがない」と憤る人はいない。

なにしろ「魔法」なのだから、そんなメカニズムなんて、そもそも説明する必要はないのだ。

マナも、エーテルも、龍脈も、本当は別に、いらない。

 

ゲームが「魔法」の概念を変えた

 

問題はここからだ。

ではなぜ、日本のファンタジーでは魔法を科学技術的に分析しようとしてしまうのか?

日本人はやたらリクツっぽい人間だということなのか?

 

私が個人的に思うのは、このように「魔法をリクツで考えようとする」傾向は、『ドラゴンクエスト』『ファイナルファンタジー』などのゲームの影響がかなり大きいのではないかと考えている。

プレイしたことがある人はご存知だと思うが、ゲーム内では魔法を使う場合「MP」というエネルギーを必要とする。

つまり、どれだけすごい魔法使いキャラでも、MPがゼロだと魔法が使えないのだ。

この「魔法を使うエネルギーの可視化・数値化」こそ、魔法をリクツで考えようとする思考の発端になっているのではないのだろうか……などと私は考えている。

 

でもリクツで考えるのは楽しい

 

とはいえ、だからといって私は魔法をリクツで考えることを否定するわけではない。

かくいう私だって割りとリクツっぽい人間だし、この『イバラード物語』のように緻密に構築されたリクツっぽい世界観を知るのは楽しい。

 

余談の余談だが、那須きのこ氏の描く世界では「魔法」と「魔術」は厳密に区分けされていて、どちらかというと「魔法」が本来的な意味で用いられている気がする。

魔法と言う言葉が陳腐になってきているから、本来的な意味を用いるなら「奇跡」などを使うのはうまい手かもしれない。

 

 

おわりに

 

先日、アイコンを変えてドクロになったのだが、理由はいくつかある。

 

●たまーに私のことを女性だと勘違いする人がいるので、そろそろそういう勘違いを誘発するアイコンをやめようと考えていた

●思ったよりもブログが続き、ツイッター読書メーター、インスタグラムなどと連動してフォロワーさんも増えてきたので、ある意味ネット上のペルソナをそろそろ確定させるべきなのではないかとうっすら考えていた

●ペルソナを作る場合、アニメキャラなどをモチーフにしたイラストはいろいろと面倒なことになりそうな気もしたから、「徒花」という名前にふさわしいキャラクターがほしくなった

  

など。

人間は行動に何かしらのリクツを必要とする生き物なのかもしれない。

 

というわけで、新生・徒花。

よろしくお願いいたします。

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今回はこんなところで。

それでは、お粗末さまでした。