『PAN ネバーランド、夢のはじまり』のレビュー~前日譚という妖精の粉では、しょせん空を飛べなかったのだろうかと考える~
映画『PAN ネバーランド、夢のはじまり』オフィシャルサイトより
反抗期がなかった徒花です(母親談)。
もくじ
暇だったのでツタヤでレンタルしたコチラを見てみた。
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ここ最近ではまれにみるひどい映画だった。
映画のあらすじ
本作は2015年に公開された作品で、『ピーターパン』の前日譚を描いている。つまり、「どうやってネバーランドで暮らす永遠の少年、ピーターパンは生まれたのか」を紹介する物語だ。
悪役は黒ひげという名前の海賊で、彼は現実世界の孤児院から子どもをかっさらってはネバーランドで強制労働させ、妖精の粉を集めている。ピーターという少年も同じように黒ひげにさらわれたわけだが、じつは彼はネバーランドに暮らす妖精の王様と人間の女性との間に生まれた子どもで、空を飛んだり妖精と話しをすることができ、「予言」によれば、黒ひげを倒す存在とされている。ピーターと同じく強制労働に従事させられていたフック(まだ片手がフックになっていないが、名前はもともとフックだった)や原住民族の娘・タイガー・リリーらと協力し、黒ひげを倒すために奮闘する。
肝心のアレがいろいろと語られない。
おそらく、この映画を見る人が一番期待するのは、「どうやってピーターパンが誕生したのか」よりも、「どうして仲間だったはずのピーターとフックが、のちのあんなに仲が悪くなってしまったのか」の理由を知ることだと思う。少なくとも私はそれを期待していたし、映画の制作陣も視聴者がそれを期待していたことを知っていたはずだ。それは、映画の冒頭で流れるナレーション……「味方が敵になり、敵が味方になる」(うろ覚え)といったセリフからも感じ取れる。
しかし、本作ではそのいきさつが結局なにも語られないまま終わってしまう。ピーターは力を手に入れて無事に「ピーター・パン」となり、黒ひげを倒してめでたしめでたしハイおしまい……なのだ。一応、最後にはピーターとフックの会話があり、「僕たちはずっと友達だよね?」「もちろん」的な、おそらく皮肉を聞かせたつもりのラストとなっているが、見た直後の感想は「ふざけんな」である。
●なぜ海賊と闘っていたフックが、のちに自ら海賊になり、ピーターと敵対してしまうのか?
●フック船長の右腕となっていた裏切り者のスミーはどうしてフック船長と仲直りして仲間になるのか?
●良い感じの雰囲気になっていたフックとタイガー・リリーはたぶん何か理由があってのちに離別するんだろうけど、どういういきさつがあったのか?
●のちにフック船長の片腕はワニに食べられるはずだけど、どうしてそんなことになったのか?
●そもそもどうしてワニのお腹の中に時計が入って「チクタクワニ」になるのか?
●親友のニブスくんは結局そのあとどうなったわけ?
●炭鉱に残されていた労働者たちはそのあとどうなった? それと、最後にピーターが救った孤児院の子どもたちはけっきょくどうなったの?
見たあとの視聴者の胸中にはこうした疑問がグルグルと渦を巻き、まったくスッキリしない。私はまだレンタルで借りたから数百円の損失で済むが、1800円払ってこの映画を見た人はなかなかかわいそうだ。
ピーター・パンがピーター・パンじゃない
私ははっきり言って、ディズニー映画とかに出てくるピーターパンが嫌いだ。彼は「永遠の少年」であり、だからこそワガママであまり他人の気持ちを理解しない(これは同族嫌悪かもしれない)。自分の気持ちにまっすぐではあるが、だからこそ他者を思いやれない幼さを持っている。しかし、それがピーターパンなのだ。
翻って本作を見ると、物語ではピーターの成長が一つの大きな軸となっている。世間知らずで威勢だけはいいクソ生意気なガキンチョだったピーターが、自らの過去を知り、苦難と悲しみを乗り越え、仲間と協力してそうしたトラウマや敵を打ち倒すストーリーだ。つまり、最後の最期で、「ピーターが大人になっちゃってる」のである。少年のまま成長しないのがピーターパンであるはずなのに、この作品の中でお子ちゃまからしっかり精神的に成長しちゃってる時点で、コレジャナイ感があふれる。
もちろん、一躍ネバーランドの英雄となったピーターがそのあと慢心して精神的な成長がストップし、そこで発揮された自己中心的な振る舞いからフック船長と仲たがいを起こして離別するというストーリーがそのあと待っているのかもしれないが、だとしたらむしろ、そちらに焦点を当てて本作を作るべきではなかったのか……とも思う。つまり、純粋に「ファンタジーな世界を舞台にしたあるひとりの少年の成長物語」としてなら、この映画はまさにお手本となるくらいに完璧にできているのだが、それを変に「あのピーターパンの前日譚」と銘打ってしまうと、「どこがだよ」というツッコミしかできないクソ映画に成り下がってしまうのである。
ティンカーベルの扱いが雑
ピーターパンといったら、忘れてはいけないのが相棒の妖精・ティンカーベルである。だが、彼女がなかなか本作ではなかなか登場しない。まぁ、妖精の国に入ったらきっとなにか運命的な出会いを果たすのだろうとwktkしていたのだが、意外にも2人の出会いは非常にあっさりとしたもので、どうしてピーターとティンカーベルがのちにあんなに信頼を置く相棒になったのかがサッパリわからないまま映画が終わる。
また、期待していたもうひとつはティンカーベルを視覚的に実写でどうやって描くか……というところだったが、ネタバレすると、ティンカーベルはなんかきれいな光として表現されるのみで、どういう姿形をしているのかは不明である。ここらへんも見ていて、非常に肩透かしを食らったポイントだった。
本作のいいところ
あんまりボロクソ文句ばかり言っていてもアレなので、この映画のいいところも一応語っておこう。
映像がきれい
本作はたぶん最新のCG技術などが駆使されている。それにより、ネバーランドという異世界が非常に美しく表現されている。色彩も豊かで、海賊が打つ鉄砲がカラフルな煙となる(これは人の死を表現しているのか?)演出もおもしろい。
ピーターと黒ひげの内面が丁寧に描かれている
本作のカギを握るのは主人公のピーターと、敵役の黒ひげである。精神的な成長を遂げるピーターの内面の変化が丁寧に描かれているほか、実はけっこう複雑な立ち位置であるヴィラン・黒ひげの内面も細かいところでよく描写されていると思う。
アクションが見ていて爽快
アクションシーンがけっこう多く、純粋に映像として見る楽しさは兼ね備えている。
おわりに
繰り返しになるが、この映画、「ひとりの少年の成長物語」として見るなら、なかなか良い出来栄えなのだ。物語の展開は王道ながら安定しているし、大きく変わるピーターの心境の変化にも無理がない。アクションシーンも多く、見ていて楽しい。
しかし、ピーターパンの全日譚として、「この映画を見ればいままで明らかにされてなかった事実がわかるのだろう」と期待して見ると、見事にそれは(悪い意味で)裏切られる。自らハードルを高めに設定しておいて、その下をくぐったような感じだ。
本や映画の直観的な評価というのは「ギャップ」に大きく左右される。読んだり見たりする前の「期待」と、読んだり見たりした後の「実感」を比較して、その落差が後者の方が大きく上がっていると、直観的な評価は非常に高いものになる。つまり、「あんまり期待してなかったけど見たらすごくおもしろかった」映画は、直観的な評価がすごく高くなる。
「ピーターパンの前日譚」というお題目を掲げれば、人々の期待感を煽り、集客しやすくはなるだろう。しかし、結局中身がそのお題目に伴っていないと、いざ公開したり発売したあとに一気に消費者は離れていくし、思いっきり評価を下げることになる(とくにインターネットで即座にレビューが書かれるような現代では)。本作はそれが、かなり悪い方向に作用した作品のように感じた。
まぁとにかく、これは観ないほうがいい。
今回はこんなところで。
それでは、お粗末さまでした。