本で死ぬ ver2.0

基本的には本の話。でもたまに別の話。

『成功するのに目標はいらない!』のレビュー~10年後の自分を思い描くこの無意味さ~

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就職活動における面接の質問のテンプレートのひとつに、「10年後はなにをしていたいですか?」というものがある。徒花はこれが苦手だった。

もくじ

当時はウンウン悩みながらなんとか答えられるように自分なりの考えをひねり出していたが、社会人になったいまになって考えると、こうした質問はあまり意味がないように感じている。東洋経済オンラインの記事にも、次のようなものがあった。

toyokeizai.net

10年後の世界は予想できない

上の記事でも述べられているが、なぜ10年後の自分を思い描くことに意味を見いだせないのかといえば、「10年後、社会がどうなっているのかなんて予想できないから」だ。

たとえば10年前、現在のように誰しもスマートフォンを持っているなんてことは、おそらく世界でもほとんどの人が予想できていなかっただろう。現在、アプリの制作に携わる仕事をしている人も多いかと思うが、そうした仕事は10年前には影も形もなかった仕事なのだ。

同様に、いまから10年後、社会がどうなっているかはわからない。かつてのmixiのように、FacebookTwitterは過疎って廃れ、代わりに別のSNSか、もしくはそもそもSNSとはまったく形態の違うべつのサービスが一世を風靡しているかもしれない。スマホに代わる新たなデバイスが主流になっているかもしれないし、そもそも戦争が起きて世紀末的な、力がすべてを解決する弱肉強食の世界に変容している可能性だってある。

自分の心だって、どうなっているかわからない。いまの私は編集者として売れる本を作りたいと考えているが、10年後の自分が何を望み、どんな目標を立てているかは予想できない。もし結婚したり子どもがいたりすれば、価値観(自分にとって一番大切なもの)が変容していることだって考えられる。

平本相武について

というわけで、こんな本を読んだ。

成功するのに目標はいらない!―人生を劇的に変える「自分軸」の見つけ方

成功するのに目標はいらない!―人生を劇的に変える「自分軸」の見つけ方

 

著者の平本相武(ひらもと・あきお)氏は1965年、神戸生まれ。東大を卒業後、心理学の講師を務め、病院でのカウンセラーなどの経験を経て、1997年に渡米。シカゴの大学院でカウンセリングの修士課程を修了して、現地の小学校や州立刑務所などで心理カウンセラーとして活動した。2001年に帰国し、現在は企業や官公庁などでセミナーを開いているほか、企業家や投資家、アスリートなどへの個人セッションも行っている人物だ。要はコーチングのプロフェッショナルである。

ちなみに、平本氏はほかにも著書があるのだが、なぜかそちらの著者名は「平本あきお」と名前を平仮名に変えている。初見だと読みにくい名前だったからだろうか。

フセンで考えるとうまくいく:頭と心が忙しい人のための自分整理術22

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現在は株式会社チームフローという会社の代表を務めている。

teamflow.jp

カバーはださいが、中身はよい本

さて本書のカバーに大きく出ている男性が平本氏である。個人的には、こうした著者の顔写真がデカデカと掲載している本はあんまり好きじゃない。テレビによく出ている著名人ならまだ売れ行きに影響するだろうから理解できるが、活躍しているとはいえ、タレントと比べると知名度が落ちる人物がこのように顔出しすることの意義を見いだせないのだ。それに、満面の笑顔で写る男性がなんだか胡散臭く感じる……わけだが、本の内容的にはよいものだった。

本書はいわゆる「自己啓発本」のジャンルに区別される本だ。なにか、ビジネスや日常生活に直接的に役立つテクニックやノウハウを伝えている本ではない。物事の考え方、捉え方のアドバイスを伝授する本である。

そして世の中に出回っている自己啓発書の多くは、「目標を立てることの大切さ」を説いている。とにかく具体的な目標を立て、その手段を明確化し、手短なところからまずは手に付けることを推奨しているのだ。

それらほかの自己啓発本と比べて、私が本書でなるほどと思ったのは「必ずしも目標を立てる必要はない」と述べている点である。平本氏は「自分軸」を確立することが大切だと説き、人間は大きく「価値観型」「ビジョン型」に分けられると説いている。多くの自己啓発本は、後者の「ビジョン型」の人々に向けられて書かれたものである、というわけだ。この2つの区分けを、まずは説明していこう。

日本人は「価値観型」が多い

「価値観型」は「理由を重視する人」であり、「ビジョン型」は「行き先(目的)を重視する人」と平本氏は説明している。前者は過去の行動から直近の満足度向上を目指す人々で、後者は未来の「なりたい姿」から逆算していまの行動を選択する人々だ。

平本氏が「価値観型」の人がいると気づいたのは、アメリカから日本に帰ってきたとき、カウンセリング相手に将来の目標を尋ねても、日本人はビジョンを持っていない人が多いことに気付いたためだ。当初、平本氏はこうしたビジョンを持たない日本人はアメリカ人よりも劣っているのだろうかと考えたが、実情を見てみると、ビジョンを掲げていなくてもしっかり結果をだし、評価されている企業・人も多いことから、この「価値観型」の人が日本には多いのではないかと考えるようになったという。

たとえば繁盛しているお店の場合、「何年後に売上高○億円を目指す」といったビジョンを掲げていることは少ない。むしろ、「今日来てくれたお客さんに、出来る限りの満足を提供する」ことを意識しているのだ。お客さんから新たな要望があれば、それにマッチするように店の在り方を変えていく。その結果、店が繁盛するようになったというわけである。

個人レベルに落とし込むと、「ビジョン型」はやりたい仕事が決まっているが、「価値観型」は「自分の満足度」を重視するので、それが満たされる仕事・働き方であれば業種や職種はあまりこだわらない。価値観というのは、たとえば「なにかを生み出す」「人の笑顔になる」「チームプレイで結果を出す」「自分が成長できる」などだ。

たとえば経理の勉強をする場合、ビジョン型の人はたとえば「将来独立する目標があるから、そのために経理の知識を身につけておこう」などと考えるが、価値観型の人は「経理の部署に配属されたから、会社の役に立てるようにこの仕事をしっかりできるように自分の知識を深めよう」などと考える。無論、どちらの考え方がいいとか悪いとかはない。本書では、表で自分がどちらの型に近いのかチェックすることができる。

自分軸の見つけ方

自分がどちらの型かわかったところで、本書は本題である「自分軸」の見つけ方に移っていく。いろいろな見つけ方が書かれているが、個人的に一番根本だと思うのは「自分はなにが楽しいのか?/嫌なのか?」を明確にすることのように感じた。そのために、過去の体験やロールモデルになりうる人物などを探すのである。そういったものが思いつかない場合は、「これだけは絶対に嫌なこと」「絶対にこうなりたくない人」から考え始めてもいいらしい。

ただしこれ、自分一人で考えるのはかなり難しそうだ。書籍には実際の霊が書いてあるが、これはあくまでも平本氏のカウンセリング(対話)のなかで発見されているため、ひとりで悶々と考えていてもうまくいかないかもしれない。人によるだろうが。

不安を原動力にした行動はダメ

また、注意すべきは「自分のやりたいこと」が、じつは「世間に流されていること」「他人に期待されていること」である可能性があることだ。そして「不安」をベースにした目標もダメらしい。たとえば、「老後が不安だから貯金しよう」という原理で節約生活を始めると、それは苦しくなりがちだ。ヨーダ先生も次のように言っている。

「恐れはダークサイドにつながる。恐れは怒りに、怒りは憎しみに、憎しみは苦痛へつながる」

ちなみに、最近ではスターウォーズを基にした自己啓発本も結構出ている。読んでないけど。不安や恐怖を原動力にした行動はダークサイドにつながるからあかん。

スターウォーズは悟りの教科書 Star Wars is The Bible of Enlightenment

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スター・ウォーズ 禅の教え エピソード4・5・6

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ぼくたちは、フォースの使えないダース・ベイダーである

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どちらの型か、明確に分かれるものではないのかもしれない

さて、徒花がチェックリストをやってみると、ビジョン型であることがわかった。

だが、冒頭で述べたように、私は10年後の自分がどうなっているか、もしくは「どうなっていたいか」というビジョンは描けない。ただ、それが「3年」というスパンになると話は違ってくる

私は最初に就職した会社(編集プロダクション)に勤めたころ、入った当初から「3年でやめよう」と考えていた。おそらく3年あれば、編集に必要な人通りの知識や技術は身につけられる。そもそも私が入りたかったのは自社で書籍を刊行できる出版社だし、一通りのノウハウを身につけたとき、それでも自分が編集者としての道を続けたいと考えるかがわからなかったからだ。続けたいと感がるなら出版社に転職するし、そう考えなかったなら別の業種に移ればいい。そんな風に考えていた。

いまの私は「今後3年間で3万部の本を最低でも3冊作る」ことを目標に掲げている。なぜかというと、たしかどこかの出版社の応募条件でそんな条件のところがあったからだ。とりあえずこれくらいの実績を残しておけば、いざ転職するときにアピールできるわけだ。また、もし出版以外の業界に行くにしても、やはりこれくらいの実績は必要になってくるだろうと思われる。将来的な自分の選択肢を広げるために、目標を掲げているわけだ。

このように、もっとスパンを短くすれば、なるほど私はたしかに「ビジョン型」である。ちなみに私の自分軸は「知識が増えること」「それをまとめること」「それを表現すること」だろう。以下のエントリーでもチェックしてみたことだが、私は勉強が好きだ。自分が知らないことを知ることが楽しいし、それを自分なりにまとめ直して文章にすることがすきなのだ。

ada-bana.hatenablog.com

私がなりたかったもののひとつには作家があるが、なぜそれが編集者になったかというと、「最終的にどんな本を作るかを決めるのかは編集者なのではないか」と考えたからだ。そして何より、自分が作家として作品を作るとしても、どうせなら売れたい。だからこそ、それこそ3年後、出版社の編集者として一通りの仕事ができるようになったとき、私のやりたいことはもしかすると当初の願望だった「作家」にまたなっているかもしれない。そこはまだ未知数だ。

おわりに

なんやかんやいいつつ私はビジョン型の人間なので、やはり目標を持つことは大切なのではないかと思う。ただ、そこで意識すべきは「目標はフレキシブルにする」ということだ。目標と目的は別のもので、端的に言えば、目標は目的のための手段でしかないわけだから、目標に拘泥するあまり目的から遠ざかってしまっては元も子もない。状況に応じて目的は柔軟に変えていけばいいのではないだろうか

 

それでは、お粗末さまでした。