『AVビジネスの衝撃』のレビュー~AV(アダルトビデオ)業界のこれから~
今回のテーマはオーディオビジュアルじゃないほうの「AV」である。
もくじ
「ビデオ」って死語?
ご存知のように、これはアダルトビデオの略称だが、よくよく考えてみればいまどきの10代後半はそもそもビデオの実物を見たことがないのではないかと危惧している。どうなんだろ?
かくいう私もVHSだけでベータマックスはほとんど見たことがない。しかし、レーザーディスクは親が持っていたのでそれで『天空の城ラピュタ』とかを見ていた記憶がある。そう、ちょうど「竜の巣」が出てくるところで切れて、ひっくり返さなければならなかったのである。こんなエントリーでラピュタの商品リンクを貼るのもなんかアレだが……。
AV業界はいろいろと危機的状況にあるようだが、まずは「AV」に変わるなにかキャッチーな名前を考えたほうがいいのではないだろうか。「アダルト」という言葉もなんだか古臭いし。
昨今のAV事情
前述したように、AV業界は出版と同じように――というよりもそれよりはるかに厳しい状況に置かれている。なにしろ、インターネットに接続すればモザイクのない無修正動画がいくらでも転がっていて、さほどパソコンにくわしくない人でも簡単にそうしたエロ動画を見れちゃうのだ。洋物から素人モノ、レズ、ゲイ、SM、スカトロなどなんでもござれである。
かくいう私も大学入学とともに一人暮らしを始めた当初のころにはレンタルビデオ店のAVコーナーにはお世話になった記憶があるが、すぐにオンライン上の無料エロ動画に移行した記憶がある。Xvideosというサイトを知ったときには「これが楽園というヤツか! シャングリラ! アヴァロン! パラディーゾ! ティル・ナ・ノーグ!」と心の中で叫んだものだ。楽園はどこにでもある。
出版以上に厳しいAV業界
ともかく、こんな状況であるがゆえに、女優や機材や撮影場所やその他もろもろの道具などに金をかけてAVを撮って売ることを生業としている人々にとってかなり苦しい時代であることは間違いない。しかも立場上、映画やマンガのように大々的に海賊版の防止を広く世間にアピールすることもできないのが辛いところだ。
本当はここらでAV業界全体の売上高の推移とかのグラフを載せればいいのだろうが、ちょっと探してもみつからなかった。まぁ見つかったとしてもアンダーグラウンドな部分もあるので、どれだけその数値に信頼性があるのかも疑問ではあるが。
『AVビジネスの衝撃』について
というわけで、今回読んだのがこの本である。
タイトルは明らかに池内恵氏のベストセラーをパクっ……オマージュしているが、出版業界ではよくあること。マスコミ関係者はトレンドに敏感であらねばならない。
著者の中村淳彦氏はAV業界の関係者ではないものの、ノンフィクションライターとして数々の書籍を手がけている。とくに「性風俗」を得意としているようだ。『デフレ化するセックス』とか、なかなかスパイシーなタイトルである。
本書は、そんな中村氏がAV監督やAV女優、AV男優といった関係者にインタビューし、そこに考察を加えながら現在のAV業界のリアルを追及した一冊である。今回は本書の内容からピックアップしていく。
AV業界の市場規模と現状
AV業界の歴史は「34年」と書いてあるので、黎明期は1980年代初頭と考えられる。ベータマックスの発売が1975年、VHSが1976年なので、ちょうど各家庭にビデオデッキが標準装備され、一般家庭にビデオが普及するのと同じくらいの時期にAVが誕生したことがわかる。
本書によれば業界の市場規模は試算で4000~5000億円。ちなみに書籍の推定販売額は8000億円くらいなので、それよりもちょっと小さいくらいだ。コミックスの販売額は2000億円くらい。ただし、これは裏ビデオなどすべてを含めた値で、世間一般に広く出回っているものだけなら、500億円程度と考えられるらしい。
いずれも日本の出版統計|全国出版協会・出版科学研究所より
現在、市場を寡占しているのはCA(DMM)グループ、ソフト・オン・デマンド、プレステージの3つ。この3つで、市場の7~8割ほどは占有されていると考えられる。人間から性欲はなくならないが、AVは生活必需品というわけではない。というわけで、意外と景気の良し悪しに左右されやすいらしく、2008年のリーマン・ショック、2011年の東日本大震災などを受けて、最近は本格的な行き詰まりが叫ばれているようだ。
そのためか、DMMグループは盛んにCMを流しているように、業務の多角化を推し進めている。オンラインゲームやコンサルティング、FX・CFDの取引などだ。
たぶん、DMMという会社を知らなかった世のオバサマがたのなかには、いまでもこの会社がじつはAVメーカーから出発し、いまもその事業を続けていることを知らない人も多いのではないだろうか。
一方、ソフト・オン・デマンドやプレステージはいまもAV一本で事業を続けている。というよりも、資本力がないから手を広げたくてもできない、というのが現実なのかもしれないが。
ちょっと余談
本書ではけっこうAVの歴史を振り返りながら、AVが隆盛を極めた時代の話にけっこうページが割かれている。なかなか派手で、かつとんでもない世界だったようだが、徒花はそうした過去にはあまり興味はないので本エントリーでは取り上げない。また、当時のAV女優のことや、知られざるAV男優の苦労話などもくわしく書かれているが、末節なのでここではガッツリ割愛する。知りたい人は本書を読めばよろし。
そして余談である。いわゆる一般に販売されている「表AV」には局部にモザイクがかけられていることは周知のことと思うが、あれは別にそうしなければならないと決まっているからではなく、警察の摘発を防止するために各制作会社がやっている自主規制だ。だがその一方で、「本番行為はしていませんヨ」ということを示しているとも聞いたことがある。
つまり、「見えてないから本番してるかなんて確認できないですよね?」って感じ。実際、初期のAV作品では本番行為を行わず、角度などをうまく使っていかにも「本番をやってる感」を出していたものも多かったようだ。
そうしたAV業界の過去の常識を覆したのが、本書でもかなり登場しているAV監督の村西とおる氏である。村西氏は実際に本番行為をやっているAVで人気を博し、その後も巨万の富を得たという。それから、「AVで本番行為をやる」ことが当たり前のこととなっていったという。
AV業界のこれから
リーマン・ショックや東日本大震災など、景気の悪化もたしかにAV業界に大きなダメージを与えたが、やはり同業界にとって致命的となった出来事は「デジタル化の波」である。ここらへんは、音楽業界も出版業界も同じような感じだろう。最初のほうでも述べたが、いまどきAVをレンタルしたり、ましてや購入したりする人なんてほんの一握りだろう。ちょっとネットで検索すれば、あらゆるサイトでモザイクのない過激なエロ動画が見えるのだから。
また、本書の中では、「AV業界はクズしかいない」という話もある。「労なく儲けたい」という人間がAVを作っているから、顧客のニーズに応えられないという面もあるという。たしかに、普通の企業であれば、いわゆるイシキタカイ系の人々は「この商品/サービスが人々や社会を幸せにする」と信じて、使命感によって働いている。しかし、AV業界の中にはこうした使命感を持っている人が少ないようだ。
さらにいえば、AV業界が寡占化してしまったことも問題だという。3社によって流通が寡占されると、作品が店頭に並ぶかは3社の意向次第になる。すると、エッジの効いた作品が世に出回らなくなり、横並びの、つまらない作品ばかりになってしまうというのだ。これが悪循環を生み出すという。
じゃあ今後、AV業界はどのように生き残っていくのか。本書ではその道筋がいくつか示されている。
①映像以外の部分でカネを取る
いわゆるAKB商法で、AV女優との握手会を開いたり、地方でイベントを開催するといったものだ。ただしこれは、当然ながらそのAV女優にファンがつくくらいの人気がないと成り立たない。
②エロを薄める
いまでこそ本番行為が当たり前になり、モザイクなしの動画がネット上に出回っているが、逆にかつてのイメージビデオのように、本番行為をやらないイメージビデオみたいなものを手がけるという手だ。これにより、落ち目となったテレビタレントなどを出演させ、それを売りにしていくという方法である。
③女性をターゲットに加える
AVといえば普通は男性が見るものだが、あえて女性向けのAVを制作し、それによりターゲットを広げるという手法である。ただしこれは、個人的には成功する可能性はすんごく低いと思う。というのも、すでにネットにはそうした女性向けのエロ動画を無料で流しているサイトがいくつもあるからだ。女性をターゲットに含めても、やはりもうAVにお金を落とすことはないと思う。
④海外進出
これは前述した村西とおる氏がプッシュしている案。現在、中国では日本のAV作品が非常に人気が高いらしく、AV女優はまるでアイドルのような存在だという。たしかに、蒼井そらのカリスマ的人気を見れば、それもうなずける話だ。日本のAVは世界的にみてもクオリティが高いらしい。つまり、これからハッテンを遂げていくアジアの新興国にどんどんAVを輸出し、さらにAV女優も派遣して、海外で稼いでいくという手法である。
おわりに
今後、AV業界がどうなっていくのかはさっぱりわからないが、近からずも遠からぬ出版業界で働く私にとっては、AV業界の今後は無視できないものであることは確かである。エロ動画にアップされているAVにはお世話になってるしね!!
というわけで、お粗末さまでした。