徒花は出版社に勤めていて、毎日のように一般の方から企画書や原稿が届く。
もくじ
ボツボックスに入ったら終わり
私の会社では配達員の人から受け取った順番で見ていって、気に入らなければ隣の人にパスしていく。誰のお気にも召さなかったものは「ボツボックス」に投入される。そのまましばらくは保管するが、よほどのことがない限り、そこに入った企画が日の目を見ることはない。
つまり、パッと見で編集者を「おっ!」と思わせなければ、チャンスは一瞬でつぶれてしまうのだ。
採用される確率は1%くらい
問題は企画が採用されるのがどのくらいの確率かだが、ざっと見積もって1%あるかないかくらい。ご愁傷様だが、いちいちひとつひとつの企画を会議にかけて検討する時間はないので、これは仕方がない。あと正直、検討するまでもないようなレベルの企画がほとんどなので、編集者はうんざりしている。
そもそも、編集者とは「自分でオモシロイ企画を見つけたい」と考えている生き物である。だから、向こうから強烈にアプローチをかけられるとなんかやる気をなくす習性がある。だから、オーガニック検索でこの記事にたどり着いた人には申し訳ないが、本を出したいならAmazonのKDPでもやったほうがラクだと思う――というのが結論である。
1%の成功率を1.3%くらいに上げる
とはいっても、やっぱり出版社を通じて紙の本を出したい(でも自費出版はイヤだ!)という人もいると思う。また、なかには「ちょっとおもしろいかも」と思える企画も皆無ではない。
なので、そうした人々に向けて、「こんな風にしたら採用される可能性が1%から1.3%にあがるかもよ」的なポイントを僭越ながらアドバイスしていこう。
①原稿はマスト
よくあるのが企画書だけペラリと送られてくるパターン。こんなの通るはずがない。本を出した実績とか、すごい経歴があるなら話は別だが、その人の文章力も、具体的にどんな内容なのかも分からない企画に割いている時間はない。
また、「ブログをやっているので読んでください」というメッセージとともにブログのURLを貼り付けている場合もあるが、面倒くさいから見ない。だったらせめて、自分的に一番おもしろい記事をプリントアウトしてサンプル原稿の代わりに同封するくらいのことはしてほしい。
②概要書をつける
逆に、数百ページはあろうかという原稿だけドッサリ送りつけてくるパターンもあるが、これはこれで迷惑な話だ。とりあえずどんな内容の本なのかが紙1枚でわかる簡単な概要書のようなものをつけてほしい。概要も分からないのに、そんな分厚い原稿を丁寧に読んでいる暇はない。
つまり、企画を送るときは概要書と原稿をセットにして送ったほうが、非常に親切で「まともに読んでもらえる」率が上昇する。もちろん、中身がダメだったら意味がないけど。
手書きはNG
原稿や概要書を手書きにしたり、やたら熱いメッセージを殴り書きしてくるパターンもあるが、これも効果絶大とはいいがたい。なぜなら、単純に「読みづらい」からだ。基本的にワープロソフトで作成したもののほうが望ましい。
出版社を選ぼう
出版社のHPなどにある企画募集の要項には「ジャンルは問いません」と書かれていることが多い。これはウソではない。実際、多くの出版社は「売れると判断できるならなんでも出す」というスタンスを持っている。
しかし、出版社にはそれぞれ得意ジャンルがある。たとえば私の出版社はいわゆる人文書、実用書などで、小説は出したことがない。だから小説販売の実績がなく、小説を送られてもあまり「これは売れる」と自信を持てない。だから、こういう会社に小説の企画を送りつけても、採用される可能性は小さい。
企画を送る前に、その出版社が得意としているジャンルを調査し、そのなかに自分の企画した本が追加されても違和感がないかをチェックしよう。
自伝と詩はやめて
出版社にはそれぞれ得意なジャンルがあると述べたが、どの出版社も得意としていないジャンルがある。それが「自伝」と「詩」である。
まず自伝だが、これはけっこう年配の方から送られてくることが多い*1。しかし、イマドキは芸能人でも自伝はなかなか売れない。名前も知らないフツーのおじいさんの自伝に一体誰がカネを出して買うと考えているのか。そういうのはおとなしく自費出版の会社に頼もう。
次に詩。が、私は寡聞にて、爆発的に売れた詩というやつにはあまり覚えがない。せいぜい一部の人から支持されるのは谷川俊太郎と中原中也くらいだろうか。とにかく、名もない人が詩を書いて売れるとはとても思えない。
電話をかけるのはやめよう
多くの出版社では企画が送られても「受領の返事」「出版の可否」をいちいち送り主に伝えない。「企画は受け取ったのか?」「原稿を読んだ感想は?」「出版できるのか?」と問い合わせると、心証は悪くなる。
とくに私が勤めているような中小出版社の場合、編集者が電話応対することもあり、これがかなりめんどうくさい。別に電話で念押しされても企画の自体の評価はまったくかわらないし、人によっては逆に下がる。やめとこう。
自分の影響力の大きさをアピールしよう
たとえば「自分がやっているブログの月間ユニークアクセスが数百万です」とか「Facebookのフォロワー数が数万人です」とか「講演会をやると数百人が毎回来てくれます」とか、こういうことがプロフィールに書いてあるとちょっと「おっ」と思う。こういうのはガンガンアピールすべきだろう。
もちろん、中途半端な影響力では全然意味がない。また、Twitterのフォロワー数は残念ながら自慢にならない。TwitterはほかのSNSに比べるとだれでも簡単にフォロワーを増やせるからだ。
ベンチマークを提示しよう
編集者にとって大切なのは、「本の完成形がイメージできるか」「本がバカ売れしていた未来をイメージできるか」である。それがイメージできないと、そもそも上司や営業部を説得することはできない。
そのための有用な方法のひとつが、ベンチマークを設定することだ。つまり、「既存の本だとこの本に近いです」「この著者の、こういう本の隣に並ぶのを想定しています」「書店だと、○○コーナーに売られているものです」というようなやつだ。
ここでポイントは、「ベンチマークは売れてる本にする」のが鉄則であること。売れてない本を目標にしても仕方がない。
ペンネームはいらない
小説の場合に多いが、自分で考えたペンネームしか書かれていない場合がある。単純に生意気に見えるので、なにか理由があって出版社にも本名を明かせない事情があるケース以外、基本的にはペンネームではなく本名で送ったほうがいい。ペンネームなんてデビューが決まってから、編集者と相談しつつ決めればいいのだ。
Web上で発表したほうがいいよ
いろいろ伝えてきたが、今の時代、ハードルの高い出版社経由より、もっと手軽に自分の考えを発表できる場は腐るほどあるのだから、そちらを活用したほうがいいのではないかと考える。なにより、そうしたWebサイトで人気を集めることができれば、逆に編集者のほうから声がかかることだって多い。
いくつか、おススメのサイトを載せておこう。
話題になった「ビリギャル」こと『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶応大学に現役合格した話』もこのサイトでずっと連載していたものが本になった。
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あと、まだ注目度は低いが、「note」もいい。
こちらは『ぼくは愛を証明しようと思う』を生み出したコラムサイト、「cakes」が運営しているサイトだ。
「cakes」はサイト運営者からプロしか文章を掲載できないが、「note」はだれでも投稿できる。しかも、自分で自分の文章に値段をつけることができる。もしかすると、ここで人気が出れば「cakes」に連載されるようになるかもしれない。
小説なら、やはり「小説家になろう」が鉄板ではないだろうか。ここからデビューした作家は通称「なろう作家」とも呼ばれるほどだ。人気が出るのはラノベスタイルのものだが、最近では『君の膵臓をたべたい』など、一般向けの小説も少なくない。
あとは「E★エブリスタ」「カクヨム」あたりか。
もちろん、ブログを書き始めるのもいい。とにかく書こう。
お役に立てれば幸いだ。
今回はこんなところで。
それでは、お粗末さまでした。
*1:自分の死期を悟ったのかなんなのかしらないが、ある程度の年齢になると自分の人生を文章にまとめたくなるようだ