『マンイーター』のレビューとともに~はじめての高橋葉介~
すでに立秋を超えて暦の上では秋となっている今日この頃。それはさておき、夏と言えば怪談というのが日本固有の文化である。
もくじ
しかし徒花は、絶叫マシン同様、ホラーものも大変苦手である。とくに一人暮らしの人間にとっての大敵は、あの黒光りするGと突然放送されるテレビの心霊番組が双璧をなす。というわけでホラーゲーム、ホラー映画、ホラー小説の類はまずめったなことでは読まないのだが、今回紹介するマンガ家、高橋葉介氏は一応ジャンル分けするとホラー作家である。
それでは紹介していこう。
高橋葉介とは
1956年生まれで、御年60歳でありながらいまなお現役で漫画を描き続けている大家である。本名は高橋庸介。どうもこの字で「ようすけ」と読ませるようだが、本名だと誰も正しく読めないため、新鮮味もかねてこの字に変えたらしい。
生まれは長野だが、すぐに東京のほうに越してきて、以来東京暮らし。マンガ家としてのデビューは駒澤大学4年生の時で、1977年『マンガ少年』8月号掲載の『江帆波博士の診療室』がデビュー作となっている。このデビュー作は現在『仮面少年』で読むことができる。
内容の特徴としては、冒頭でも述べたようにホラーものが多いこと。ただし、いわゆる和風の「背筋がゾッとする怖さ」というよりも、血みどろスプラッターだったり、内臓が引きずり出されたり、うまく形容できないおぞましい怪物が人間を襲ったりするものが多い。つまり、内容的にはB級ホラーと言っても過言ではない。
ただし、ホラーものばかりを描くわけではない。ホラーとギャグを織り交ぜて笑える作品にしたり、冒険活劇ものを描いたりもする。また、ホラーとまではいかなくても、小説でいえば江戸川乱歩の雰囲気に近い、怪奇ものも大得意だ。
絵柄の特徴としては、筆を使って描く点。メインの線を筆で書いているらしく、そのため、ほかのマンガではあまり見られない柔らかく、滑らかなタッチが目を引く。しかし、だからといって和風のイラストになるわけでもないのが不思議な印象だ。
主な作品
代表作はなんといっても『夢幻紳士』シリーズである。主人公である夢幻魔実也(むげん・まみや)は初期のころはは明るさもある快活な美少年探偵で、昭和初期の東京を舞台に様々な怪事件を推理力と超能力を使って解決していく。ちなみに、夢幻シリーズはマンガ少年編と冒険活劇編に分かれているが、同じようなシリーズで続いていると考えてもさほど問題はない。
《新装版》夢幻紳士〈マンガ少年版〉 (ソノラマコミック文庫)
- 作者: 高橋葉介
- 出版社/メーカー: 朝日ソノラマ
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ただしこの夢幻氏はこのシリーズの最終和で太平洋戦争を経て大人になり、結婚して子どもをもうけている。その後、『夢幻心身(怪奇編)』では黒いスーツと山高帽をトレードマークにした美青年になっていて、タバコと酒をやたら呑み、女を口説いてモノにする、クールな傍観者キャラとなっている。
夢幻紳士 (怪奇篇) (ハヤカワコミック文庫 (JA889))
- 作者: 高橋葉介
- 出版社/メーカー: 早川書房
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ただし、とくに女性人気の度合いでいえば、おそらくこちらの青年・夢幻氏のほうが人気が高いと思われる。個人的にも大人になってからのほうがちょっとアダルティで色気があり、好きである。B級ホラー映画にはやたらとおっぱいの大きなバカっぽい金髪女が出てくるが、ホラーとエロスは相性ばっちりなのである。
またこの夢幻氏、ほかの作品でもゲストキャラのような扱いで登場することがたびたびあるため、とにかく高橋葉介氏の作品を読むならばこの夢幻紳士シリーズは欠かせないものとなっているのだ。
続いて代表的なのは『学校怪談』シリーズ。こちらはやはり超能力(霊能力)を持っている九段九鬼子という女性教師を主人公に、彼女の生徒たちが遭遇するさまざまな心霊事件を解決するという、のちの『地獄先生ぬ~べ~』のような作品だ。
地獄先生ぬ~べ~ (01) (集英社文庫―コミック版 (お60-1))
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じつはこの作品でも、夢幻紳士はけっこう重要なキャラクターとして登場してくる。この作品で、夢幻紳士は高橋ワールドにおける最強キャラクターという地位を確立させたといってもいいだろう。
ちなみにこの『学校怪談』の後日譚として描かれたシリーズが『KUROKO-黒衣-』である。見た通り、忍者がモチーフとなっているが、やはり妖怪のような怪物退治の話だ。
最近の活動
最近の作品では、夢幻紳士シリーズ『逢魔篇』及び『迷宮編』に登場した女芸人、手の目が主人公となったスピンオフ作品『もののけ草紙』がある。まったくの余談だが、徒花はわりと吊り目がちのちょっと目つきの鋭い女の子が好きである。あと男っぽいサバサバした女性もタイプなので、『学校怪談』の九鬼子先生や手の目とか好き。
ほか、作品自体は少ないが、固有のキャラクターとしてインパクトが強いのは『クレイジーピエロ』だろう。
これは中世ヨーロッパを感じさせる世界を舞台に、復讐を誓う少年がクレイジーピエロというダークヒーローになり、悪人たちを八つ裂きにしていく物語で、一言で言うとグロい。
それ以外にも短編が多く、最近は昔の短編作品を書き直してまとめたものが多く出ている。当然ながらいまのほうが画力は高く、独特な線のタッチがいかんなく発揮されているので、徒花はあまり古い作品は集めず、新作が出るたびにそちらを購入するようにしている。
『マンイーター』のレビュー
今回購入して読んだ『マンイーター』も、もともとは1997年に発売された作品を本人が描き直したものである。短編集であり、人間を食らう怪物、マンイーターを主人公にした作品は冒頭の1作で完結している。
その前に読んだ作品『人外な彼女』は割とコメディ色が強かったので、それと比べると(初期の作品であるためか)スプラッタ色が強く、なかなかショッキングな内容ではあった。
各話に対するコメント
以下、個々の作品にコメントしていこう。
『マンイーター』
人間を食らう怪物、マンイーターの女を主人公にした話。ある日、人間の男だと思って襲った男が、じつは同族だったということで、彼女の運命は狂い始める。コマの半分くらいはなにかしら血が出ている。
『肉蟲』
こちらは血が出てこないものの、グロテスクなシーンが多い作品。恋人を友達に奪われた女がやけ食いし、見るも恐ろしい醜悪な姿に変わっていき、復讐を果たす話。オチに意外性はあまりない。
『お気に召すまま』
タイトルはシェイクスピアの作品のオマージュだろう。とにかく好きな男に気に入られるため、男の望む通りの姿にどんどん変わっていく女の物語。個人的にはこの本に収められている話の中では一番好き。怪奇ものかと思いきや、オチでギャグを持ってきて、その時の表情がなかなか笑える。
『双子の恋』
一卵性双生児の男と付き合っている女の子の話。途中からオチが読めてしまうのでイマイチ。
『パパはあなたが嫌いみたい』
男手ひとつで育てられた娘に結婚を申し込みに行く男の話。ありがちな展開で、とくに驚きはない。
『きつね』
きつねに化かされた男女の話。ギャグが入っているが、ありそうな人間心理をうまく描写しているあたりはちょっとおもしろい。
『似たもの同士』
互いに反目しあうものの、なぜか行動が似てしまう2人の女の子の話。ちょっとオチが強引。
『首を吊っているのは誰?』
学校で起きた首つり自殺をテーマにした怪談話。怖さという点では本作の中で一番かも。
『猫の実』
フタバというやたら冷酷で残虐な女の子が死体を見つけてそこから生えていた植物を持ち帰る話。ここから3話はこのフタバが主人公となる。高橋葉介の作品の中ではなかなかありそうでなかったキャラのような気がするが、とても主人公に共感できないだろうから、人気は出なさそう。オチはありがち。
『フタバ』
フタバが同じクラスの女子生徒から好意を抱かれる話。キマシ!
『コインロッカーベイビー』
タイトルはおそらく村上龍氏の『コインロッカー・ベイビーズ』をモチーフにしたもの。フタバがコインロッカーを使おうとしたところ、赤ん坊が入っていたという話。その後、邪魔だと思ったフタバは赤ん坊を公園の池に捨ててしまうあたり、彼女の非道ぶりが際立つ。なんかいい話っぽくまとめているが、さすがにこれでフタバちゃんの印象を変えるのは無理がある。
『荒野』
こちらは1979年に雑誌に掲載された作品で、ほかの話とはだいぶ毛色が変わり、ホラーやスプラッタなどはなく、幻想的でハッピーエンドを思わせる終わり方になっている。
以上。
ストーリーには期待しすぎてはいけない
コメントを読んでもらえばわかるように、高橋葉介氏の作品の場合、シナリオはぶっちゃけ大したことはない。そもそもホラー系はシナリオ的にテンプレが決まっているし、作られたのは昔のことなので、今から見るとありふれたストーリー展開となっている。ただし、同氏の作品は物語を楽しむのはもちろん、怪奇的な雰囲気や独特な絵柄を楽しむものでもあるので、その意味では十分満足できる一冊だった。
次は『ヘビ女はじめました』を読んでみるつもり。ぅゎ ょぅι゛ょ っょぃ!
というわけで、気になったら一度、読んでみるのもオススメだ。夏が終わる前に。
それでは、お粗末様でした。