『ヒトの目、驚異の進化』(マーク・チャンギージー)のレビュー
・人間の目は他者の感情を見抜く
・人間の目は透視をする
・人間の目は未来を予見する
・人間の目は死者の意思を読み取る
こんなふうなことが主張された本があったら、まあトンデモ科学本かちょっとうさんくさいスピリチュアル系の本ではないかと勘ぐってしまいますが、本書ではこれらのことが科学的な調査をベースにして、しごく真面目に語られています。
著者のマーク・チャンギージーはカリフォルニア工科大学で理論神経生物学の研究員をしている人物。カバーのそでに写真が載っていますが、なかなかイケメンですね。
「理論神経生物学」というのはネットで調べてみても説明がないのですが、人間の認知・知覚に関して研究をする人のことみたいです。
本書は冒頭で述べた、人間の目が持っている4つの「超人的能力」について解説していくのですが、ここではそのあらましを説明してみましょう。
人間の目は他者の感情を見抜く
人間の目は多種多様な「色」を認識します。
人間がなぜこんなに細かい色を識別できるのか?
従来の説では「実っている果物が熟しているかを判断するため」などと言われていましたが、チャンギーじーさんはそれに対して懐疑的です。
そうではなく、むしろ「相手の肌の色の変化を識別するために、細かい色を識別できるようになったのではないか」ということなのです。
「肌色」というのは、――いまはもう差別的なニュアンスを含むのでクレヨンの色などでも使われなくなってしまったようですが――別の言い方がなかなかできない色ですね。いろいろな色が混じり合っています。
そして、この肌の色は相手の健康状態や心理状態、感情などを如実に表すものなのです。人間の目は相手の肌の色を変化を見抜くことで、相手の感情を洞察している……ということです。これが「人間の目は他者の感情を見抜く」と言う主張の正体です。
ちなみに「黒人の場合はどうなんだ」というツッコミに対しても、著者はちゃんと説明していますので詳しくは本書を読んでみてください。
人間の目は透視をする
多くの動物は「2つの目」を持っています。
しかし、人間のように「2つの目がどっちも前を向いている動物」は多くはありません。多くの動物は右側面と左側面に1つずつ目がついていて、より広い視野をカバーできるようにしています。
じゃあ、なんのために人間の目は前方に向けて2つついているのか。じつは、ちょっとズレた位置に2つの視点があることで、「片方の目では見えない前方部分をもう一方の視線でカバーしている」のだとチャンギージー氏は主張します。
たとえば、左目をつぶって、右目だけでグッと左端を見ると、「自分の鼻」が邪魔をして視野の一部を塞いでしまいます。しかし、左目ではその部分を問題なく見られます。そのため、私たちの目は自分の鼻を「透過」して向こう側を見ることができるのです。
これが「人間の目は透視をする」の正体です。
人間の目は未来を予見する
錯視というやつがありますね。たとえば、こういうやつです。
どちらも先の長さは同じなんだけど、下のほうがなぜか長く見える。これは別に私たちの目が欠陥を持っているからではなく、「そう見える必要がある」からそうなっているわけなのです。
私たちの網膜がとらえた情報が脳に送られて処理されるには時間がかかります。それはコンマ何秒というレベルの話ですが、リアルタイムで送られた情報は、脳で処理されているときにはすでに「過去」のものになってしまうのです。
人間が「現在」を知覚するには、「コンマ数秒後に起こるだろう」ことを先読みする必要があります。これができないと、私たちは飛んできたボールをキャッチすることも難しくなります。
これが「人間の目は未来を予見する」の正体です。
人間の目は死者の意思を読み取る
少し考えてみると、私たちは四六時中、死者の考えを耳にしている……たんに、文字を読むことで。表記法が発明されると、死者は突然、生者に語りかけられるようになった(逆方向のコミュニケーションは遅々として進まないが)。あなたにしてみれば、私は死者も同然で、あなたは今この瞬間、霊読の技能を行使している。偉い!
私たちの目は文字を……紙に書かれた何千という小さな形を素早く処理して意味を読み取ることができるように進化してきています。私たちはものを見たとき、その特徴をシンボル化して表記するように見ているというのです。
これが「人間の目は死者の意思を読み取る」の正体です。
ということで、ここではかなりザックリと説明しましたが、実際の書籍ではもっともっと細かく、それぞれの能力について説明してくれます。専門的な言葉も多く、読むのはなかなか大変かもしれないけど、刺激的でおもしろい一冊です。
後記
『ボヘミアン・ラプソティ』を見ました。
伝記ものの映画ってけっこう好きで見たりするんですが、逆に世間で盛り上がりすぎると見る気が失せてしまう天の邪鬼な性格のため、鑑賞がここまで遅くなってしまいました。
いい映画でした。やっぱり音楽の力というのは偉大ですね。とくにクイーンの楽曲は印象もさまざまな名曲がいっぱいあるので、耳馴染みのある音楽があるだけで、各シーンをおもしろいものに仕立て上げられるのかなと。
ちなみに私はエンドロールで流れた「Don't Stop Me Now」がなんだかんだ一番好きです。
今回はこんなところで。
それではお粗末様でした。