本で死ぬ ver2.0

基本的には本の話。でもたまに別の話。

鮮やかすぎるオバちゃん探偵の連作短編 ~『ママは何でも知っている』のレビュー~

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ミステリーの世界には「探偵キャラ」がたくさんいるが、実際のところ、探偵を職業にしているのはごくごく一部である。

 

もくじ

 

きちんとした統計があるわけではないが、おそらく探偵キャラの職業で一番多いのは、やっぱり警察・司法(弁護士や検事など)関係者なんじゃないだろうか。

どこぞの某高校生探偵ではないけれど、普通の人がそんなにたくさん殺人事件に関わるのも不自然だし、捜査に携わることも難しい。

そのため、殺人事件の解決にごくごく自然に立ち入れる立場のキャラクターが多い。

 

ただし、世の中には警察・司法関係者でなくても探偵キャラクターとして活躍している人々がいるし、今回紹介する本もそんな名探偵が登場する物語だ。

 

ママは何でも知っている (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ママは何でも知っている (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 

 

安楽椅子探偵とは

 

この作品に登場する名探偵のママは、いわゆる安楽椅子探偵(アームチェアー・ディテクティブ)」である。

安楽椅子探偵というのは、「こういう事件があったんだよ」という話を人づてに一通り聞いただけで、あっというまに事件の真相から犯人、動機まで見抜いてしまうタイプの作品(およびその探偵)を指すミステリ用語だ。

探偵が事件について聞いただけで解決してしまうという作品上の構造を持っているので、必然的に短編小説になりやすい。

 

この種類の探偵で有名なところでは「隅の老人」や「ミス・マープル」がいる。

 

ミス・マープルと十三の謎 (創元推理文庫 105-8)

ミス・マープルと十三の謎 (創元推理文庫 105-8)

 

 

平凡なママのキャラクターも魅力

 

ママはニューヨークのはずれにあるブロンクス区というところで、夫に先立たれ、一人暮らしをしているのだが、毎週金曜の夜には警察官になった息子ととその妻が夕食を食べにやってくる。

ママはそこで、息子から「最近の事件」について話を聞き、警察の捜査とはまったく違う事件の全容を明らかにしていくのである。

 

本書の「ママ」は最後まで本名が明らかにされない(おそらく「隅の老人」のオマージュ)

ただ、話が進むにつれて、ママの過去やキャラクター性などが浮き彫りにされていく。

息子を溺愛していて、エリート思考の嫁と皮肉合戦を繰りひろげ、近所の人の噂話が好きなところはどこにでもいそうなおばちゃんだが、じつは彼女自身、自分の結婚にまつわる事件を自らの母親の名推理で救ってもらった過去などが明らかになるのだ。

とはいえ、別にすごい経歴の持ち主とか、なにか特別な才能がある人物というわけでもない。

正真正銘、ただただ推理力抜群の普通のおばちゃん・・・・・・というところが、このママの魅力なんじゃないだろうか。

 

また、息子の嫁とのちょっとした小競り合いをはさんできたり、息子の上司といい関係になりかけたりするなど、本筋とは関係のない部分でそれぞれのキャラクターをしっかり打ち出しつつ、物語として楽しめるように工夫している。

翻訳モノだと回りくどい言い方が多かったり、日本語にするとわかりにくかったりするものも多いのだが、本作の場合は連作短編ということもあってか、文章的に違和感を覚える部分も少なく、かなり読みやすかった。

 

ママの繰り出す「質問」も本書の魅力

 

ママの推理はどれも鮮やかなのだが、なかなかニクイ演出が、ママが自分の推理を話す前に息子たちに投げかける「質問」だ。

一見すると、事件には何の関係もなさそうな質問ばかりなのだが、その後の推理を聞くと、じつはそれがママの推理を裏付けるために大切な要素だということに気づかせてくれる。

ママの質問は、たとえばこんなものだ。

 

・事件当日の夜、もしかしたら近くの映画館で『風とともに去りぬ』が上映されていたんじゃないの?

・被害者のところに届いた手紙には、アンダーラインがたくさん引いてなかった?

 

読んでいると、犯人や動機が気になるのももちろんだが、ママがどうしてこんな質問を投げかけたのかも知りたくなってきて、ページをめくる手が止まらなくなる。

 

とまあここまで書いてきたし、私も初読みだったのだが、ミステリファンの間では昔からわりと高い評価を受けてきた名作中の名作だった模様。

読みやすくておもしろいので、ぜひ一度読んでみてほしい。

 

ママは何でも知っている (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ママは何でも知っている (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 

 

今日の一首

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50.

君がため 惜しからざりし 命さへ

ながくもがなと 思ひけるかな

藤原義孝

 

現代語訳:

あなたに会うためなら命さえ惜しくないと思ったけど、

いざあなたに会ったいまでは、少しでも長く生きたいと思うようになりました。

 

解説:

一夜をともにしたあと、男性が女性に送る「後朝(きぬぎぬ)の歌」。意中の相手と出会う前とあとの真情の変化をド直球に表現していて、むしろすがすがしい。著者である藤原義孝は美貌の貴公子だったが、あまり体が強くなかったようで、残念ながらこの歌を読んだのち、21歳の若さでこの世を去っている。

 

後記

『ヴェノム』を見てきました。

 



ヴェノムはもともとスパイダーマンの悪役(ヴェノム)という位置づけなんだけれど、本作では「ダークヒーロー」という扱いになっている。

その正体は彗星に乗って宇宙を漂っていた寄生生命体で、地球の環境ではなにかしらの動物に寄生していないとうまく活動できない。

また、寄生先との相性のよしあしもあるようで、要するに主人公と相性がよかったということだ。

また、宿主と思考や感情がリンクするような設定もあるようなので、正義感の強い主人公とシンクロして、残虐さが抑えられている幹事もある。

ツイッターを見てもらえばわかるが、凶暴そうな見た目と裏腹に、意外と素直でかわいい一面もあるので、そのあたりのギャップ萌えをしている人も多いみたいだ。

 

さてキャラクターは非常に魅力的だし、CGを駆使した戦闘シーンはさすがに圧巻なんだけど、ストーリーそのものの流れはマンネリ化してその意味でのおもしろさはあまりない。

いかにもアメリカーンな感じで、力こそすべてというメッセージを押し出すマッチョな映画でもある。

まあ、デートとかであまり頭を使わずに楽しめるエンターテイメント作品としては最適なんじゃないだろうか。

 

今回はこんなところで。

それでは、お粗末さまでした。