本で死ぬ ver2.0

基本的には本の話。でもたまに別の話。

本当に成功したいなら家庭はあきらめなさいという事実~『残酷すぎる成功法則』のレビュー

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世の中には「成功法則」と呼ばれるものがいくつかある。

 

もくじ

 

たとえば

「目標を紙に書いて部屋に張りなさい」

「すでに夢が叶ったように振舞いなさい」

「ありがとうを人に言い続けなさい」

などなど。

 

「成功」の定義というのも十把ひとからげにできないが、大概は「お金持ちになる」「円満な家庭生活」「人々からの賞賛を集める」あたりがポピュラーだろう。

 

しかし実際のところ、本当にそうしたやり方が効果的なのか、客観的なエビデンスは少ないのも事実。

「私はこうやって成功した」

「私が知っている成功者たちはこういうことをやっている」

などなど、少ない母数でわりと断言しているものばかりだ。

 

「残酷」なんだけど「成功」

 

今回紹介するこの本は、そのようにぼんやりした根拠だけで主張されている「成功法則」が、実際のところどれだけ信頼できるものなのかを、最新の脳科学的・心理学的なエビデンスで検証していく。

 

残酷すぎる成功法則 9割まちがえる「その常識」を科学する

残酷すぎる成功法則 9割まちがえる「その常識」を科学する

 

 

余談だけど、この本のタイトルは「残酷」「成功」という、一見すると相反するイメージを持たせる言葉を一緒に使うことで、見た人に「どゆこと?」という疑問を抱かせている点がうまい。

 

著者のエリック・バーカー氏はもともとハリウッドで脚本の仕事をしたのち、人気ブロガーとなった人物で、本書のように、いわゆる自己啓発的なライフハックエビデンスを追記している。

 

監訳者の橘玲氏のほうが日本では有名だ。最近では『言ってはいけない 残酷すぎる真実』が売れたし、ほかにも『バカが多いのには理由がある』『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』など、刺激的なタイトルの本が多い。

 

言ってはいけない 残酷すぎる真実 (新潮新書)

言ってはいけない 残酷すぎる真実 (新潮新書)

 
バカが多いのには理由がある (集英社文庫)

バカが多いのには理由がある (集英社文庫)

 

 

じつはこの人、もともとは編集者だったので、自分の本のタイトルもけっこう自分で考えているのかもしれない。編集者としてはちょっと仕事がやりにくそうにも感じる……。

 

全体のテーマは6つ

 

本書は全体で6つのテーマを掲げている。すなわち

1.いわゆる高学歴や優秀さは「成功」に結び付くのか?
2.「いい人」は成功できない?
3.粘り強い人が成功するのか、それとも切り替えが早い人が成功するのか?
4.人脈作りは成功に不可欠か?
5.自信がある人のほうが成功するのは事実か?
6.24時間仕事に全力を注げる人じゃないと成功はできないのか?

の6つ。

個人的におもしろかったのは「3」「5」「6」

ここではこの3つについて簡単に説明していこう。

 

3.粘り強い人が成功するのか、それとも切り替えが早い人が成功するのか?

 

数年前、日本のビジネス書界隈では「グリット(やりぬく力)」という言葉が流行った。

要するに、成功者は一度取り組んだことに対して粘り強く取り組むからこそ成功するのだ、という主張だ。

 

やり抜く力 GRIT(グリット)――人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける

やり抜く力 GRIT(グリット)――人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける

 

 

誰もがスーパーモデルやプロのバスケットボール選手になれるわけではない。私たちが描く夢の多くは、単純に達成不可能なのだ。達成困難な目標を断念したとき、人びとはより幸福で、ストレスから解放され、より健康になるという調査報告もある。では、最もストレスで参ってしまうのは誰か? それは、うまくいかないことを断念しようとしない人びとだ。
グリットは諦めることなしには成り立たない。スペンサーが、そのマイナス面を教えてくれた。

 

グリットに足を引っ張られている人を山ほど知っています。それは彼ら自身や周りの人を惨めにするだけで、長期的な良い目標につながらない事柄に執着させるからです。かわりに選択すべきなのは、自分が最もやりたいこと、自分、あるいは周囲の人にも、最も喜びをもたらすこと、そして最も生産的なことなのです。

 

まあ、結論は至極当然といえば当然なんだけど、「なんでもかんでも粘り強く取り組めばいいってもんじゃない」ってことだ。

ちゃっちゃと諦めたほうがいいものもあるし、粘り強く取り組んだほうがいいものもある。

 

じゃあ問題なのは、どうやってその二つを見極めればいいのか、ということだ。

自分がスーパーモデルやプロバスケットボール選手になれないだろうことは、大人になると多くの人がなんとなく理解してくる。

だけど、もっと実現できるかどうかが微妙な夢については、どのくらい頑張って、どこで諦めるべきかがけっこう難しい。

 

だけどこれも簡単で、

「なんでもいろいろやってみて、ダメそうだったらやめてみる」

というのが正解だ。問題なのは、私たちが失敗や挫折をネガティブに考えすぎていることなのである。

 

自分がやり遂げるべき目標がまだわからなければ、答えを見つけるために、たくさんのことを試してみればいい(そのほとんどをいずれ棄てるとわかっていても)。そして何か興味の焦点が見つかったら、学び続け、成長し続けるために、自分の時間の五~一〇%を小さな試みに当てよう。
(中略)
あなたの時間の一部を、ベンチャー企業が資金を投資するように使うのだ。ベンチャー企業は、成功の見込みが比較的低めな事業にも投資するが、それらがひとたび成功すると、途轍もない大成功を遂げることがある。たとえば一〇社に投資するなら、そのうち七社はだめになり、二社は収益がとんとんで、一社が次のグーグルかフェイスブックになると彼らは期待している。

 

引き寄せの法則はなにがよろしくないのか?

 

ここでおもしろいのは、ダメなやり方のひとつとして「引き寄せの法則」を取り上げている点と、なぜ「引き寄せの法則」がダメなのかを紹介しているところ。

 

人間の脳は、幻想と現実を見分けるのが得意でないことが明らかにされている(だから映画はスリリングなのだ)。何かを夢見ると、脳の灰白質はすでに望みのものを手に入れたと勘違いしてしまうので、自分を奮い立たせ、目標を成し遂げるのに必要な資源を終結させなくなってしまう。そのかわりにリラックスしてしまうのだ。

するとあなたはやるべきことを減らし、達成すべきことも減らし、結局夢は夢で終わってしまう。残酷な話だがポジティブシンキングそれ自体は、効果を発揮しないのだ。

 

引き寄せの法則」の代わりに著者が勧めるのが、ニューヨーク大学の心理学者ピーター・ゴルヴィツィーとヴェロニカ・ブランドスタッターの研究からわかった2つの魔法の言葉だ。

 

それが「IF-THEN」

日本語に直訳すると「もしも」「そのときは」である。これはとくに禁酒・禁煙・ダイエットなど、習慣を変えたいときに役立つ。すなわち「もし~になったら~をする」ということをあらかじめ決めておくことだ。

 

※興味深いことに同じように体調について科学的なエビデンスを検証した『最高の体調』でもこの考え方が紹介されていた。

 

最高の体調 ~進化医学のアプローチで、過去最高のコンディションを実現する方法~ (ACTIVE HEALTH 001)

最高の体調 ~進化医学のアプローチで、過去最高のコンディションを実現する方法~ (ACTIVE HEALTH 001)

 

 


間違えてはいけないが、遠大な夢を抱くことが間違いではない。

ただ、どんな夢や目標であれ、その実現の途中では必ず障害や問題が発生するはずなので、その対処法を事前に考えておくことが必要だということなのである。

 

5.自信がある人のほうが成功するのは事実か?

 

実際問題、成功者はだいたい自信家である。

しかも、自信があるから成功に繋がるようだ。逆ではない。

 

自信を持てば持つほど、利益がもたらされる傾向がある。研究によると、人は自信過剰なほうが生産性が伸び、より困難な課題に挑戦するようになり、それにより職場で頭角を現すことになる。自信過剰な人は、実質的に業績を上げている人より、昇進する可能性が高い。すでに述べたように、最初に口を開き、たびたび発言する――つまり自信がある態度――だけで、周りからリーダーと見なされる。

過剰な自信は勘違いにつながらないだろうか? その通り。しかし、それも良いほうに働く。マーシャル・ゴールドスミスは分析する。「成功者は、良い意味で“妄想状態”にある。彼らには、自らの経歴を、自分が何者で、何を成し遂げてきたかの証明としてとらえる傾向がある。こうした過去の肯定的解釈は未来に対する楽観主義を増幅させ、ひいては将来の成功の確率を高める」。

 

ここで難しいのは、だからといって、実績もあまりないのに自信を持ちまくるのもまた問題である――という点だ。

とくに「ダニング=クルーガー効果」といって、素人ほど物事の難しさを正しく認識できない心理的な傾向があるので、とんでもない失敗をしでかすことがある。

 

じゃあ結局どうすりゃええねん……ということで結論を述べると、著者の主張は

「自信よりセルフ・コンパッションのほうがいいよ」

ということ。コンパッションとは「思いやり」のことだ。

 

自信を持ちすぎることの弊害は、なにかに失敗したとき「たまたまだ」「ほかの人間のせいだ」など、自分の非を認められないばかりに失敗の原因究明を妨げてしまうことにある。

しかしセルフコンパッションが高ければ、自分の失敗を認めて許すことができる。

 

自信の効果の一つは、あなたを幸せにすることだ。ところがセルフ・コンパッションも同じ効果をはたす。しかも、自信がもたらすような弊害はいっさいない。調査によると、自分への思いやりは、幸福感、楽天主義、個人の主体性、他者とのつながりによる充足感強く結びついている。さらに、不安感や抑うつ感、神経症的な完璧主義、反芻志向などの緩和とも多いに関連している。

 

6.24時間仕事に全力を注げる人じゃないと成功はできないのか?

 

単刀直入に言えば、その通りだ。

人間の生産性には上限があり、どの世界でも一流の人たちが集まると生産性は同じくらいになっていく。

すると、結局のところ結果を出すためには「かけた時間の長さ」が差を生み出していく……ということである。

 

たとえば世界的に活躍したビジネスパーソンはだいたい離婚したり、奥さんや子どもを不幸にしていたりすることが多い。

それは当然といえば当然の話で、仕事に熱中して時間をかけてしまえば、それだけ家族のケアに当てる時間が少なくなってしまうからだ。

 

バーナード・ショーは「真の芸術家は妻を飢えさせ、子どもを裸足でいさせ、七〇になる母親を働かせて生活を工面させ、自分の芸術以外のことは何もしない」と言った。
モーツァルトは、妻が今まさに第一子を産もうというときに、どこにいただろう? 家の別室だ。もちろん作曲をしていたのだ。

仕事熱心な医師にも同じことが言える。一〇〇〇人を超えるオランダ人の専門医を対象にした調査では、燃え尽き症候群の第一位の理由は、家族との衝突と完璧主義だった。

(中略)

自己の情熱のために家族をないがしろにする現象は、決して目新しいものではない。古代ローマにはすでに「子どもか、本か(Libri aut Liberi)」という言葉があったという。もしあなたが真摯に何かを生みだそうとすれば、家族を犠牲にすることになる。

 

困ったことに、仕事が大好きな彼らでも、家族から愛想を就かされると感情にネガティブな影響があらわれる。

しかし、これはぶっちゃけ、本当に世界的な偉業を成し遂げようとした場合、まず避けられないことのようだ。

世界的に有名になり、偉業を達成して歴史に名を残したいと考えているなら、円満な家庭生活は望まないほうがいいかもしれない。

 

多くの人が陥りがちな「崩壊の戦略」

 

しかし幸福なのは、これが両立できないのは「世界的な偉業を成し遂げたい」場合だけだ。

そこまでいかなくても、じつは普通の人が望むような「すごい実績」はほどほど休むことで達成しやすくなる。

 

家族をないがしろにしてまで仕事を頑張ってしまうのは、「崩壊(コラプシング)戦略」と呼ばれる。

すなわち、幸福の尺度を「仕事の成功」や「収入の多さ」など、ひとつの尺度で測ってしまう生き方のことである。

 

じゃあどんな幸福の基準を持てばいいのかということだが、それについては科学者が指針を出している。ローラ・ナッシュ、ハワード・スティーブンソンの調査から、「ビッグ・フォー(幸福の四要素)」とよばれる測定基準が明らかになったのだ。

 

1 幸福感(=楽しむ)
人生から喜びと満足感を得ていること

2 達成感(=目標の達成)
何らかの業績でほかに抜きん出ていること

3 存在意義(=他者の役に立つ)
身近な人びとに、ポジティブな影響を及ぼしていること

4 育成(=伝える)
自分の価値観や業績によって、誰かの未来の成功を助けていること

 

問題はこれらのバランスをとることであり、そして、自分がそれらのバランスを自分でコントロールできると感じていることにほかならない。



以上。

本書は抄訳ではないのでけっこうなボリュームがあり、読むのになかなか骨が折れるが、簡単な言葉で書かれているし、和訳もわかりやすかったので、ぜひ読んでみていただきたい。

 

残酷すぎる成功法則 9割まちがえる「その常識」を科学する

残酷すぎる成功法則 9割まちがえる「その常識」を科学する

 

  

今日の一首

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80.

長からむ 心もしらず 黒髪の

みだれて今朝は ものをこそ思へ

待賢門院堀河

 

現代語訳:

「末永く愛し続けよう」というあなたの気持ちが本当かわからず、

私の黒髪のように心も乱れて物思いに沈んでいます。

 

解説:

完全に事後。男性が帰ってしまった部屋に残された女性が相手の心変わりを不安に思う歌。「長からむ」は「長い黒髪」を連想させ、乱れは「髪の毛」と「心」にかかっている。

 

後記

Prime Videoで『パラノーマン ブライス・ホローの謎』を見た。

 

 

CGではなく、『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』のようなストップ・モーション・アニメーション。ただ、こちらはキャラクターの顔に3Dカラープリンターを使っている点が新しい。

 

 

全体的な雰囲気も『ナイトメア~』に似ている。

舞台はアメリカの田舎町で、町の名物となっている魔女伝説をめぐる「幽霊が見える男の子」の物語。

 

キャラクターデザインも全体の雰囲気も悪くないのだけど、問題はストーリーがクソだということ。最初から最後までご都合主義で、そもそもなぜ主人公の男の子が幽霊が見える体質なのかがよくわからない。

そんなに突飛なストーリーにする必要は全然ないと思うけど、それにしてもどこかで見たことがある展開を浅く積み重ねただけのように見えた。

 

ただ、本当にキャラクターの造形はいい。とくに、(ネタバレになるので言えないけど)、最後の魔女と主人公の対決の場面はなかなか圧巻の映像なので、あそこだけは見る価値があるかも。

 

今回はこんなところ。

それでは、お粗末さまでした。