本で死ぬ ver2.0

基本的には本の話。でもたまに別の話。

ミステリーは短編に限る~『九マイルは遠すぎる』のレビュー?~

「ミステリー小説」といっても本当にいろいろ幅があるもので、最近、ある2冊の本を読んで、改めてそれを感じた。

 

もくじ

 

まず一冊目はこれ。

 

九マイルは遠すぎる (ハヤカワ・ミステリ文庫 19-2)

九マイルは遠すぎる (ハヤカワ・ミステリ文庫 19-2)

 

 

メチャクチャおもしろかった。私のように、推理小説に人間ドラマとか社会的な問題提起とかはいらないから、とにかく「頭脳明晰な名探偵が鮮やかに謎を解く快感を味わいたい」という人なら間違いなく楽しめる。

 

本作の主人公は、大学教授のニッキイ・ウェルトである。表題作において、彼は「九マイルもの道を歩くのは容易じゃない、まして雨の中となるとなおさらだ」という言葉だけから、とある事件の真相を導き出してしまう。いわゆる、人づての話だけで事件を解決してしまう安楽椅子探偵(アームチェアー・ディテクティブ)ものだ。

 

本書には8つの短編が収録されていて、いずれもニッキイ教授が主人公である。もちろん、どの話もおもしろいのだが、私が興味をひかれたのは、それよりも「序文」において著者のハリイ・ケメルマンが語っている推理小説論だった。(太字は徒花)

 

「九マイルは遠すぎる」が活字になってまもなく、私のところには、ニッキイ・ウェルトものの長編原稿が見たいという出版社数社からの話が持ちこまれた。むろんのこと私は気をよくしたが、同時に、せっかくながらこの話は断らねばなるまいと感じた。私は、古典的推理小説は本質的に短編であると感じていた――まず事件の謎にたいする関心があって、人物や設定は付随物としてあらわれてくるものだ。したがって、そのような物語を長編小説の長さに引きのばすことは、読者を、主人公が解決にたどりつくまでのながながしい退屈な描写――しかもそこにいたるまでのステップの大半は、必然的に、誤った方向へのステップなのだ――に巻き込むばかりでなく、ひとつの込みいった謎を提出することを必要とする。あまりに複雑すぎて、物語を読みおえても、初めとおなじに読者の頭は混乱したまま、といった謎をだ。

 

私もこれには同意する部分がある。たとえば、やはり最近読んだこちらの作品だが、、、

 

ウッドストック行最終バス (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ウッドストック行最終バス (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 

 

名作と言われていたのを聞いて読んだのが、あまりおもしろさを感じなかった。

 

なぜかというと、作中で発生する事件はとある女性のレイプ殺人事件だけで、それを主人公のモース主任警部が捜査していく話なのだが、終盤になるまで、基本的にモース主任警部がああだこうだと紆余曲折を繰り返すだけの展開だからだ。

 

もちろん、物語の全容が少しずつ見えていくおもしろさはあると思うが、まだるっこさを感じたのは事実である。

 

同じような理由で、この『毒入りチョコレート事件』も、個人的にはあまりおもしろみを感じられなかった。

 

毒入りチョコレート事件【新版】 (創元推理文庫)

毒入りチョコレート事件【新版】 (創元推理文庫)

 

 

この作品は、毒入りチョコレートによって行われた殺人事件に対して、推理が大好きな数寄者たちがそれぞれ調査を行い、自分なりの推理を一夜ごと、順番に披露していくという構成になっている。

あたりまえだが、一人目の発表者の内容が真相であるはずもなく、いろいろと批判や反論が行われながら、ああだこうだという展開が最後の最後まで続く。だるい。

 

 

そしてもうひとつ、ある意味で『九マイルは遠すぎる』と対極に位置する推理小説だなぁと思ったのがこれだ。

 

孤島の鬼

孤島の鬼

 

 あらすじはこちら。

 

私( 蓑 浦 金 之 助) は 会社 の 同僚 木 崎 初代 と 熱烈 な 恋 に 陥っ た。 彼女 は 捨て られ た 子 で、 先祖 の 系図 帳 を 持っ て い た が、 先祖 が どこ の 誰 とも わから ない。 ある 夜、 初代 は 完全 に 戸締まり を し た 自宅 で、 何者 かに 心臓 を 刺さ れ て 殺さ れ た。 その 時、 犯人 は 彼女 の 手提げ袋 と チョコレート の 罐 とを 持ち去っ た。 恋人 を 奪わ れ た 私 は、 探偵 趣味 の 友人、 深山木 幸 吉 に 調査 を 依頼 する が、 何 かを つかみ かけ た ところ で、 深山木 は 衆人環視 の 中 で 刺し殺さ れ て しまう……! 

 

これだけ読むと普通の推理小説のようだが、この本のすごいところは、後半は完全に推理小説ではなくなってしまう部分なのだ。密室殺人が起こるのは前半で、その捜査に当たっていた私立探偵はあっさり死んでしまう。

 

しかし、その謎の解明を後半に引っ張るわけではなく、むしろその事件の背景にあるおどろおどろしいさらなる謎を、今度は冒険活劇的な展開によって明らかにしていくストーリーなのだ。イメージ的には、後半は『タンタンの冒険』になるような感じである。

 

ペーパーバック版 なぞのユニコーン号 (タンタンの冒険)

ペーパーバック版 なぞのユニコーン号 (タンタンの冒険)

 

 

この物語において、謎解きは物語の一部分にすぎず、厳密に言えば推理小説とは言えない。しかしそれは同時に、ハリイ・ケメルマンが危惧した「一つの謎の解明を引き延ばすがためにさらなる謎を出す」という手法とも異なる。

 

だからこそ、推理小説として読んでいる後半は蛇足に思えるが、それでも、この本そのものを楽しむ読者からしてみれば、最後まで楽しんで読める本として仕上がっている部分が、やはり江戸川乱歩のすごいところではあるのだろう。

 

それでも、個人的にはやっぱり、ミステリーは短編で楽しみたい。もしくは、長編にするなら連続殺人事件でなければ。

 

九マイルは遠すぎる (ハヤカワ・ミステリ文庫 19-2)

九マイルは遠すぎる (ハヤカワ・ミステリ文庫 19-2)

 

 

今日の一首

 

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16.

立別れ いなばの山の 峯に生ふる

まつとしきかば 今かへりこむ

中納言行平

 

現代語訳:

私は皆さんと別れ、因幡の国に行きます。

稲羽山の峰に生える松のように、みなさんが私の帰りを待っていると聞いたらすぐに帰ってきましょう。

 

解説:

在原業平の兄である行平が、因幡の国守に任命されたときに詠んだ歌。任期は4~5年なのですぐに都に帰ってこれないのは本人も重々承知しているが、「帰り」「来む」という2つの言葉を重ねることで、家族や友人との別れを強く惜しんでいる心情がうかがい知れる。

 

後記

映画『ミュージアム』を見た。

 

ミュージアム

ミュージアム

 

 

猟奇的殺人事件と、その犯人を追う刑事の物語。私としては、やはり終盤にもうひとつくらいどんでん返しがほしいと思った。冒頭から結構グロテスクなので、そこらへんは注意が必要かもしれない。

原作はこれ。

 

ミュージアム(1) (ヤングマガジンコミックス)

ミュージアム(1) (ヤングマガジンコミックス)

 

 

 なぜかカエルは猟奇殺人と結び付けられるのだろうか? この本はなかなかおもしろかったのでおススメ。

 

連続殺人鬼 カエル男 (宝島社文庫)

連続殺人鬼 カエル男 (宝島社文庫)

 

 今回はこんなところで。

それでは、お粗末さまでした。