本で死ぬ ver2.0

基本的には本の話。でもたまに別の話。

アイディアを生み出す5つの簡単なステップ(簡単とは言っていない)~『アイデアのつくり方』のレビュー~

今回紹介する本はこちら。

 

アイデアのつくり方

アイデアのつくり方

 

 

アメリカ広告代理店協会の会長などを歴任した広告マンが1940年に書いたアイディア本の古典ともいえる一冊。

 

  

英語では「まったくわからない」を「no idea」という。昔、いしいひさいち氏のエッセイマンガを読んだとき、担当編集者から「原稿はいつできるんですか?」と問われた彼が「ノーアイディーア」と答えるオチの4コママンガを思い出した。

 

世の中にはアイディアを飯の種にしている人が少なくない。私のような編集者やクリエイティブ系の職種はもちろん、企画・マーケティング・広報・イベント運営・提案型営業まで、アイディアを実行することで誰かからお金をもらっている人がいる。

 

また、そうでなくても、アイディアはどのような仕事でも、求められるものだろう。日本式経営の古きよき言葉に「カイゼン」というのがあるが、あれも結局は「ここをこうカイゼンするべきだ」という個人の気づき(アイディア)から生まれるものであり、そう考えると、決まりきった事務作業しかしていないと思い込んでいる人でも、なにかしらのアイディアを思いつけることは武器になる。むしろ、今後さらに人工知能があらゆる職種に進出してくることを考えると、アイディアを必要としない単純労働は人工知能が担っていくとも予見できる。

 

残念ながらアイディアを出す画期的な方法は、ない

 

アイディアはどこからくるのか。アイディアや発想法というキーワードで検索するとAmazonでいろいろ出てくる。いろいろな人がいろいろな方法を提唱している。これはどういうことかというと、「誰もわからない」ということにほかならない。もし、「これさえやれば100%画期的なアイディアが生まれます」という方法があるのなら、それひとつで話は終わるはずだからだ。

 

そこで本書である。いろいろな本を読み漁るのもいいが、アイディアを出す必要性に駆られているなら、とりあえず読んでみるべきだ。本書は広告代理店の仕事をしていた著者が、自分の経験からアイディアを出す方法をまとめた本だ。

 

本書の最大の特徴

 

本書の最大の特徴は「短い」という点。本文だけなら52ページほどで、あとは解説だけ。それでも、解説を含めてたった100ページほどなので、誰でもすぐ読める。ハードカバーながら、薄くて小さいので定価も680円とお安い。

 

とはいえ、本書は発売から現在に至るまで、いまも売れ続けている古典的名著だ。発想法のバイブルといっても過言ではない。具体的には、アイディアを引き出す方法を5つのステップに分け、それぞれのステップでするべきことを説明しているだけだ。

 

本書の注意点

 

ただし、ここで注意点がある。引用しよう。

 

私はこう結論した。つまり、アイデアの作成はフォード車の製造と同じように一定の明確な過程であること、アイデアの製造過程もひとつの流れ作業であること、その作成に当って私たちの心理は、習得したり制御したりできる操作技術によってはたらくものであること、そして、なんであれ道具を効果的に使う場合と同じように、この技術を修練することがこれを有効に使いこなす秘訣である、ということである。

自分でみつけだしたこの貴重な公式をなぜ私が惜しげもなく公表するのかとおたずねになるのなら、この公式について私が経験から学んだ二つのことを諸君にうち明けよう。
第一は、この公式は説明すればごく簡単なので、これを聞いたところで実際に信用する人はまず僅かしかいないということ。第二は、説明は簡単至極だが実際にこれを実行するとなると最も困難な種類の知能労働が必要なので、、この公式を手に入れたといっても、誰もがこれを使いこなすというわけにはいかないということである。

 

最後の文章が肝要だ。著者も述べているように、本書で実行している方法は「言うは易く行うは難し」にほかならない。だからこそ、アイディアを出すためのメソッド本は定期的に売れ続けてくれるわけだ。

 

そして、たとえ売れ続けている古典的名著だとしても、ヤング氏の提唱する方法が本当に効果があるのかは、誰にも判断のしようがない

 

アイディアを生む5ステップ


ではここから、簡単にその方法を紹介しよう。

 

ステップ1 資料集め

まず、ヤング氏は「アイデアは既存の要素の新しい組み合わせである」というのが、発想における根本的な原理であると述べている。そのためには、素材となるアイディアの種をたくさん持っていなければならない。本を読んだりニュースを見たり、一見すると自分の仕事には関係なさそうなことに興味関心を持っていると、それがすごいアイディアになる可能性はある。

 

ステップ2 資料の咀嚼

ステップ1で集めたものは、あくまでも「事実」でしかない。だが、すでに述べたように、新しいアイディアは新しい“組み合わせ”だ。真に重要なのは事実ではなく「関係」であり、事実をそのまま飲み込んでも新しい「つながり」は見つけられない。咀嚼というのは情報を自分ながらの方法で眺め、新しい側面を見出すことに他ならない。かなり観念的だが、ここはかなり重要だ。

 

ステップ3 別なことをする

ここまでできたら、あとはもう集めた事実を忘れていい。散歩なりスポーツなり映画鑑賞なり、別のことに打ち込む。

 

ステップ4 アイディアがいきなり現れる

ステップ3までやると、しばらくはアイディアが出ないが、ふとした瞬間(髭をそったり歯を磨いているときなど)にアイディアが出てくる。

 

ステップ5 アイディアを試験する

どんなアイディアでも、生まれた瞬間にはどれもすばらしいものだと思えるものだ。ここで大事なのは、思いついたアイディアを他人に話し、批判をもらってアイディアを修正・強化していくことである。

 


めちゃくちゃ荒っぽくまとめたが、アイディアを生み出す技法はこれですべてである。インプットの仕方とか、眺め方についてはもう少し細かいことが書いてあるので、気になる人はぜひ本書を読んでみていただきたい。

 

アイデアのつくり方

アイデアのつくり方

 

 

今日の一首

 

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98.

風そよぐ ならの小川の 夕暮れは

みそぎぞ夏の しるしなりける

従二位家隆

 

現代語訳:

風がそよぐ小川の夕暮は秋のように爽やかだけど、

みそぎ(夏越しのはらえ)が行われているからまだ夏だということなんだなぁ。

 

解説:

涼しげだけどまだ夏だよね、ということをすごーくシンプルに詠ったもの。ポイントは、下の句で「夏」という用語を使うことで、上の句における「そよぐ」の一言だけでそれと対比させる秋を読者に感じさせている。

 

後記

 

最近の個人的キーワードは「ベストセラー感」だ。書店をブラブラしていると、たまに「この本、売れてそうだなあ」と感じるカバーの書籍がある。それが実際にもう売れているのかどうかではなく、とにかく「この本、売れてそうだなあ」という印象を抱かせられるかどうかが大事ではないかと思う。

これは人にたとえれば大物感と表現できる。たまに、そんなに実績があるわけでもないのに、なぜかすごい人に見えてしまう人がいる。要は、平たく言えば「ハッタリ」なのだが、モノを売るうえでは適切なハッタリはやはり必要なのだろう。

 

ただし難しいのは、時代や趨勢によって「どういうハッタリが効果的か」というのは変わってくる点である。ハッタリにもいろいろな種類があり、どんな人に興味を持ってもらいたいのかによって選ぶ言葉やデザインが変わる。まだまだ道のりは長い。

 

今回はこんなところで。

それでは、お粗末さまでした。