本で死ぬ

基本的には本の話。でもたまに別の話。

時代に翻弄される女性たち~『政略結婚』のレビュー~

今回紹介する本はこちら。

 

政略結婚

政略結婚

 

 

幕末、明治、昭和を生きた3人の女性を中心に、その時代時代で変わっていく「結婚」「家柄」にまつわる物語。

 

著者の高殿円センセは『シャーリー・ホームズと緋色の研究』を読んでいたので知っていたが、この本自体はブクログのプレゼントで当選したので読んだものだ。

 

シャーリー・ホームズと緋色の憂鬱 (ハヤカワ文庫JA)

シャーリー・ホームズと緋色の憂鬱 (ハヤカワ文庫JA)

 

 

ちなみに、本書に関する著者のインタビューはこちらにある。

kadobun.jp

 

まあ端的に言うなら、小説としてのおもしろさという点では「フツー」。技量はある人だと思うので、文章は読みやすいし、展開もメリハリがきいているし、言葉の選び方もセンスがある。また、3人の女性主人公のキャラクターがしっかり描き分けられていて、読んでいて楽しい。

のだが、なにか……うまく論理的に言葉で表現しきれないのだが、もうひとつ私にはハマりきらなかった。それは「結婚」「家柄」「女性」というテーマが単に私の興味を引くものではなかったからかもしれない。

とりあえず、それぞれの物語を簡単に紹介していこう。

 

第一章 てんさいの君

江戸時代末期、加賀百万石の支藩・大聖寺藩に嫁いだ加賀家のお姫様・勇が主人公。当時の女性はまさに「子どもを生んでナンボ」の世界。結婚するのは当たり前で、正妻であっても子どもを授かれなければ、側室の力も借りてとにかく跡継ぎを作らなければならない(でないと、幕府によってお取り潰しになる)。貧乏な弱小藩、あまり精力的ではない夫、なかなか恵まれない子ども、そして江戸での人質生活など、なかなかストレスフルな毎日だが、物事を気楽に考える天然な勇はなんだかんだでそれらを乗り越え生きていく。やがて、浦賀にペリーが現れて、いよいよ世間は幕末に向かっていくのだった。

 

唯一、歴史上の実在の人物たちを主人公にした物語。もちろん、フィクションの要素もあるとは思うのだが、人の生き死にやら血筋やらは当然ながら史実に基づいている。主人公の勇姫はおっとりした性格で、食べられる植物が大好き。それとは対照的に、しっかり者でちゃっかり者でもあるお小姓女中の蕗野とのかけあいが楽しい。

 

第二章 プリンセス・クタニ

前田家分家・小松藩主の血筋を引く子爵の子ども・万里子は明治時代にフランスで生まれた帰国子女。外国好きな父とともにイギリスで育つも、和服も自分で着られないことが父にバレて日本に強制送還される。ずっと外国で暮らしていた万里子は古臭い日本の家族や学校に嫌気がさすが、新興華族の友人・美子や彼女の兄弟と付き合いを深めていくうちに、彼女は自分の出生の秘密を疑うようになる。勝手に決められて相手との婚約、英語を活かした仕事のスタート。進歩的な考え方で、日本の考え方を古臭いと考えていた当初の家族は次第に「家柄」と正面から向き合い、自分自身が「プリンセスの血」を引いていることを強く意識するようになる。だがその頃、アメリカや欧州では歴史上初となる「世界大戦」が始まろうとしていた。

 

第一章とは打って変わって、活発・強情・ちょっと生意気なお嬢さんが暴れまわる?ストーリー。同じ華族でも「元大名の由緒正しい華族」と「元商人だった成り上がり華族」の間にある高い壁が随所に感じられる。また、当初は家柄なんてガン無視し、ひたすらに自分の幸福を追い求めているだけだった万里子が、次第に前田家、小松藩のことを知っていくことで、元藩主の血筋として自分にどのような役割が求められているのかを自覚していくようになる、ひとりの少女の成長物語でもある。単にはねっ返りとして反発し、戦った女性というよりも、当時の社会にうまくなじませながら自分らしさを貫いたという点で清々しい。逆プロポーズ、かっこいい!

 

第三章 華族女優

貴族院議員・深草也親を祖父に持つ花音子は、大正末期に瀟洒豪壮な洋館に生まれ育ち、何不自由なく暮らした。だが、花音子が幼稚園に上がるちょうどその頃、昭和恐慌によって生活は激変。すべてを失った花音子と母・衣子は、新宿の劇場・ラヴィアンローズ武蔵野座に辿り着く。学習院に通いながら身分を隠して舞台に立つ花音子は、かつて自分たちを見殺しにしたことを恨み続ける母の支援を受け、一躍スターダムにのし上がる。しかし、やがて彼女が困窮のために劇場で働いていることは学校、そして世間の知るところとなり、彼女は自分で自分をどのように生かしていくべきか、選択を迫られる。そして日本はアメリカとの戦争に突き進み、敗色を濃くしていくのだった。

 

前2章と比べると物語の設定や主人公の性格から、若干暗めの印象を受ける物語。家柄と伝統だけ持っている華族という存在が次第に社会での影響力を失っていき、ただ没落していく園様が社会の好機にさらされてしまう現実もあぶりだされる。また、それまでの主人公と違い、彼女だけは生涯結婚しない。

 

 

どれが、というものでもなく、本書はあくまでこの3つの物語が一体となって一つの作品として成り立っているものではあるが、それを承知で会えて一番気に入った作品を挙げるとすれば、第一章の「てんさいの君」だ。第2章もきらいではないが、ちょっと複雑すぎるのが気になる。てんさいの君が、一番ラブストーリーとして成立していて、最後にちょっとしたもの悲しさと、心地よい清々しさのある結末になっているのが良かった。

 

政略結婚

政略結婚

 

 

 

 

今日の一首

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82.

思ひわび さても命は ある物を

うきにたへぬは 涙なりけり

道因法師

 

現代語訳:

連れない相手のことに思い悩んでも命が尽きることがないが、

涙だけはその辛さに耐えられずに零れ落ちてしまうなあ

 

解説:

命と涙(心)を対比させて心のもろさ、逆に命の力強さを歌っている。読み手は長生きした人物で、90歳を過ぎても歌を詠んだというので、これは「若いときはこんなにつらいことがあったけど今まで生きてこれた」という意味にも読み解ける。

 

後記

 

『パイレーツ・オブ・カリビアン 最後の海賊』を見てきた。

 


「パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊」本予告

 

個人的にはもうこのシリーズはお腹いっぱいなのだが、ファンがいるので続編がどんどんつくられる。ちなみに、本作もスタッフロールが終わった後に次回作を予告させるシーンがあるので、最後まで席を立たずに見ておいた方がいいと思う。

 

さて、本作では第1作目から登場している主要キャラクターのひとりの驚きの過去……というかお前○○○がいたんかい!と驚きの展開があり、死んじゃったようなカットがあるのだが、明確に死んだというシーンでもないので、おそらく次回作かその次あたりでひょっこり登場するんじゃないかと疑っている。

 

今回はこんなところで。

それでは、お粗末さまでした。