本で死ぬ ver2.0

基本的には本の話。でもたまに別の話。

人間関係を始末する方法~『空気を読んではいけない』のレビュー~

今回紹介するのはこちら。

 

空気を読んではいけない

空気を読んではいけない

 

 

総合格闘家として世界で活躍している青木真也氏の著書だ。

 

もくじ

 

彼はいろいろと評判が悪い選手らしく、ネットだといろいろ叩かれたり、アンチが多いようだが、いかんせん私は格闘技に興味がなく、ボクシングも柔道もK-1も見ないので、まず著者のことをよく知らなかった。

(そんな野郎がなんでこの本を読んだのかというと、理由は単純で、たまたま会社にあったからだ)

どのくらい評判が悪いのかについては、各自、ネットで検索してその実態を確認してみて欲しい。

 

 

PRIDEって消滅してたのね

 

まず本書を読んでまず私が「そーなんだー」と思ったのは、総合格闘技イベントの「PRIDE」がひっそりと(?)消滅していたことである。


さすがの私も「PRIDE」という名前くらいは聞いた事があるし、年末に番組がやっているのもなんとなく知ってはいた。

が、いかんせんマトモに見たことがないので、どれだけ人気を誇っていたのかも、そしていつのまにかその人気が下火になってしまっていたことも知らなかった。

 

とにかく、本書の著者は大学時代に柔道から総合格闘家に転進して「PRIDE」でノリノリになっていたが、そんな絶頂がウソのように終焉し、どん底を味わった後、現在はシンガポールに拠点がある格闘技団体「ONE FC」に参戦して、世界ライト級王者に君臨しているようだ。

 

カバーデザインについて

 

本の作りは、いかにも幻冬舎が得意とするような感じ。

幻冬舎の真骨頂は、本書のように、作家ではない人を口説いて自伝的な一冊に仕立て上げるところにある。

 

熔ける 大王製紙前会長 井川意高の懺悔録 (幻冬舎文庫)

熔ける 大王製紙前会長 井川意高の懺悔録 (幻冬舎文庫)

 

 

心を整える。 勝利をたぐり寄せるための56の習慣 (幻冬舎文庫)

心を整える。 勝利をたぐり寄せるための56の習慣 (幻冬舎文庫)

 


カバー全面に使われている写真は、おそらく品川駅のコンコースだろう。出勤途中のサラリーマン達の中に、ボクサーパンツ1枚で仁王立ちする著者の姿がある。

この写真が実際に朝の通勤時間帯に撮影されたものなのかは定かではないが、もし私が出勤途中にこんな人に出くわしたら、10メートルくらいは離れて歩きたくなる。

とはいえ、本書のタイトルにもマッチした、よい写真だ。

帯を取ると全面写真が続いている。帯そでは広めだ。

 

ページデザインについて

 

中面を開くと、各トピックスのタイトルが右ページにかなり大きな級数で配置されていて、そのあとに本文が3ページ入るのが基本フォーマット。明朝体を用いた、スッキリとして知的な雰囲気が印象的なページデザインで、余計な飾りはつけず、かなりシンプルだ。

ノンブルは本文の末尾の高さにあわせている。紙はクリーム色が混じっている。

 

その代わり、本文には結構な割合で強調箇所が入る。強調は太ゴシックで、ここらへんはオーソドックス。ただし、見開きに3~4箇所くらいこまごま。

どのトピックスも3ページくらいで完結しているので、本文の途中の小見出しはナシ。
ちなみに、ブックデザインは鈴木成一デザイン堂が担当している。

 

文体について

 

YouTubeなどで著者の映像を見てみたが、そうした闘いの姿勢からは想像ができないほどクールでクレバーな文章

もちろん、編集者による修正は入っているだろうが、奥付やスタッフクレジットにそれらしき人物の名前は入っていないので、おそらくライターは使っていないと考えられる。

また、内容がかなりシンプルに絞られていて、無駄な贅肉がない感じも、個人的には好印象だ。

 

本書のような自伝&自己啓発書の場合、ともすれば内容が単なる著者の自慢話に終始してしまうことがある。たとえば最近読んだものだと、この本はそのパターンだった。

 

インプレサリオ―成功請負人

インプレサリオ―成功請負人

 

 

『インプレサリオ』も書かれている内容は悪くないのだが、大部分が著者の半生とやってきた実績などに終始しているため、「で?」という感じが否めない。

もちろん、そこから何かしらビジネスのヒントや生き方のコツを見出すことはできるだろうが、あまり読者の方向を向いた本とはいえないところが残念に感じた。 

 

本書の場合、各トピックスを3ページにまとめ、各々で読者に対するメッセージを明確にしているため、どちらかというと自伝よりも自己啓発書としての性格が強いが、その分、読者にとっては読みやすく、興味を書き立てられる文章になっている。

また、言っている内容はなかなかの激しさだが、言葉の選び方や文章の作り方は至って穏やかなので、読んでいても引っかかるところや違和感を抱く部分はなかった。

 

友達はいらない

 

本で第1章はメチャクチャ大事だ。

本書の場合、最初の章のタイトルは「人間関係を始末する」という、なかなかパンチの効いた文言が踊っている。

 

「人間関係を整理しろ」というのは、よく言われることだ。

朱に交われば赤くなる、という言葉もあるように、人格は付き合っている人間によって形成される。だから、悪い週間を持っている人間と付き合っていると、自分もその悪い習慣に染まってしまうわけだ。

 

しかし、本書の場合は極端である。

なにしろ、人間関係を「整理する」のではなく「始末する」のだ。これは非常に排他的である。

以下、引用しよう。

 

大人になった今でも友達はいない。ただ、もはや友達が欲しいとは思わない。友達がいないほうが都合がいいとさえ思っている。

(中略)

友達という存在がなければ、人間関係の悩みを抱えることも少なくなる。友達なんて持たずに、自分の思ったように生きる。そうすることで、やるべきことに集中できる。

 

その友達がいい友達か、それとも悪い友達かは関係がない。なぜなら、友達という関係性を構築している以上、ある程度の付き合いやわずらわしさがどうしても生じてしまうからだ。

そんなことに時間を費やしている暇があるのなら、自分の目標を達成するために必要なこと(著者の場合はトレーニング)に時間を割いたほうがいい、と著者は述べているのである。

 

「人間関係を始末する」の真意

 

これは、当たり前だが、誰にでもマネをできる生きかたではない。また、これを実践したからといって、幸福や成功が保証されるわけでもない(もちろんそれは本書に限らず、多くのビジネス書、自己啓発書の内容に関して同じことが言えるが)

 

なお、ここで私なんかが考えてしまうのは「そもそも、何を以て友達と定義するか?」というものだが、じつは、この問いにはあまり意味がない。

なぜなら、著者が本当に伝えたいのは「友達を始末する」ということではなく、「友達がいることによる人間関係のわずらわしさや、自らの目標を達成するのに役に立たない時間を始末する」ということだからである。

だから、たとえ一緒に過ごしている人物が友達ではなく「知り合い」レベルの人だったとしても、その人物と一緒に過ごす時間に意味を見出せなかったり、わずらわしく感じているのであれば、その関係性は「始末」するべき対象となる。

 

本当に人付き合いは不要なのか?

 

しかしこれは、逆に考えることもできる。

つまり、その人と付き合うことが目標を達成するのに役立ったり、わずらわしさのないものであれば、それは始末するべき対象ではないと判断してもいいからだ。(人間関係を自己の損得で取捨選択することに対する倫理的な問題意識は、ここでは脇においておく)

たとえば、私は本当はあまり知らない人と会ったり、人脈を広げるのが得意なタイプではない。が、本を作るためにはいろいろな人と出会い、企画の種や著者候補を探して、その人と雑談を交わしていく必要がある(と、私は思う)

 

であれば、たとえ私がそのような人付き合いにわずらわしさを感じ、なにかのパーティに出ているときに「早く家に帰って一人でゆっくり本が読みたいなぁ」と思ったとしても、それをガマンしてヘラヘラ笑い、名刺を交換したりするのは「売れる本が作りたいなぁ」という私の中の矛盾する欲求の片方を満たすために役立っているため、始末する必要はないということだ。

 

私の場合はいろいろと面倒くさい人付き合いが必要性のある行為だと示すわかりやすいケースだと思う。

 

では、著者のようなアスリートや、もしくはマンガ家、プログラマー、事務作業員の人など、仕事で成果を出す上であまり人脈を必要としなさそうな職業の人は、不毛な人付き合いを「始末する」ことによる効果があるのだろうか?

ここからは私の個人的な考えだが、私はそうとも限らない、と思っている。

というのも、どのような境遇の人間であれ、ちょっとした付き合いで何かチャンスを得る可能性はあると考えるからだ。

 

人間関係を構築する2ステップ

 

私が必要だと思うのは次の通りである。

 

1.どんな人であれ、とりあえず会って喋り、つきあってみる

2.その結果、面倒くさいことが多かったり、特に何もメリットがなさそうだったり、一緒にいると気疲れするようだったら、その人との関係を「始末する」

 

つまり、この内容はこの2ステップを内包していると思うだ。

人間関係を始末するというのは、単に既存の付き合いを断捨離し、新しい人付き合いをシャットアウトすることではない。端的に述べれば、

「来る人は拒まず、去る人は追わず、嫌な人は追い出す」

というスタンスである。

もちろん、やり方を間違えて強引だったり乱暴なやり方をしていると、だんだん「来る人」が少なくなってしまうリスクは内包しているので、そこらへんはうまくやるべきところだとは思うが。

 

私のケースで述べれば、ここ1年くらい、大学時代からの麻雀友達からの誘いを、断るようにした。麻雀は好きだし、その友人と喋るのも楽しいが、やはり丸一日麻雀をするのはあまりにもお金と時間の無駄に思えてきたからだ。

とはいえ、「もう麻雀はしない」というと、ちょっとカドが立ちそうな気がする。ので、私は1年くらい前から誘われるたびに「予定があいていない」と返答し、断り続けた。その結果、すっかりお誘いは来なくなっている。

 

おわりに

 

第1章の内容だけで思った以上に書きすぎてしまったのでそろそろ終わりにするが、本書ではそれ以外にも

 

・自分の欲望をコントロールする方法

・負の感情を力に変える方法

・幸せの見つけ方

 

などについて、著者の価値観に基づいた独創的なメッセージが多くこめられている。デザインもカッコイイし、サラリと読める一冊なので、気になった人は是非、読んでみてほしい本だ。

 

空気を読んではいけない

空気を読んではいけない

 

 

今回はこんなところで。

それでは、お粗末さまでした。