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本で死ぬ

基本的には本の話。でもたまに別の話。

マーケティングとはなにか~『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門』のレビュー

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「マーケティング」というのは、わかるようでわからんような言葉である。

 

もくじ

 

私も一応ホワイトカラーの端くれだし、企画を考える立場の人間なので、マーケティングの本は何冊か読んできた。しかし、それでも「マーケティングってなに?」と尋ねられると、上手く答えられない。

 

もちろん、世の中には腐るほどマーケティングの本がある。堅いものから柔らかいものまで、多種多様だ。先日も、SF小説仕立てでマーケティングが学べるこんな本を読んでいた。

 

猿の部長 (PHP文庫)

猿の部長 (PHP文庫)

 

 

この本はこの本でおもしろかった。十分、人におススメできるレベルではある。

だが、本書の価値はどちらかというと「マーケティングとSF小説をうまく融合させた著者の手腕」に依拠するものであって、本書を読んだからといって実際のビジネスに即活用できるマーケティングの知識が身につくわけではない。その意味では、この本を読んでも「マーケティングとは何ぞや?」という疑問には到底答えられないのである。

 

もし、私のように「マーケティングのことはなんとなく知ってるけど、なんなのかよくわからない」という人がいたら、ぜひこの本を読んでみて欲しい。

 

USJを劇的に変えた、たった1つの考え方  成功を引き寄せるマーケティング入門

USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門

 

 

本書はユニバーサル・スタジオ・ジャパン(以下USJ)のマーケティング本部長が書いたマーケティングの入門書である。

 

USJの復活のカラクリ

 

ご存知の通り、USJはオープンしてから2000年代ずっと、貧弱な遊園地だった。ほかの地方遊園地と比べればそれなりの集客力はあったが、マーケットを支配しているガリバー(巨人)・TDR(東京ディズニーリゾート)が戦国最強と謳われた本田忠勝なら、USJはせいぜい足軽隊長くらいという明確な差があった。

世間ではUSJ復活のカギは2014年にオープンしたハリー・ポッターエリアのおかげだともされるが、本書によれば、その真の立役者は違う。USJを復活させた本当の要因は「コンセプトの転換」だった。

 

それまでのUSJは「映画のテーマパーク」にこだわっていた。しかし、エンターテイメント市場全体で見れば、映画が好きな人はごくごく一部でしかない。しかも、映画が好きだからといってそのアトラクションにも興味を持ってもらえるとは限らない。

そこで、USJのマーケティングは「世界最高を、お届けしたい。」というコンセプトの下、映画にこだわらず、人気のあるアニメ、ゲーム、キャラクターなど様々なジャンルの作品とコラボレーションしたアトラクションやイベントを組み込むことで、より広い範囲の消費者にターゲットを広げたのだ。

 

マーケティングとは顧客理解である

 

本書の良い点は、単に自分たちの成功体験を述べるにとどまらない点である。けっこう勘違いして作られている本も多いのだが、読者は別に「USJの復活劇」を知りたいわけではない。その復活を下支えしたマーケティングのテクニックと、それをどうやったら自分の仕事に応用できるのかを知りたいのだ。そして、本書はそれにしっかり応えてくれている。

 

では、最初の疑問に戻ろう。

マーケティングとは何か?

本書を読んで私なりにかなり簡潔にまとめると、「消費者分析&攻略」である。つまり、「消費者は“本当は”何を求めているのか」を調べて、それを満たすような商品・サービス作り、プロモーションなどを組み立てる行為全般と表現できる。

しかしこれが難しい。なぜなら、顧客はウソをつくからである。というよりも、顧客自身も「自分が本当は何を求めているのか」をよく理解していない

 

有名な話だが、スターバックスに行く人は別においしいコーヒーが飲みたいわけではない。スターバックスの店内で読書をしたり、MacbookAirをカタカタ打ったり、ロゴマークの入ったカップをテイクアウトしながらウィンドーショッピングをしたいのだ。つまり、彼らはスターバックスというブランドを着飾りたいのである。

しかし、当然ながらスターバックスの利用者に「あなたはなぜスターバックスでコーヒーを飲んでいるのですか?」と尋ねても、彼らは決して「スターバックスというブランドを利用している自分に酔いしれたいから」とは答えない。アンケートをしても、とうてい消費者の本当のニーズは掴みきれない。

 

そこで、マーケティングのプロフェッショナルと呼ばれる人たちはあの手この手で消費者の行動から彼らの深層心理を分析し、隠匿された「真のニーズ」を探り当てて、それを刺激するような商品作り、広告作りを仕掛けるのである。

 

編集者にこそ必要なマーケティング能力

 

私が本書を読んで思ったのは、まさしくマーケティングの手法というのは、実用書の編集者にこそ必要な能力なのではないか、ということだった。

私が本の企画を練って作り上げるとき、次のようなことを考える。

 

●この著者の強みは何?(経歴? 文章力? 執筆の速さ? ユーモア? 知名度? 知識量? 著者買取は期待できそう? 全国で講演会とかやってる人? SNSのフォロワーはどのくらい? 過去に出版した本の実績は? 何冊出してる? どこで出してる?)

●テーマは?(書店のどの売り場で戦う? 競合にはどんな本がある? そのテーマの本の市場規模は? 書店のどのコーナーに置かれる? そのテーマの最近のトレンドは? どんな本が売れていて、どんな本が売れていない? 細分化すると何が人気がある? 競合本のAmazonレビューにはなんて書いてある? 書店では実際にどういう風に置かれている?)

●その本の根底を貫くコンセプトは?(類書と差別化できてる? わかりやすい? テーマからずれてない? 奇抜さがある? 目立つ? どんな言葉でそれを表現すればいい? 読む前と読んだ後で読者は何がどう変わる? そもそも、それって求められてる? もしコンセプトが奇抜じゃないなら別の武器が必要? この本のデメリットって何? どこが競合本より劣ってる?)

●構成は?(思いっきり内容を絞り込む? それとも広範の内容をカバーさせる? 何から伝える? もくじで興味を惹ける言葉が使われてる? 同じ内容のくり返しになってない? コンセプトから過度に逸脱した項目が多くない? メリハリある?)

 

これは結局、「読者はこの本が出版されたらお金を出して購入するだろうか?」という疑問を推測しているわけだ。

特にビジネス書などの実用書の場合、小説とは違って読者は本を読むことそのものを楽しむわけではなく、その本から読んだ知識なり知恵なりを使ってほかに成し遂げたいことがある。本は、あくまでもそのための手段の一つでしかない。(ただし、実用書であってもエンターテイメント性をうまく高められれば、それはひとつの武器になる)

 

最近よく思うのだが、ベストセラーになった実用書というのは、どれも非常によく考えて作られている。ヒットのほとんどは偶然のブームというものはなく、タイトルの付け方からジャンルの決め方、デザインに至るまで、しっかり狙ったターゲットに刺さるように考え抜かれているのだ。

 

おわりに

 

孫氏の『兵法』の有名な一説に、次のようなものがある。

 

彼を知り己を知れば百戦殆うからず。

彼を知らずして己を知るは一勝一負す。

彼を知らず己を知らざれば戦う毎に殆うし。

 

勝つために大事なのは

・自分の長所と短所を知ること

・ライバルの長所と短所を知ること

・戦う場所の環境(マーケット)の特徴を知ること

 

に尽きる。

本の場合、いちいち調べるのはぶっちゃけいろいろ大変だが、それだけの手間暇をかけないと、やはり売れる本は作れないのだろう。

 

USJを劇的に変えた、たった1つの考え方  成功を引き寄せるマーケティング入門

USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門

 

 

今回はこんなところで。

それでは、お粗末さまでした。