本で死ぬ

基本的には本の話。でもたまに別の話。

青臭い……でもそれが大切なんだ~『いなくなれ、群青』のレビュー

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昔は紫色が好きだったけど、その後は黄色が好きになり、最近は緑色が好きな徒花です。青が好きになったことは、ないなぁ。

もくじ

今回紹介するのはこちら。

いなくなれ、群青 (新潮文庫nex)

いなくなれ、群青 (新潮文庫nex)

 

ライトノベルと一般文芸書の中間的な立ち位置を目指した新潮文庫nexの作品で、人気となって現在は続編も出ている“青春ミステリー”。とはいえ、残念ながら殺人事件は起こらない。しかし、だからといって「日常系」ともいいがたい。

著者はゲームデザイナーでもある

著者の河野裕(こうの・ゆたか)氏は1984年生まれの小説家、ゲームデザイナーで、デビュー作はこちら。

また、代表シリーズにはこちらがある。

本作は第8回大学読書人大賞を受賞した。

中身は、薄い

あらすじ:

どういうわけかわからないが、外界から隔離された不思議な場所「階段島」で一時期の記憶をなくしながらも、その環境に順応して暮らしていた主人公の男子高校生・七草は、ある日、かつての友人・真辺由宇(まなべ・ゆう)に出会う。彼女もまた3か月間の記憶をなくし、ひとりでこの島にやってきたのだった。

島にはいくつかのルールがあり、「失くしたもの」を思い出せば帰れる……という。さらに、島の一番高いところには“魔女”が住み、彼女がこの島を統制しているということだった。

真辺はこの島の謎を解き明かし、島を出るために探索を開始する。そんな折、学校の途中にある階段で「星とピストル」を絵具で描いた落書きが発見される事件が起きる。いったいだれが、なんの目的で落書きをしたのか? なぜ、彼らはこの島にやってきてしまったのか? 「失くしたもの」とはなんなのか? 

ジャンルとしては「ファンタジーミステリ」。青春小説らしく、心理描写や風景描写が多く、感傷的な雰囲気が全体を包み込む。ぶっちゃけ、中身のストーリーは薄いので、読み飛ばしていけばアッサリ読了できるはず。

登場人物に痛さを感じるなら、その読者は“大人”である

本書では「青」がかなり重要なキーワードになっている。「青」でなにを連想するかは人によって異なるだろうが、本作で象徴されている青は「青臭さ」だ。つまり、“未熟”であるということ。その意味でまさに、本作は紛うことなき「青春小説」といえるだろう。

だからというべきか、本作の登場人物はすべからく、どこか詩的な言動が目立つ。現実世界でこんな言動をしている人がいたらけっこうイタい。しかし、こうした人々の言動に対してどのような感情を抱くのかが問題なのだ。

もし、彼らの行動に対して「イタいなぁ」とか「なんか恥ずかしいヤツだな」という感想を持つのなら、おそらくあなたは青春時代をもう脱した“大人”ということになるのだろう。その意味で、本作がティーン向けのライトノベルとしてではなく、「新潮文庫nex」として刊行されているのはなかなかおもしろい。

ミステリーとしてはクソ

さて、ただ……私はミステリーとしては本作をまったく評価できない。島の謎については、解き明かされれば「なるほど」と納得感を持てるが、ただそれだけだ。個人的に、「ちょっと謎を解明する要素が入っていればミステリーといっていいいだろ」という風潮には賛同しかねる。ただの青春ファンタジーと銘打ってくれればもっとすっきりするのに、変にミステリーというから私の天邪鬼な部分がくすぐられる。

あと、登場人物の細かい行動の部分がいまいち理解できないし、登場人物たちのすべての秘密が解き明かされていないのがどうにも気持ち悪い。具体的に書いていくとどうしてもネタバレになってしまうので書かないが、本作は“雰囲気重視”になっているので、あまりそういうところは気にしないで読み進めたほうがいいのかもしれない。

やっぱりヒロインが好きになれない

これはもう、作品の性質上仕方ないことだけれど、私はおそらく精神的に青春時代を脱してしまった人間なので、やっぱりヒロインの真辺さんのことがあまり好きになれない。私は最初、彼女はアスペルガー症候群で、天久鷹央みたいなキャラクターなのかもしれないとも思った(探偵役はたいていアスペであるが)

でも違った。これはまた、本書を読めば、意味がわかる。

おわりに

本書でもうひとつのキーワードが「失くしたもの」だ。私にもあるだろう。そこらへんのことをこの物語に当てはめて想像してみたりすると、なかなかおもしろい。本書はどちらかというと、青春真っ只中のティーンよりも、ちょっと大人になってしまった人が読むことでその真価を発揮する作品だと思う。あまり大人になりすぎていると、読めないかもしれないけど。

続編も一応、「色」をモチーフにした作品になっている。が、得てしてこういう続編は次第に「色」との関連性がコジツケっぽくなっていくものなので、期待のし過ぎは禁物だ。でも、とりあえず読んでみようと思う。この作品でどういう風に続編を書くのかもちょっと気になるし。

汚れた赤を恋と呼ぶんだ (新潮文庫nex)

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その白さえ嘘だとしても (新潮文庫nex)

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今回はこんなところで。

それでは、お粗末さまでした。