本で死ぬ

基本的には本の話。でもたまに別の話。

中小企業で働く人は幸せだ~『魂の退社』~

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原稿に赤字を入れるときに使っているのはZEBURAの「SARASA CLIP」0.5mmです。滑らかな書き心地で、しかも、適当なコンビニに行けば置いてあることが多いマーベラスな一品。

ゼブラ サラサクリップ0.5?赤?JJ15-R

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もくじ

今回紹介するのはこちら。

魂の退社

魂の退社

 

アフロはモテる

著者の稲垣えみ子氏は元・朝日新聞の編集委員だった人物。編集委員というのは、徒花もよく知らないが、Wikipedia先生によると「特定の部署に所属せず記者の専門分野を生かした記事を執筆する制度」とある*1。稲垣氏も退社直前には、記事ではなくコラムを執筆していたらしい。

で、稲垣氏は50歳を機に朝日新聞を退社するが、アフロにしたのはその数年前……つまり在職中だ。経緯は本書に書かれているが、案外たいした理由ではない。ただ、アフロにするとモテるらしい。

現在は、かっこよくいうとフリーランス、かっこわるくいうと無職である。テレビに出演したり、本を書いたり、コラムを書いたりしている。とはいえ、朝日新聞社時代に比べるとかなり質素な暮らしをしているようで、『情熱大陸』で取り上げられた際には、彼女の取り組んでいる“節電”がフィーチャーされていた。

会社員にあらずんば人にあらず

本書は稲垣氏が「なぜ私は朝日新聞をやめたのか?」という経験談を軸にしつつ、「日本社会と会社の癒着(もしくは密接すぎるつながり)」について一家言を伝える内容である。ミニマリスト的な生活をおススメする側面もあるが、あくまで主題は「日本はあまりにも会社に依存せざるをえない社会である」という点だ。

平安時代の源平合戦時、平時忠は『平家にあらずんば人にあらず』という名言を残したとされるが、時代はまさに『会社員にあらずんば人にあらず』である。

会社を辞めてフリーになると「賃貸物件が借りられない」「ローンが組めない」「カードが作れない」「保険料の支払いがきつい」など、さまざまな社会的懲罰が課せられる。かつては大企業で贅沢三昧な暮らしを謳歌していた著者が、「ただ会社を辞めただけ」で身をもってその大変さを体験したことによる気づきがつづられている。

退社するまで自分でパソコンを買ったことがない

まず、徒花は大企業で働いた経験がない。そのため、稲垣氏が辟易としていた「出世争い」「どうしても同期と比較してしまう」などの感覚がわからない。そもそも、大企業に入れる人はごく一部なので、稲盛氏の感覚を実感できる人はごく少数だろう。だから私は、「大企業で働いている人はこういうマインドを持っているんだなぁ」と参考になった。

たとえば、驚くべきことに稲盛氏は50歳くらいになるまで自分でパソコンもケータイも買ったことがなかったと述べている。会社が支給してくれていたから必要なかったのだ(これは彼女が新聞社に勤めていたという側面もあるだろうけど)。会社を辞めた彼女は初めてケータイショップに行き、複雑怪奇なプランに四苦八苦する。

本人も「自分はあまりにも常識知らずだった」と述べているが、新卒からずっと大企業で働き続けてきた人の感覚は、案外こういうものなのかもしれない。しかも徒花が意外に感じたのは、彼女が新聞社で貴社として働いていたにも関わらず、こんなにも無知だった、という点だ。

新聞記者は、少なくとも普通の会社員より社外のいろいろな立場の人とコミュニケーションをとる機会があったはずだ。いろいろな「その道のプロ」に話を聞く機会も多かったと思う。にもかかわらず、これである。

大企業の人間は、中小企業で役に立たない

この部分を読んでいて、以前に話を聞いたことがあるさるコンサルタントの人が「大企業から中小企業に転職してきた人は、本当に役に立たない」とぼやいていたことを思い出した。

大企業になると、仕事が細分化される。プロジェクトが大きくなると、個々人が担当する領域が限られたものになるのだ。だから、自分が今関わっている仕事を俯瞰することができないし、自分が会社の中でどのくらい稼いでいるのかを把握できない。

一方、中小企業はマルチプレイヤーが求められる。担当領域はもちろんあるが、そもそもプロジェクト自体が小さいので、手が足りなくなると範囲外にも手伝うことが多い。あと、自分が貢献しているかがけっこうダイレクトにわかっちゃったりする……。

大企業の人間が中小企業で役に立たなくなる理由も、推して知るべし。

タイトルの意味は、ちゃんと内容を読めばわかる

本書の結論として、稲盛氏は「会社に過度に依存しない生き方」を推奨している。そしてこれは、とくに大企業に勤める人に向けられたメッセージだろう。

ただし誤解してはいけないのは、そのやり方が彼女のように「会社を辞める」ということではない点だ。会社に籍を置いたまま、精神的に会社を脱出せよ――と稲盛氏は主張している(彼女自身、大企業で働いている人々も日本経済を支えていることを承知している)。それはつまり、自分の仕事を見つめなおし、自分と会社の関係性を改めて考えることである。そこらへんがあいまいなまま、ただ会社に支給される給料で飯を食っている人々が“社畜”なのである。

この意味がわかれば、タイトルがすんなりと読める。そう、彼女が勧めているのは『魂の退社』なのだ。肉体の退社ではない。

中小企業で働く幸せ

中小・零細企業で働いている意識高めの人々は、日々「この会社もいつ倒産するかわからん」という気持ちで働いているかもしれない。私自身、いつ会社が倒産してもすぐ別の会社に転職できるような経歴を身につけておこうと考えている。(愛社精神? なにそれおいしいの?)

つまり、会社に依存しすぎている人々は、「依存できるくらい立派な会社」で働いていることの裏返しだ。

たとえば、私が働いているような弱小出版社は、「倒産しそうらしい」といううわさが業界内で広がっただけでピンチになる。そういううわさが広まると各書店がいっせいに本を返品し、その返金処理で本当に倒産する危険性があるのだ。そんなものに手放しで寄りかかれるほど、私は楽天家ではない。

中小企業で働く人は幸せである。なにしろ、会社が頼りなさ過ぎて依存できないのだから、必然的に自立心がはぐくまれるのだ。よかったね!(もちろん、大企業ではぐくまれるものもあるだろうが、私にはそれがなにかわからない)

個人も会社を“利用”しよう

著者は本書の中で「会社の良いところは、自分が成長する場所とチャンスを与えてくれること」と述べている。これがきっと、ヒントになるだろう。

会社にとって社員は労働力だ。つまり、会社は社員を利用している。だったら、社員も会社を利用すればいいのだ。

先に述べたように、この国では会社員でいることのメリットが山ほどある。起業したり独立してフリーになるのもカッコいいが、どうせならメリットを享受しつつ、会社から吸収できる知識や経験を目いっぱい吸収する意欲が、「会社に依存しすぎない働き方」になるだろう。

――吸収できる知識や経験がなくなったら? そのころにはそれなりに誇れるキャリアができている(はずだ)から、もっとレベルの高い知識や経験が吸収できる別の企業に転職するか、独立・起業すればいい。著者によれば、やはりターニングポイントは30代後半らしい。私も早く実績を作らねば。

おわりに

アフロにするには6時間くらいかかるらしいヨ。

 

今回はこんなところで。
それでは、お粗末さまでした。

*1:役職名なのに制度の説明とはこれいかに