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本で死ぬ

基本的には本の話。でもたまに別の話。

『赤に捧げる殺意』のレビュー~単なる備忘録として~

ミステリー

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耳垢はドライな体質の徒花です。

もくじ

今回紹介する一冊はコチラ。

なぜ読んだのか? それは家にあったから。

なぜ家にあったのか? それはよくわからない。

そして、読んだ記憶はあるのだが、内容はまったく記憶に残っていなかったので再読したし、もう忘れないようにブログに書こうと思い立った。それだけである。とくにお勧めの一冊ではない。

アンソロジーを読むメリット

そもそも、アンソロジーというのは(以前にもどこかで書いた気がするが)、収録作品の品質に過度な期待は禁物である。だいたいはどこかの雑誌に適当に書き散らかした短編をまとめて一冊の本にまとめたもので、収録に当たって加筆修正などは加えられていないことが多いから、(たぶん)著者の思い入れも小さい。

ただ、アンソロジーのメリットというのは、それまで読んだことのない著者の作品を手軽に読んで、それが自分の好みにマッチするかを判断する材料になる……ということである。それ以上の素晴らしい驚きがあると考えてはいけない。

そもそも本作、タイトルが『赤に捧げる殺意』となっているが、このタイトルからしてどうにもやっつけである。別に“赤”というお題をそれぞれの作家に投げかけて書きおろしてもらったものではなく、単に雑誌に掲載された短編集をかき集めたものだ。だから、個々の作品に血以外の「赤」は入っていない。

以下、収録作品のあらすじと所感を述べていく。あとついでに、それぞれの作家の代表作も紹介しておこう。

『砕けた叫び』有栖川有栖

あらすじ:

ミステリ作家・有栖川有栖は先輩作家との食事の席で、友人・火村英生のかかわった事件を話すことになった。

とある町で探偵業を営んでいた木内という男が自室で殺された。第一発見者は助手の湯田。鍵はかかっておらず、室内で木内は胸にナイフを刺されて事切れていた。部屋の中ではエドワルド・ムンクの『叫び』に出てくる人物をかたどった陶器の像が粉々に砕かれていた。被害者は像の胴体部分をつかんでおり、どうやら意図的に破壊したらしく、動やらダイイング・メッセージのようだった。

木内はいろいろな依頼を手掛けていて、それぞれの依頼人との間には確執があり、犯人が絞れない。そのうち、火村は陶器の人形を販売しているサイトを発見し、そこで驚愕の事実を見出すのだった――。

まぁ、一応、もっともらしい説明はつくのだが、先輩作家・小夜子の反応=読者の感じるところ、であって、どうにもモヤッとした終わり方である。作者によって煙にまかれたような感じもする。あと、あんまりフェアなトリックではない。

さすがにベテランなので文章は読みやすく、ノせ方がうまい。「えっ、どゆこと?」と読者に思わせることに関してはさすがである。火村センセが出てくる代表作はこちら。

新装版 46番目の密室 (講談社文庫)

新装版 46番目の密室 (講談社文庫)

 

『トロイの密室』折原一

あらすじ:

土建業者の社長・土呂井竜蔵は借金のかたに手に入れた館の改装を祝し、町長やライバルの土建業者社長・玉川などを招いて晩餐会を開いた。土呂井のもとには屋敷の下の持ち主・柴崎から殺害を予告する手紙が届いており、彼は晩餐の席でそれを公表するが、「警備されたこの館で自分を殺せるはずがない」と自信満々だった。するとその晩、屋敷に空の棺桶が届けられる。送り主は柴崎で、品名には「呪い」と書かれていた。

夜、吹雪が激しくなり、来館者たちは仕方なく屋敷に泊まることになる。そして、玉川は土呂井に挑発されるまま、屋敷に「泊まると死ぬ」といううわさがある部屋で一晩を明かす。だがその夜、屋敷では不可思議な現象が起こる。空の棺桶が廊下に置かれていたことに始まり、玉川、土呂井が死体となって発見されたのだ。2人の死因は心臓麻痺で、しかも、部屋に置かれてしっかり蓋を縛り付けられていた棺桶からは気絶した柴崎が見つかった。

たまたま屋敷に宿泊していた葉山虹子の推理がさえわたり、この不可解な連続死の謎を暴く。

状況設定はベタベタなクローズド・サークルで、ドロドロした人間関係、呪いの部屋、殺人予告の手紙、密室の死と、お約束設定のオンパレード。そして、だいたいこういう作品の場合、トリックは物理的なモノ……と相場は決まっている。本作もその例に漏れない。ただ、本作の場合、勘のいい読者ならば読んでいる途中で「たぶん、こういうことだな」と気づいてしまうとは思う。

ちなみに、あらすじで説明しようとすると状況がなかなかややこしいが、こういうテンプレに慣れているなら読んでいて状況がよくわからなくなることはないだろう。文章も、もちろん読みやすい。

さて本作で探偵役を務める葉山虹子女史は本来そんなに御大層な役割を任されていたキャラクターではなく、『黄色館の秘密』で登場したヒロイン的な人物である。しかし、黒星警部が出てこないので、彼女が代打となった。黒星警部の活躍は以下の本で。ウヒョッ

『神影荘奇談』太田忠司

あらすじ:

少年探偵・狩野俊介と探偵・石神、そして行きつけの喫茶店の看板娘・アキは、店に来ていた男性から不思議な体験を聞く。瀬戸と名乗ったその男性は、かつて自分が体験した不思議な出来事を語り始める。

ある日、瀬戸はとある田舎の山道をひとりで歩いていたが、道に迷ってしまった。すると、ある屋敷にたどり着く。そこには意味深な言葉を連ねる双子の少女や、首のない大男、そして屋敷の主人・神影などがいた。神影は自らが人間ではないと語り、頭から血を流して倒れる男が現れる。やがて神影はその屋敷――神影荘に迷い込んだ瀬戸も、すでに人間ではないのだと告げて、彼に鏡を見せた。そこには、毛むくじゃらの姿になった自分の顔が写っていたのだ。瀬戸は本当に、次元のはざまにでも迷い込んでしまったのか? だが気を失った彼が目を覚ました時、瀬戸は元の山の中にいた。

だが、話を一通り聞いた俊介は、瞬時に事件の真相を見破る。そして、そこで起きた殺人事件と、その犯人、そして事件の背景を確認するため、出かけるのだった。

いわゆる怪奇ミステリーものだけど、ちょっとベタベタすぎて読んでいるとうんざりする。個人的に狩野俊介シリーズがどれでもわざとらしさが感じられて好きではないせいもあるかもしれない。主人公の俊介君がちょっとピュアすぎるのだ。

ともあれ、事件のトリック自体は全然大したものではないし、真相がわかっても「あっそう」程度のもの。俊介君は相変わらず良い子だなぁ……という感想くらいしか浮かばない。そんな狩野俊介君の活躍は『月光亭事件』にて。

月光亭事件 (創元推理文庫)

月光亭事件 (創元推理文庫)

 

『命の恩人』赤川次郎

あらすじ:

小さな娘とともに新幹線のホームにいた久美子は、愛娘がホームに転落するのを目にし、パニックに陥る。だがそのとき、そばにいた男性がすかさず娘を助け出し、それをきっかけに久美子はとある運輸会社の御曹司・下山と知り合うのだった。

その後、お礼のために下山の会社を訪問した久美子は、ひょんなことから彼の恋人を演じることを頼まれる。娘の命の恩人である負い目もあり、久美子はパーティで一晩だけ、下山の恋人になるのだった。だがそのパーティで、下山の亡き父である先代社長の遺書が公開され、暫定的な社長に就任していた下山の叔父から、下山にその座を譲るように伝えられる。下山の叔母である和江は夫の地位が奪われることに激怒し、「下山が意識朦朧状態の兄に無理矢理書かせたに違いない」と反論するのだった。そしてその晩、下山の叔父が睡眠薬を飲み、意識不明の重体に陥る……そこで久美子は、下山の真意を知るのだった。

ほかの作品が比較的「本格」調のミステリーであるのに対し、本作だけちょっと毛色が違う。これはある意味、ミステリ作家ではない赤川氏らしい作品といえるのかもしれない。あんまり人間のドロドロとした陰気くさい部分が出てこず、爽やかな終わり方になっているが、個人的にはそんなに好きじゃない。

さて赤川次郎は作品が多すぎるのでどれを紹介するべきか悩むところだが、あえて三毛猫ホームズではなくこちらにしておこう。

三姉妹探偵団(1) (講談社文庫)

三姉妹探偵団(1) (講談社文庫)

 

『時計じかけの小鳥』西澤保彦

あらすじ:

女子高生の高木奈々は小学生以来ぶりに通学路のそばにある三好書店に赴き、そこでとある本を入手する。どうやらそれは古本らしく、「ミヨシショテンニコレヲウレ」というメモ用紙がはさまれていたほか、「H.M」というイニシャルと「MAY14」日付がメモされていた。

奈々はそのイニシャルが自分の母親のものと同じであること、そして母も本を買うとそのようなメモを残す癖があることから、この本は自分の母親が購入したのではないかと考え、どういういきさつで母親が購入した本が三好書店に並べられていたのかを調べ始める。だが、それを調べるにつれ「奈々の両親の離婚」「小学生の時に行った友達とのかくれんぼの真実」「三好書店の店主が心臓まひで死んだこと」が、すべて一本の線でつながり、彼女は過去の自分の身に起きていた“真実”を知ることになるのだった。

作中で事件が起こるのではなく、隠された過去の事件を主人公が紐解いていく物語。すべての要素が一つの線でつながっていくのがおもしろいのはもちろんだが、本作の魅力はそれよりも、主人公の奈々の論理的思考の流れが丁寧に描かれている点で、これは数理的なパズラー作品を数多く手掛ける西澤氏らしい作品になっている。個人的にこういう頭でっかちで理屈っぽい文章は大好きなので、読んでいて楽しい。また、最後の最後も、なんとも「青春らしい毒々しさ」が効いていて、スパイシーだ。本書の中では一番好きな作品かもしれない。

さて、西澤氏の作品ならおススメはダンゼン、『七回死んだ男』である。SFが絡んだものだが、後半はニヤニヤできる。

七回死んだ男 (講談社文庫)

七回死んだ男 (講談社文庫)

 

 『タワーに死す』霞流一

あらすじ:

売出し中のアイドル・上条久里子とマネージャーの福寺は、とある怪獣映画の撮影に深夜まで及んでいた。そんなとき、特撮監督の横谷がミニチュアの東京タワーに突き刺さり、死んでいるのが発見される。果たして誰が、どうやって横谷を殺害したのか? 久里子があっけらかんとその真相を究明する。

あらすじを説明するとすげー短くてびっくりしたが、それくらい単純な事件である。その割にちょっと描写が細かすぎて、読んでいると冗長な感じが否めない。私は霞氏のほかの作品を読んだことがないのだが、どうやらバカミスを得意とする人らしく、たしかに本作のトリックも、本当に実現可能なのかは非常に疑わしいバカバカしいものになっている。「そんなんありか!」

読んだことがないのに代表作を紹介するのもあれだが、とりあえずこちらの本が代表作といっていいんじゃないだろうか。バカミスらしいので、そのうち読んでみる。

フォックスの死劇 (角川文庫)
 

『Aは安楽椅子のA』鯨統一郎

あらすじ:

探偵事務所でアルバイトとして働く18歳の堀アンナは、首なし遺体となって見つかった男性の頭部を見つけて欲しいという依頼に、自分のクビを賭けて調査に乗り出す。ストレスのせいか、両耳の聴力を失ってしまったアンナだが、どういうわけか彼女、木や石などの無機質の声が聞こえるようになってしまったのだった。

やがて、死体遺棄現場の木々の声を頼りに、男性の妻を疑い、彼女の愛人だった男性も見つけ出すアンナ。しかし、首がどこにあるのか、なぜ犯人は男性の首だけを消失させたのかがさっぱりわからない。そんなとき、部屋で悩んでいた彼女はまたしても無機質からの声を耳にする。それは、彼女が腰かけていた安楽椅子が彼女に語りかけてきたのだった。安楽椅子はそして、事件の真相を語りだす。

ミステリーのジャンルのひとつに「安楽椅子探偵(アームチェアー・ディテクティブ)」というものがあって、これは「探偵役が一度も殺人現場に赴くことなく、ヒトの話を聞いただけで事件を解決するもの」を指す。ミス・マープルとか「隅の老人」とかが代表的だ。しかし本作のすごいところは、安楽椅子に腰かけた人ではなく、安楽椅子そのものが探偵となってしまうところである。奇想天外すぎる……。

ただまぁ、トリックというか、謎の真相自体は比較的納得感があって、文章も軽妙で読みやすく、個人的には好きな文体である。ワタクシは『哲学探偵』くらいしか読んだことがないのだが、本作で活躍する堀アンナちゃんはほかの作品でも主役を張っているので、そのうち読んでみようと思う。

堀アンナの事件簿 (PHP文芸文庫)

堀アンナの事件簿 (PHP文芸文庫)

 

『氷山の一角』麻耶雄嵩

あらすじ:

とある芸能事務所の一室で、マネージャーが殺されていた。遺体の手元には、血で描かれた「+」のマークが並んでいる。果たしてこれは、犯人を指し示すダイイング・メッセージなのか? ひょんなことからメルカトル鮎に扮することとなった美袋が、メルカトルにからかわれながら四苦八苦して事件の真相を明らかにする?

ついこの間紹介したばかりメルカトル鮎が出張ってくる短編もの。普段はワトソン役に徹している語り部の美袋くんが、銘探偵メルカトル鮎になりきって現場を検証したり、容疑者たちに取り調べを行うコメディタッチの強い作品となっている。相変わらずメルカトルは邪悪である。

ただ、作品全体は非常に正統派の本格派ミステリの体裁となっていて、なんというか、まとも。なにか最後に仕掛けでもあるんじゃないかと勘繰りながら読んでいたが、そんなことはなかったぜ。その意味では拍子抜けした。逆に素直すぎる作品ではある。

おわりに

というわけで駆け足にて紹介してきたが、やはりあらすじを書こうとするとちゃんと物語を読みなおさねばならず、嫌がおうにも記憶に焼き付く(どのくらい持続するかはよくわからない)。これでおそらく、当分はまた本書を発見しても「ハテどんな内容だったかな?」という事態にはならないと思う。

 

今回はこんなところで。

それでは、お粗末さまでした。