本で死ぬ ver2.0

基本的には本の話。でもたまに別の話。

『禁煙セラピー』が効果がある理由(ワケ)~徒花氏、禁煙について語る~

f:id:Ada_bana:20160801225028j:plain

正直、このレビューは果たして書いていいものかと、私は悩んだ。しかし、やはり湧き上がる「書きてえなぁ」という思いを抑え込むことは至難の業であり、束の間の懊悩は春の霞のごとく、それはもう鮮やかにかき消えてしまったため、私は嬉々として筆を執った次第である。

もくじ

というわけで、今回紹介するのはコチラである。

読むだけで絶対やめられる禁煙セラピー [セラピーシリーズ] (ムックセレクト)

読むだけで絶対やめられる禁煙セラピー [セラピーシリーズ] (ムックセレクト)

 

喫煙者はおそらく、一度くらいは見聞きしたことがあるだろう伝説の書籍だ。なにしろ、装丁で「読むだけで絶対やめられる」と断言している。すごい自信である。

そして実際、本書を読んだ多くのスモーカーたちがタバコと縁を切るのに成功している。ある意味、恐ろしき本である。その恐ろしさは、ついつい非スモーカーでも読みたくなるほどだ。

禁煙したい人は本エントリーを読むべからず

まずはなぜ、私が本書の解説を書くことを逡巡したかについて述べなければなるまい。それはひとえに、これから本書で禁煙しようとしている善良なる喫煙者が、本エントリーを読むことで禁煙に失敗してしまう(つまり、本書の魔力を損なってしまう)可能性があると考えたからである。

これが単に徒花氏の自意識過剰であるかは賢明なる読者諸兄個々人の判断にゆだねるが、あくまでも私は本書の魔力を削ぐことを本懐としているわけではなく、禁煙を願う人にはぜひとも禁煙を成功してほしいと心より願っているので、たとえ微レ存であろうとも、本エントリーがネガティブな影響を与える可能性があることを述べるのが倫理*1にかなっているのではないかという考えの下で書きつづっていることはご了承いただきたい。*2

だからこそ、本エントリーは、①現在、タバコを吸う習慣がある ②禁煙したいという願望を1ミクロンでも持っている ③今後、本書で禁煙に挑むことがあるかもしれない の条件に当てはまる人は、読まないほうが無難ダヨ――と但し書いておく。

本書はハウツー本ではない

おそらく、読んだ人もそうでない人も抱いている、本書に対する大いなる誤解のひとつが、「本書は禁煙のためのハウツー本である」というものではないだろうか。ハウツー本というのは、たとえばTOEICや簿記の合格など、ある特定の目的を達成するための具体的なテクニックを体系立てて伝える書籍のことを指す。だが、本書は具体的にどうやって禁煙すればいいのか、ということは教えていない。だから、本書は禁煙のハウツー本ではない。*3

では、なぜ教えてくれないのか? なぜそんなイジワルをするのか?

その理由は単純だ。タバコをやめるためのハウツーなんて存在しないからである。つまり、タバコをやめる唯一の方法は「タバコを吸わない」ことであり、それ以外の方法はない。だから、本書はタバコを止める方法を意図的に説明していないのではなく、そもそもそんな方法は書きようがないのである。

本書は○○○○書である

じゃあこの本はなんなのか? ジャンル的には、どう分類されるのか?

その問いに対する答えは自己啓発書である。自己啓発書とは何ぞや、という質問に答えるのは、ハウツー本の定義を説明するよりもちょっとムツカシイ。しかし、徒花なりに説明すると「人生を(世間一般の価値判断基準に照らし合わせると)良い方向に向かわせる洗脳書」である。もうちょっとソフティーな言い方をすると、「読者の“考え方”を変える書物」といっても差し支えない。

つまり、本書は「タバコ教」の信者どもを「非タバコ教」に改宗させるための宗教書であり、位置づけとしては『旧約聖書』とか『クルアーン』に近いものなのだ。耳触りの悪い言い方をあえてすれば、本書で禁煙に成功した人は本書に洗脳された人であり、無意識のうちに改宗させられた哀れな仔羊なのである。

本書のもうひとつの誤解

本書に関して、もうひとつ、多くの人が抱いている誤解があると思う。それは「大事なのは本書の内容である」という考えだ。これは完全に間違いである。

たとえば、私がこのエントリーで『禁煙セラピー』の内容を、エッセンスだけ抽出し、簡潔にまとめて公開したとしよう。もちろん無料なので、『禁煙セラピー』を購入しようかと悩んでいるスモーカーの人はまずネットで検索し、このブログにたどり着き、その内容を読んで禁煙を決意しようとするかもしれない。だが、絶っっっ対にそれではタバコをやめることができないと私は断言できる。

なぜなら、大切なのは「『禁煙セラピー』を読むこと」であり、「『禁煙セラピー』に書いてある内容を知ること」ではないからだ。これも、本書がハウツー本ではないことを裏付ける要因となるだろう。

では、この2つにどのような差があるのかを、『禁煙セラピー』の特徴とともに以下、説明していく。

『禁煙セラピー』最大の特徴

本書の特徴――それは同じことが何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何口も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何目も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何廻も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も繰り返されている点である。

ものすごーーーーーーーーーーーーく端的に『禁煙セラピー』に書かれていることを要約すると以下の一文になる。

「タバコを吸う理由は、ない」

本書ではありとあらゆる言葉を使い、ありとあらゆる言い回しをして、ありとあらゆる角度から、この一文がひたすら続いているだけなのだ。つまりこれ、書籍版のサブリミナル効果ともいえる。だから、本書を読み終えるころには、読者の深層心理の中に「タバコは、吸う意味がない」という言葉が染みつけられることになり、ついついそれに従ってタバコを吸わなくなるのである。これこそが、「『禁煙セラピー』を読めばタバコがやめられる」のトリックだ。

もうひとつの仕掛け

本書にはもうひとつ、喫煙者の心理を巧妙に突いた仕掛けが施されている。それは「タバコを憎んでスモーカーを憎まず」という姿勢が終始徹底されている点である。

そもそも、喫煙者は総じてひねくれ者の天邪鬼である。そうでなければ、健康に悪いとこれだけ喧伝されている紫色の煙を好きこのんで肺の中に吸い込むはずがない。

だから、彼らは周囲の人間から「やめなよ~」と言われれば言われるほど、「喫煙者は減少傾向にある」というニュースを見れば見るほど、タバコの新たな害が見つかれば見つかるほど、そして税金が上乗せされて吸う場所が減り迫害されればされるほど、ますますタバコを吸い続けたくなるものなのだ。スモーカーというのはそういう人種なのである。

そんな彼らに向かって、「タバコを吸うのは馬鹿だ」「タバコを吸うやつは貧乏人ばかりだ」「タバコを吸う人間は周囲にも迷惑をかける悪者だ」などと非難すれば、彼らのタバコ愛はさらに深まり、さながら世間から迫害されるタバコという美少女を腕に抱きながら世界を相手に戦うヒーローのような心境になって、意固地になるのである。

スモーカー心理を熟知した著者

著書のアレン・カー氏は、自らが数十年にわたってヘビースモーカーだったから、こうしたスモーカー心理を熟知している。だからこそ、彼はむしろ、本書の冒頭部分で次のようなことを書いている。

ただし、現在タバコを吸っている人は、本書を読み終えるまでタバコをやめないでください。矛盾していると思われるかもしれませんが、いいのです。

もうわかるだろう。天邪鬼なスモーカーはこういわれると、なんだか無性にタバコが止めたくなってくるものなのだ(マジで)。このような文言は、本の途中でも何度か繰り返される。「まだやめちゃだめですよ~」という感じだ。こう書かれると、スモーカーはなんとかして読んでいる途中からタバコを吸うのをやめたくなってくる。

さらに、アレン・カーは次のようにも述べる。

友人や同僚でタバコを吸う人をちょっと観察してごらんなさい。予想に反し、そのほとんどが意志の強い人達でしょう。

このように、本書の中ではあまり、タバコを吸っている人たちの悪口を言わない(まったく言わないわけではない)。また、タバコの悪影響も、過度に指摘しない。どちらかといえば、「タバコを吸うのは意味がない」というメッセージのほうが強い。つまり、過度にスモーカーおよびタバコを糾弾しないのである。アレン・カー氏はすべてのスモーカーは必ずタバコをやめることができると信頼しているのが、行間から読者はひしひしと感じられるのだ。そして、大いに自尊心を刺激されるのである。

おわりに

最後に、私自身の話をしよう。

私はかれこれ、10年くらいタバコを吸い続けている。アレン・カー氏ほど年季も入っていないし、ヘビースモーカーでもないが、やめようと思って失敗したこともある。その私が、なんと!禁煙に今のところ成功しているのだ!

ただ、私はスモーカーにしては珍しく、非常に素直で実直な人間なので、彼の指示に言葉通りに従い「まだ全部読み終わってないから吸ってもいいんだよな」と考えた。しかし、そんな私でも、読み終わってからこの文章を書いているこの時点(2016年8月1日23:30)まで、3時間くらい禁煙に成功している。やはり『禁煙セラピー』はすごい。*4

 

それでは、今回はこんなところで。

お粗末さまでした。

*1:私が嫌いな言葉のひとつである

*2:ちなみに、本エントリーがこんなに回りくどい文体になったのはマーク・トウェインの『ジム・スマイリーの跳び蛙: マーク・トウェイン傑作選 (新潮文庫)』を読んだことが少なからず影響している可能性は否定しきれない

*3:もちろん、ハウツー本だと勘違いしたまま読み進めても本書の効果が薄れることはないだろうが

*4:いやほんとに、このエントリーのせいで禁煙に失敗してしまった人が出たら申し訳ない。お詫びとして、誰か私のせいで禁煙に失敗したと報告してくれたら、私も一緒に喫煙を再開する恐ろしい罰を甘んじて受けることにする