本で死ぬ

基本的には本の話。でもたまに別の話。

『脳内麻薬』のレビュー~愛はお金で買えます……脳科学的には~

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ブロガーに「なぜあなたはブログを書いているのですか?」と質問すると、いろいろな答えが返ってくるだろう。

もくじ

「文章を書くのが好きだから」「ほかの人に自分を理解してもらいたいから」「多くの人に賞賛・注目されたいから」「アフィリエイトなどのビジネスで儲けたいから」「多くの人に知識を提供したいから」などなど。

しかし、どの理由も共通していることがある。それは、「その目標が達成されたとき、その人の脳内でドーパミンなどの快楽物質がドバーッと出る」ということだ。もっと端的な言い方をすれば、ブログを書いている人はひとりの例外もなく、「自己の快楽」を目的としている。ブログを書くことに限らず、この世に生きているほぼすべての人間は突き詰めて考えれば、脳内にある快楽物質を放出させるために行動している、ともいえるのだ。

そうした「脳内麻薬(快楽をもたらす神経伝達物質)」について簡潔かつ丁寧に、わかりやすく、コンパクトにまとめられた書籍が、今回紹介する『脳内麻薬 人間を支配する快楽物質ドーパミンの正体』である。

脳内麻薬 人間を支配する快楽物質ドーパミンの正体 (幻冬舎新書)

脳内麻薬 人間を支配する快楽物質ドーパミンの正体 (幻冬舎新書)

 

著者・中野信子氏について

著者の中野信子氏は東京大学で学んだあとにフランスの原子力庁サクレー研究所に勤め、日本に帰ってきてからはタレント活動をしている人物。2015年には東日本国際大学特認教授に就任し、脳や心理学などの研究を行っているらしいが、同大学のホームページをみるとなぜか「経済経営学部」で「脳科学基礎論」を教えているようだ……ふしぎだ。ここらへんはあまり深く触れないほうがいいのかな?

http://www.shk-ac.jp/department_economic_teaching_staff.html

なお、2015年1月に放送された『情熱大陸』に出演した際には、じつは黒髪がウィッグで、じつは金髪でけっこうヤンチャな人だったということが話題となったらしい。

中野氏のことを茶化してしまったが、本書はいい本である。もちろん、徒花は脳科学や心理学の専門家ではないので、本書で中野氏がテキトーなことばっかりそれを判別できないが、そこらへんは版元の幻冬舎と中野氏を信頼しておく。以下、本書の中からとくにおもしろいと思ったトピックスを抜粋して、紹介していこう。

すべての行動は依存症になりうる?

かつては「中毒」、最近では「依存症」という言葉を使う。一番ポピュラーなのは「薬物依存症」「アルコール依存症」「ニコチン依存症」「ギャンブル依存症」など、いかにもネガティブなものばかりだが、ある意味、人間のあらゆる行為は依存症になりうる。

たとえば、「ランナーズハイ」というのは、「ランニング依存症」だ。極限まで体を痛めつけて走り続けると、脳みそではその痛みを緩和するために「β-エンドルフィン」という神経伝達物質が放出されると考えられている。このエンドルフィンという物質はモルヒネの6.5倍もの作用を持つとされているので、めちゃくちゃ強烈だ。だから、走り続けたくなってしまう。

愛はお金で買える

本書の中でおそらく一番衝撃的なのが、以下の文章だろう。引用する(太字は徒花)

(前略)平均年齢21歳の男女19人が「報酬としてお金を得たとき」と「褒められたとき」の脳の状態を比較しました。
その結果、他人に褒められたときに反応する脳の部位と、金銭をもらったときに反応する脳の部位は、まったく同じ部分(線条体)であることがわかりました。
つまり、「社会的報酬」とは言葉の上の遊びではなく、脳にとってはまさしく「報酬」そのものであることを示しています。それだけではなく、社会的報酬と金銭的・生理的報酬が脳の同じ部分で評価されているという事実は、これらが交換可能であることを示します。非常に単純化してしまうと、「お金」で「友情」や「愛情」が買えるということです。逆に、「愛情」を「お金」に換えることもできます。

この文章を読んでどのように感じるかは十人十色だろうが、徒花は「素晴らしいな」と思った。

つまり、「金銭」「友情」「愛情」とは資産というくくりで見れば同じものであり、たとえお金がなくても、同じくらいの友情や愛情を持っている人は資産家である――と考えられるからだ。これに従えば、マハトマ・ガンジーとかマザー・テレサは「お金」という資産は持っていなかったが、「愛情」「友情」という資産を持っていたがために、食うに困ることはなかったし、むしろ世界中から尊敬を集めることができたのだろう。(もちろん、これもどれに偏るよりは「お金」「友情」「愛情」をバランスを持って増やしていくことが大切だとは思う)

ここで冒頭の話に戻る。ブログを書く理由は人それぞれだが、ブログを書き続けている人々はなにかしらの報酬を得ているのだ。それがお金の人もいるだろうし、友情の人もいるだろうし、自己肯定感(自分に対する愛情)だったりするだろうが。

なぜ、人は生きることに「意味」が必要なのか?

人間とそれ以外の動物の違いを判断することは難しいが、本書では人間特有の非常に奇妙な能力として「自分が生きていく意味を知ろうとする」働きに着目している。

本来、動物である以上、食う寝るヤるが満たされれば、それで幸せなはずだが、人間の場合、そうはならない。人間はそれとは別に「自分が生きる意味(目的)を持ちたがるイキモノ」なのだ。そして、人間は「利他的な行動によって快楽を得ることができる」稀有な存在でもある。だからこそ、「誰かに感謝された → 他人の役に立った → 自分には生きている意味がある → ドーパミンドバーッ」というメカニズムがはたらくわけだ。

そしてじつは、なぜこのようなメカニズムが人間に備わっているのかはよくわかっていない。推測のひとつして、人間という種族が社会(集団)を構成して互いに助け合って生きていくことを生存戦略として選択したことが影響していることが考えられる。つまり、「仲間を助けることが自分の生存チャンスを高める」ことが本能的にインプットされている可能性があるのだ。

これを考えると、もしかすると、その意味においてこの世には「真に利他的な行動」というのは存在し得ないのかもしれない。原罪を負ったイエス・キリストだって、磔刑に処されて死ぬ瞬間に「これで人間を救える」と考えて脳内でドーパミンドバーッになっていたとするなら、それは利己的な行動ともいえるからだ。

金銭を報酬にすると人はバカになる…

サム・グラックスバーグという科学者がある実験を行った。ローソク・画びょう1箱・マッチを用意し、なにもない壁にローソクを取り付けてほしいとお願いするのだ。さて、どうすればローソクを壁に取り付けられるか、わかるだろうか?

画びょうでローソクを刺す? ムリムリ、蝋燭が太すぎてすぐ外れる。 マッチでろうの一部を溶かして壁にくっつける? それも、そううまくはいかない。正解は「画びょうを箱から全部取り出して、画びょうで空箱を壁に固定する。その上にローソクを立てる」というもの。ちょっと頭をひねる必要がある問題だ。グラックスバーグは被験者を2つのグループに分けて、この問題を解いてもらった。

ただし、Aグループには「この種の問題を解くのに、普通はどのくらいの時間がかかるのかを調査したい」とだけ説明したのに対し、Bグループには「問題を早く解いた上位25%の人に5ドル、1番になった人には20ドル差し上げます」と、金銭的報酬を提示したのだ。

その結果、どうなったか?

端的に言えば、Bグループの人たちのほうが問題を解くのに時間がかかった。つまり、金銭的な報酬をえさにすると、ちょっと知性が必要な課題解決には逆効果になる可能性があるのだ。

もしくは、こうもいえる。「名誉など、金銭以外の報酬をえさにしたほうが、ちょっと知性が必要な課題解決能力が高まる」ということだ。Aグループの人たちは、実験に参加しても金銭的な報酬は得られないが、「調査の役に立った」という金銭以外の報酬を得ている。だからこそ、Bグループより短時間で正解にたどり着けたのかもしれないのだ。

おわりに

「世界的な欧米の大富豪はなぜ慈善事業をするのか?」という疑問に考えを投じている記事がある。

上の記事の結論を端的に言えば「欧米ではノブレス・オブリージュ(高貴なる者の義務)という感覚が文化的に根付いているから」というものになるが、どうだろうか? たしかにそういう要素もあるかもしれないが、今回のエントリーで説明したことを踏まえると、「金銭的な報酬はもう飽きたから、名誉とか社会貢献とかで得られる金銭以外の快楽を味わいたい」という心理的なメカニズムがはたらいているように感じられる。つまり、大富豪たちは慈善事業に自分の財産を投じることによって、金銭では得られない快楽を“購入”しているとも解釈できるわけだ。

かなり、穿ってひねくれた考え方かもしれないが。。。

 

今回はこんなところで。

それでは、お粗末さまでした。