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本で死ぬ

基本的には本の話。でもたまに別の話。

『日本をダメにしたB層の研究』のレビュー~あなたも「B層」、私も「B層」~

社会

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いまでこそ「テロリズム」という言葉が市民権を持ち、日常生活のなかで

「奥さん聞きました? ご近所のお宅、テロにあったんですって」

「あらー、怖いわねー」

という会話が日常的に聞かれるようになった今日この頃だが、この言葉のルーツをご存知だろうか。

 もくじ

「テロ」の語源はロベスピエール

そもそもテロリズムとは「政治的な目的を達成するために人々に恐怖を与える行為に及ぶこと」のことだ。その起源をたどると、フランス革命に行き着く。ご存知の通り、フランス革命絶対王政にあぐらをかいていた王族にガチギレした貴族・市民らが武力によって国家を転覆させた事件である。

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民衆を導く自由の女神』ウジェーヌ・ドラクロワ

――とはいっても、バスティーユの監獄を襲撃したような、民衆の一揆的な暴力活動が「テロ」の語源ではない。むしろ革命が成功した後に成立した、悪名高いマクシミリアン・ロベスピエールの敷いた恐怖政治が起源なのだ。

もともとフランス語で恐怖は「terreur(テルール)」というが、このロベスピエールの統治があまりにも人々の恐怖を掻き立てたので、ここから恐怖政治そのものを「terreur」というようになり、これが「テロリズム」になったのだ。テロを行うのは必ずしも社会的な弱者(もしくはマイノリティ)とは限らない。

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マクシミリアン・ロベスピエール。足元でじゃれつく子犬(?)がかわいい

余談だが、混同しやすい言葉のひとつ、「クーデター」もフランス語発祥だ。フランス語で表記すると「coup d'État」――直訳すれば「国家に対する一撃」である。かっこいい。こちらは「恐怖(暴力)によって政変を達成する」行為であるため、テロリズムのように民衆への恐怖政治は含まれない。

『日本をダメにしたB層の研究』について

いつものように前置きが長くなったが、ここからが本題だ。*1

さて、「テロ」という言葉は知っていても、その語源がフランス革命の、しかも為政者による恐怖政治にあることを知っていた人はどれだけいるだろうか? 言葉が一般化するとき、多くの場合、そのルーツまではきちんと説明されず、テレビや雑誌などで頻繁に使われる文脈からイメージだけが醸成されていく。やがてそれがコモンセンス(世間一般の共通認識)となるわけだ。

こういうのに疑問を抱かず、世間一般に浸透している(と勝手に思い込んでいる)イメージだけで物事を捉えてしまうのであれば、それは問題だ。そんなあなたは「日本をダメにしたB層」かもしれない。はいここで書影*2

日本をダメにしたB層の研究 (講談社+α文庫)

日本をダメにしたB層の研究 (講談社+α文庫)

 

B層というワード、記憶力がいい人なら覚えているかもしれない。徒花は忘れていたが、本書を読んで「ああ、そんなこともあったな」と思い出した。説明しよう。

時は2005年――当時、「自民党をぶっ壊す」と宣言したライオン宰相・小泉潤一郎首相は国民からの高い人気を背景に、郵政事業の民営化を目論んでいた。そんなおり、6月に開かれた特別委員会で、日本共産党の議員がどこかからか入手したとある企画書を公表したのである。

それは自民党に委託されたスリードという広告会社が立案した自民党のイメージ戦略だったのだ。そこには国民を「A層」「B層」「C層」「D層」の4つに分類し、「知識はないがイメージ(なんとなく小泉純一郎ならいいだろ!)に左右されやすいB層を攻めるべし」と書かれていたのだ。しかも、この分類にはIQの高い低いが基準として採用されていたことから、「国民をバカにしている、ケシカラン」と非難が巻き起こったのである。

ちなみに、有限会社スリードは現在でも存続している。

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S.L.I.E.D CO.,LTD.より

4つの分類

それでは、それぞれの属性を簡潔に説明していこう。*3

●A層

この層に分類されるのは「財界勝ち組企業」「大学教授」「マスメディア」「都市部ホワイトカラー」の人々である。つまり、「学力が高く、金がある人々」だ。ただし、個人的には「都市部ホワイトカラー」だと語弊があるように感じられる。私も都市部で働くホワイトカラーだが、自分がとても財界勝ち組企業や大学教授に比肩するような「カシコイ」人間とは思えない。ので、ここでいう「都市部のホワイトカラー」とは、超大手企業に勤めてそれなりに役職のある――年収で言えば800万円以上くらいはもらっている――人物だと考えたほうが妥当だろう。自分が年で働いているホワイトカラーだからといってここに分類されると考えたら大間違いである。

B層

この層に分類されるのは「主婦」「若年」「シルバー層」の人々。つまり、IQは低いし、社会的な力も強くはないが、数だけはいるという人々だ。彼らはイメージによって賛成したり、反対したりする。個人的には、オトナであってもこのB層に分類される人は多いのではないかと考えている。

●C層

IQは高いが、構造改革には否定的な保守派。具体的にどういう人たちが当てはまるのかよくわからないが、イメージ的には「周りに流されず、自分の頭で物事を考えている人々」というような感じだろうか?

●D層

「失業した経験のある者」など、構造改革に恐怖を抱いている層。こちらもあまりほかの具体的なケースが述べられていないので分かりづらいが、印象としては「無視しても問題ない社会的な弱者」と受け取っても良いように感じる。

このように分類してはいるものの、いまいちどういうのが問題にしているB層なのか、ちょっとハッキリしない部分がある。ただ、基本的に本書の著者がディスっているのはB層なので、次に本書の中からB層の特徴と思われるものをピックアップしてみよう。

これがB層の人間の特徴だ!

B層は知らないことにも口を出す

著者は「素人は専門分野に口を出すな!」と主張している。政治はもちろん、原子力発電問題や、TPPなどもだ。しかし、B層はこうした問題に首を突っ込みたがり、「賛成or反対」という意見を主張したがるという。また、さほど造詣が深くないにもかかわらずうんちくを語りたがるのもB層の特徴のようだ。

B層は「コスパ」という言葉が大好き

B層は「価値はすべてカネで判断できる」と考えている。だから、モノの良し悪しを値段で判断したがる。

B層陰謀論も好き

B層は「世界を分かりやすく理解したい」と考えているし、世界は分かりやすく理解できると考えているので、「結論ありき」で語られる陰謀論の話に食いつきやすい。確証がない主張も鵜呑みにし、信じてしまう。

B層は「エコロジー」が大好き

B層はいろいろなことに口を出すだけでなく、自分も参加したがる。だから、自分でも手軽に参加でき、「自分はいいことをしている」と感じられるエコ活動やボランティア活動が大好きだ。ここで大事なのは、実際に貢献しているかどうかではなく「参加している気分」を味わえるかどうかである。Amazon食べログのレビューも、こうしたB層の「参加したい欲」を刺激するツールである。

B層は過去の人物を上から目線で評価する

B層には「未来信仰」があり、人類は歴史を積み重ねるごとに精神的に成長していくと信じている。だから、過去の偉人がすごいことを言っていると「昔の人なのに現代にも通用するようなことを言っているってすごい」と感じてしまう。

B層は即物的な快楽にひきつけられる

食べ物も化学調味料をたっぷり入れた甘いもの、小説や音楽・映画も、どこかで見聞きしたことがあるようなテンプレの寄せ集めなど、とにかく自分が苦労したり、考えたりしなくても堪能できるものだけを求める。

B層は不安にかられて英語を勉強する

B層には自分で考える能力が欠如しているので「将来は英会話能力が必須だ」と煽られると不安になって英語を勉強する。英語を使ってなにを話すのか、までは考えが及ばない。ほかにも「~をしていないと将来、苦労する」という話を聞くと、あわててそれを身につけようとする。

B層は数字に騙される

「カロリー50%オフ」などのジュースを飲むよりも、水を飲んだほうがカロリーの絶対量は圧倒的に低い。B層はイメージに左右されるので、こうした謳い文句に弱く、よく騙される。

B層直接民主主義を肯定する

政治はプロの政治家に一任し、その失敗は政治家にとらせるべきで、国民投票や「国民の信を問う解散総選挙」などはB層の意見を反映させてしまう衆愚政治になる。しかし、素人の癖に口を出したがり、参加したがるB層はこうした「自分の意見が反映される」直接民主主義を喜ぶ。

もっと端的にポイントを絞ると、B層は素人の癖に口を出したがるし、参加したがるし、主張したがる」ということ。つまり、ブログを通じて自分の専門分野ではない時事問題に意見をすることも、B層のメルクマールのひとつなのである。大して知らないことに首を突っ込み、ブログであれやこれやと喚いている私も、立派なB層のひとりだということだ。

さて、いろいろとショッキングなことを書いたが、実際の本の原稿と比べると我ながらいくらか穏やかに書いているように思う。本書ではもっと激しく、B層を中心として大衆はもちろん、安倍首相をはじめ、橋下徹氏や小泉潤一郎氏、小沢一郎氏、菅直人氏、鳩山由紀夫氏など、およそ名前の知れた政治家をことごとく批判しているのだ。

とくに橋下氏に対しては辛らつである。「詐欺師」「天性のデマゴーグ」「知性も感じられない、底の浅さ」「いつでも日本国民の敵に回る人物」「政治に対する基本的な素養がない」「薄汚い卑劣な人間」「嘘つきは橋下のはじまり」「選挙最終日の橋下の演説はヒトラーを彷彿させるものだった」「橋下の最大の特徴は下品であることだ」「嘘と欺瞞と詐欺の積み重ね」などなど、よくまあこれだけいろいろと悪口が思いつくものだと感心してしまうほどである。

なお、個人的には以下の文章がおもしろかったので、引用しておこう。

たとえばブスは「生殖の対象にしてはいけない」という本能から導かれるカテゴリーです。こうした危機を察知する動物的な勘、本能、身体感覚は、理性偏重の世の中で失われていく。

しかし、花を見れば無条件で美しいと思う、ブスを見れば嫌だなと思う、橋下を見れば投票しない、それが本当の人の心です。

適菜収について

さてここで、こんな文章を書いた張本人・適菜収(てきな・おさむ)氏について説明しておこう。

適菜氏は1975年生まれ、山梨県出身早稲田大学の文学部に入り、そこでフリードリヒ・ニーチェを専攻した。そのため、処女作は2007年に刊行されたこの本である。*4

キリスト教は邪教です! 現代語訳『アンチクリスト』 (講談社+α新書)

キリスト教は邪教です! 現代語訳『アンチクリスト』 (講談社+α新書)

 

ちなみに、こんな本も出している。

ニーチェは見抜いていた ユダヤ・キリスト教「世界支配」のカラクリ

ニーチェは見抜いていた ユダヤ・キリスト教「世界支配」のカラクリ

 

陰謀論についてこき下ろしていながら、ベンジャミン・フルフォード氏と共著書を出しているのはなかなか興味深い。*5

まぁとにかく、適菜氏は大学卒業後、出版社での勤務を経て、作家・哲学者としてのキャリアをスタートさせた。「B層」について初めて書いたのは、この本である。

ゲーテの警告 日本を滅ぼす「B層」の正体 (講談社+α新書)

ゲーテの警告 日本を滅ぼす「B層」の正体 (講談社+α新書)

 

こんな適菜氏、ラジオには出演しているが、本人の公式ホームページを見ると、テレビやネット動画など、映像媒体への出演は拒否している。

適菜収オフィシャルサイト!はさみとぎ

上に引用した文章から分かるように物言いはかなり過激で、いかなる非難や罵倒も恐れない姿勢なので、当たり前だが人によって好き嫌いがハッキリ分かれる。とりわけ今回取り上げた本書の評価は惨憺たるもので、Amazonのレビューを見ると散々な言われようとなっている。

ただ、こうした表現はあくまで適菜氏が自分の色を出すためのパフォーマンスだろう。本人も、あとがきのなかで「文章の見せ方には工夫をしますが、内容は過去の賢者のパクリです」と、文章に趣向を凝らしていることを明らかにしている。

毒になる本、クスリになる本

それに、むしろ徒花としては、こういう本こそが世の中に必要なのだ、とすら考えている。確かに首をかしげたくなるような物言いや暴論も頻出する本だが、正しいかどうかは些末なことである。

世の中の多くの本は「なにか立派な経歴を持った人」が「なにか立派なこと」を書いていて、読むと「なるほどなぁ」と感心するものになっている。読者のダメなところを指摘したりもするが、たいてい、その言い方はマイルドで、そして同時に解決方法も提示してくれるものだ。つまり、「クスリになる本」である。

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それと比べ、本書は読む人の大部分の心をえぐるような箇所があり、明らかに「毒になる本」だ。そもそも本書では、「B層を脱却するためになにをするべきか」が一切かかれておらず、「日本はもうダメだ」という内容になっている。「クスリになる本」しか読んでこなかった人にとっては、読む意味が分からない本に違いない。*6

本に「回答」を求める愚者

しかし、毒もクスリも、使う人間、そして使い方次第である。世の中に「よい包丁」と「悪い包丁」がないのと同じだ。このことは、恋愛光学について書いたエントリーでも書いた気がする。

適菜氏は本書の中で「日本はこうあるべき」とか「B層の人はこうなるべき」とか、「そのためには読者はこうするべき」といった答えを明示していないが、それこそが適菜氏が伝えたいことなのではないだろうか。

結局、本を読んで「答え」を得ようとする姿勢はB層のそれでしかない。そうではなく、本を契機に自ら調べ、考え、判断することを適菜氏は求めているのだ(というふうに私は解釈した)。その意味で、本書は限りなく毒に違い「劇薬」であるように感じるのだ。

おわりに

ちなみに、本書の解説はネットニュースの編集などをしている中川淳一郎氏が書いているが、そこで高い「例え力」の事例を見つけたので、メモ代わりに記しておく(地の分のカッコ内は徒花が加筆した)。まああ、中川氏も適菜氏に負けず劣らず口が悪い。気になる人はTwitterをチェックだ。

もしも適菜氏がテレビに出た経験を持つのであれば、ちょっと(解説文の)書き方を考えなくてはな、と思ったのである。適菜氏は、現在の日本のモノカキ界隈でも最高クラスの悪口の達人である。そんな同氏が、バカと暇人からいかに時間泥棒をするかしか考えていない最強のメディア・テレビに嬉々として出演している姿が存在するのであれば、この「解説」も当初予定していた構成とは異なるものにしなくてはならない、と考えたのだ。だが、(担当編集である)H氏の答えはこうだった。

「出るわけないでしょう(苦笑)」

これでオレは内心「ウヒヒ」とほくそ笑み、「やっぱりそうか、良かった」とあたかも憧れの美女の巨乳が、シリコンを詰めた胸ではないことに安堵するかのような気持ちになり、今、キーボードに向かっているのである。

書物に答えを求めてはいけない。本を愛するすべての人は、このことを胸に刻んでおくべきだろう。もちろんこれ、ブログも同じである。最後は必ず、自分で考えなければいけないのだ。

 

それでは、お粗末さまでした。

*1:とはいっても、上記のテロに関する語源は本書に書いてあったものである。

*2:書影(しょえい)というのは本の外観のことだが、変換できないから業界用語なのかもしれない

*3:なお、この属性はあくまでも「郵政民営化」に対して作られた区切りなので、本来的には「構造改革に反対か賛成か」が基準のひとつとなっている。が、本書の中ではそれだけにとどまらず、社会を構成する人々をより広い視点から区切るために用いているため、私もその基準に沿い、独自の見解を交えながら極力分かりやすく伝えて意向と思っているのでそこはご了承いただきたい。

*4:名前はおらくペンネームだろうが、どういういきさつでこの名前になったのかは分からない。

*5:徒花はフルフォード氏とお会いしてお話したことがあるが、実際はすごくいい人である。そして日本語はペラペーラだ。

*6:世の中には「毒にもクスリにもならない本」だってあふれているし、徒花としてはそうした本のほうが存在意義を疑ってしまう。