本で死ぬ ver2.0

基本的には本の話。でもたまに別の話。

『僕は愛を証明しようと思う。』のレビュー~恋愛工学はあくまでツールである~

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トピック「恋愛工学」について

「恋愛工学」というものがある。

もくじ

これは、藤沢数希氏によって提唱された学問(?)で、「高度なリスク・マネジメントの技法を恋愛に応用」し、男性が女性とうまくSEXするためのテクニックをまとめたものだ。今回レビューするのはそんな藤沢氏の近著『僕は愛を証明しようと思う。』である。

藤沢数希氏について

生年月日、および出生地は不明。理論物理学、コンピューター・シミュレーションの分野で博士号を取得し、欧米の研究機関で研究職に就いた後、外資投資銀行に転身。以後、マーケットの定量分析、経済予測、トレーディング業務などに従事して、現在は作家・投資家として活動しているようである。ビジネス・投資系の本をこれまでも出版している人物だ。

 

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また、Web上での情報発信も積極的に行っている。自身の個人ブログ「金融日記」は月間100万PVを超える人気らしく、ほかにもBLOGOSのメルマガで「週刊金曜日」も連載している。「金融日記」はファイナンス原論や読んだ本の感想なども載っているまさに個人ブログで、「週刊金曜日」はそのなかから「読ませる内容」を抽出したような連載コラムである。

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もちろん、どちらにも恋愛工学について書かれているが、今回紹介する本の元となっているのはコラムサイトcakesで連載していた小説「僕は愛を証明しようと思う。」である。こちらは内容を完全に恋愛工学に絞っており、しかも小説という体裁になっている点で異色だ。

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『僕は愛を証明しようと思う。』のレビュー(ネタバレなし)

ぼくは愛を証明しようと思う。

ぼくは愛を証明しようと思う。

 

というわけで、今回紹介する本書はcakesの連載をそのまま紙の本にまとめたものである(もちろん、本にまとめるにあたって著者本人や編集者による修正は行われているだろうけど)これがかなり売れている。とりあえず、あらすじを以下にまとめてみた。

恋人に振られたばかりの平凡なサラリーマン・渡辺は、あることをきっかけに恋愛のカリスマ・永沢に出会い、恋愛工学に基づいた「女性と効率的にSEXする方法」を教わる。渡辺はその手法を駆使してこれまでの彼の人生からは考えられないほどの女性たちと付き合い、経験を積んで調子に乗っていく。果たして恋愛工学により、彼の人生に幸せは訪れるのか?

ジャンル的には、小説という体裁を取った恋愛の実用書である。まず書籍の編集者である私が本書に対して思ったのは「売り方がうまい!」ということだった。そもそも、恋愛はどんな時代であってもつねに男が思い悩むものであるから、その指南書は高い潜在的なニーズがある。しかし、だからといって「モテる」を表に出すと売れなくなってしまうのだ。たとえば本書も『恋愛工学のススメ―こうすれば女とSEXできる!―』とかのタイトルだったら、絶対にここまで売れなかっただろう。

男にはプライドという厄介なものがある。だから、こんな「自分はモテない男です」と周知させるような本を本屋で買うのは、ある意味エロ本を買うより恥ずかしいと感じるのだ。電子書籍ならまだ売れるかもしれないが、それでもここまでのヒットにはならなかっただろう。このタイトルをつけたのが著者なのか、それともcakesの担当者なのかは知らないが、素晴らしいネーミングである。

さて、肝心の中身だが、まず、このエントリーでは恋愛工学の具体的なテクニックについては書かないことはご了承いただきたい。この本の購買意欲を削いでしまうし、そもそもネットで調べればいくらでも出てくるので、そちらを参考にしていただこう。

徒花が個人的に感じたところでは、本書で述べられている恋愛工学は非常に説得力があり、一通り読んで理解すれば自分にもできそうになってくる。根本の概念は「女はモテる男に惹かれる」ということ。そして、女性は初対面の男がモテる男なのか否かを立ち居振る舞いや態度、言葉で判断する。つまり、実際にはモテていなくても、女に「こいつはモテる男だ!」と感じさせればSEXまで持って行けるということである。自信がある男がモテるのだ。

そして、本書の素晴らしいところは、ストーリーも十分面白いということである。こうした小説の体を取った実用書というのはいろいろあるが(特に最近は名著を「マンガでわかる」シリーズにして物語帳に読ませる本がいっぱいある)、メインは実用書としての効用なので、それらはストーリーがどこかやっつけでつまらないものが多い。

だが、本書は純粋に恋愛小説としても十分面白いのだ。もちろん、ちょっと説明臭すぎたり、物事がうまく運びすぎるご都合主義な部分はあるものの、さほど気になるほどではない。というよりも、起承転結の「転」の部分から最後の「結」へのつなぎ方、伏線の回収(ちょっとわかりにくいけど)、そして独語のさわやかさなどがあるため、十分新刊で購入するのをおススメできる

知恵も、技術も、使う人間次第

ただし!

繰り返すが、本書の基本的な性質は効率的に女とSEXするための方法を伝授する恋愛指南書だ。つまり、メインターゲットは女に飢えている男である。最後まで読めば永沢や著者が決して女性を侮蔑しているわけではないということがわかるはずだが、ちょいちょい女性を蔑視するような表現が出てくるので、人によってはそうした個所に嫌悪感を抱く人がいるかもしれない。そこだけは留意しておいたほうがいいだろう。

実際、恋愛工学についてあまり好意的な意見を持っていない人もいる。たとえばこんな意見や、こんな意見である。あまりやたらめったら人に勧められる本ではないことは確かだ。とはいえ、個人的にはなかなか納得して読めたし、面白かった。おそらくそれは、徒花の個人的な経験と照らし合わせて納得できた部分もあったからだろう。

というのも、私は一時期、出会い系サイトにハマっていて、そこで売り(金銭目的で肉体関係を結ぶ人)以外の一般の人と同時に複数、関係を持ったことがあるのだ。この時のことはまた別のエントリーで書くことがあるかもしれない。

まぁとにかく、女性とSEXをしたいと切望している男ならば本書を読んで損はないだろう。もちろん、恋愛工学は万能ではないし、本書の内容にもあるように、この技法は調子に乗って使うととんでもない火傷をすることもある。また、一生を供にする生涯の伴侶を探したい人にとってはあまり役立たないかもしれない。

これは本書に限った話ではないが、ビジネスにしても投資にしても恋愛にしても、基本的に実用書に書かれている内容は鵜呑みにしすぎないようにすることが大切だ。内容をバカにして利用しないのも愚かだが、信じすぎるのもまた愚行である。恋愛工学はそうしたことをちゃんとわかっている「オトナの男」が使うべきツールだろう。ツールである以上、それを活かすも殺すも、使う人間次第なのである。

 登場人物の名前は村上春樹の小説のキャラに由来

あ、ちなみにこの作品の主要な登場人物は村上春樹氏の『ノルウェイの森』をオマージュして名前がつけられているらしい。しかし、徒花はじつは村上春樹氏の文章があまり好きではなく、『羊をめぐる冒険』『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』『海辺のカフカ』しか読んでいないので、あまりピンと来なかった。

ノルウェイの森 文庫 全2巻 完結セット (講談社文庫)

ノルウェイの森 文庫 全2巻 完結セット (講談社文庫)

 

むしろ私は「永沢」といったらアニメ『ちびまる子ちゃん』のあのオニオンヘッドの少年しか出てこなかったので、私の頭の中ではあの永沢君が恋愛工学を教えているイメージしか出てこず、違和感しか感じなかったことを付け加えておく。 下で紹介している本は中学生になった永沢君を主人公にしたもので、お嬢様っぽい見た目の城ヶ崎さんがいろいろ大変なことになるマンガ作品だ。

永沢君 (イッキコミックス)

永沢君 (イッキコミックス)

 

 

というわけで、お粗末さまでした。