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本で死ぬ

基本的には本の話。でもたまに別の話。

はじめての上念司~『高学歴社員が組織を滅ぼす』のレビュー~

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私は今年の初めから楽天証券で株式投資を始めた*1。せっかく日本の株式相場がいい感じになってきたので、今のうちに儲けられるなら儲けておこうという魂胆だ。

 

おかげさまで、(貧弱な投資金額ながら)資金額の10%くらいは資産が増えていたのだが、そこに発生したのが先日の中国のバブル崩壊である。現在若干持ち直しつつあるものの、これまでに得ていた利益が一気に吹き飛んでしまっている。とはいえ、中国の影響は限定的なはず!だと思っているので、とりあえずポジションは維持したまま、株価の推移を見守っている次第だ。やはり、投資は余裕資産でしなければならないものだと改めて実感した……

さて、そんな日本の株式市場だが、とりあえず数年前よりも相場がよくなったのは間違いない。そのきっかけとなったのは間違いなくアベノミクスの一部である日本銀行による大胆な金融緩和だろう。市中の貨幣供給量(マネーサプライ)を増加させたことにより、これまで長らく続いていたデフレーションから脱却しつつあり、同時に円安も進んでいる。そして、今回紹介する本の著者、上念司氏は民主党政権時代から「デフレ脱却のためにはインフレターゲットを定めた量的緩和が必要である」と訴え続けてきた経済評論家なのだ。

上念司氏について

1969年東京都生まれ。中央大学を卒業後は現在の新生銀行のルーツである日本長期信用銀行に勤め、学習塾勤務を経て、同じく経済評論家である勝間和代氏とともに株式会社・監査と分析を設立して同社の代表取締役を務めている。

学習塾の勤務というのが、経済評論家としてはちょっと変わった経歴だ。監査と分析はなにをしている会社なのかよくわからないが、おそらく勝間和代氏および上念司氏の諸活動を管理している事務所と思われる。下の画像は同社のトップページである。

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勝間氏のほうがメディアへの露出が多く、知名度も高いが、じつは上念氏も数多くの著作を出版しており、経済系の本をよく読む人なら名前を知らない人はいないだろう。ちなみに、Wikipediaによればグレイシー柔術の使い手でもあるようだ。グレイシー柔術とはいわゆるブラジリアン柔術のことで、創始者の名前から取られた別名。ブラジルに移住した日本人柔道家・前田光世氏がカーロス・グレイシー、ジュルジ・グレイシーなどに伝え、発展していったという。

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前田光世氏。上の写真の勝間氏とポーズが似ているのはたぶん偶然。

さて、そんな上念氏のおもな主張のひとつは、冒頭でも述べたように、脱デフレ政策の推進である。現在の日銀総裁黒田東彦(くろだ・はるひこ)氏だが、その前任者である白川方明氏の金融政策は「デフレを助長する」として痛烈に批判していた。そういった本は、『「日銀貴族」が国を滅ぼす』などに詳しい。

「日銀貴族」が国を滅ぼす 光文社新書

「日銀貴族」が国を滅ぼす 光文社新書

 

また、拡大を続ける日本の財政赤字については「日本のように変動相場制を採用している国の自国通貨建ての債務においてのデフォルトは起こり得ない」として、国家破産の可能性を真っ向から否定。著書のタイトルでもある『日本は破産しない!』(宝島社)は同氏のキャッチコピーにもなっていて、Facebookの背景などにも使っている。そのため、基本的にはアベノミクスを支持しているのだが、「デフレを脱却しないまま増税しても税収は増えず、財政再建はできない。」とも主張しているため、消費税の増税安倍政権の失策だと言っている。

日本は破産しない! (宝島SUGOI文庫)

日本は破産しない! (宝島SUGOI文庫)

 

国際的にみれば、固定相場制を採用している中国に対しても批判的な立場だ。こちらは『悪中論』(宝島社)などに書かれている。また、太平洋戦争(上念氏は一貫して「大東亜戦争」と呼称している)はそもそも経済政策の間違いが招いたなど、経済的な観点から日本の近代史を語ることもある。

ちなみに、上念氏は中国のことをどの本でも「シナ(支那)」と呼んでいる。これは、中国自身が英語表記で国名を「Peoples Republic of China」と定めており、シナを自称しているから日本語でその通りに呼んでいるに過ぎないと主張している。くわしくはコチラ

悪中論 ~中国がいなくても、世界経済はまわる

悪中論 ~中国がいなくても、世界経済はまわる

 

また、大学生の時にはディベートを行う弁論部の辞達学会に所属しており、論戦が滅法強いのも上念氏の特徴のひとつ。なかでも、2ちゃんねるの創設者であるひろゆき氏を完膚なきまでに論破した動画は有名だ。そのため、本の内容もきわめてロジカルで、理路整然としている。


ひろゆきが論破されたと話題の動画 上念司×ひろゆき - YouTube

 

『高学歴社員が組織を滅ぼす』のレビュー(ネタバレあり)

高学歴社員が組織を滅ぼす

高学歴社員が組織を滅ぼす

 

そんな上念氏が最近出版した新刊がこの本である。これまでの著書は日本経済や中国経済など、いわゆる経済評論本ばかりだったが、最近は『TOEICじゃない、必要なのは経済常識を身につけることだ!』(WAC)など、より読者個人に向けたビジネス書的な趣の本も出しつつある。

TOEICじゃない、必要なのは経済常識を身につけることだ! (WAC BUNKO)

TOEICじゃない、必要なのは経済常識を身につけることだ! (WAC BUNKO)

 

さて、『高学歴社員が組織を滅ぼす』の内容だが、これはタイトルの通りである。概要を言えば、変化を恐れて保守的・保身的な決定ばかり下す高学歴の人間が会社組織のトップを牛耳ると、その組織は社会の変化についていくことができず、衰退していくということを主張している。そのため、おそらくは若い社会人に向けて、そうした組織の中でうまく生き抜いていく方法を提示するものだ。

ちなみに、上念氏は千葉県の亀田総合病院の院長の言葉を借りて「TKKに気をつけろ」と述べ、おそらくはこれらの学校の出身者のことを「高学歴社員」と定義しているものと思われる。TKKとは東京大学京都大学慶応義塾大学のことだ。

内容について言えば、本書に限った話ではないが、基本的に上念氏はダメなやり方をした反面教師の例を取り上げて徹底的に叩き、持論の正当性を主張するのが得意である。そのため、本書でも自らがかつての都市銀行を始め、数々の失敗事例を挙げている。それらの例を以下に列挙してみよう。

ここでも忘れずに日銀や旧日本軍の失態をあげつらうのは、さすがの上念氏であるといわざるを得ない。あ、もちろん、トヨタやグーグル、ホンダなど、しっかり新陳代謝を行って繁栄を続けている組織の例なども、これら反面教師に比べればわずかではあるが、紹介されている。

さて、問題なのが最終章だ。章タイトルはずばり「第五章 これから、どうしていくべきか?」である。

あまり結論ばかりここでズバズバいうのはいくらネタバレをしているとはいえはばかられるが、端的に言うと、高学歴社員が率いる組織に入ってしまっている人は「自分で組織を変える」か、「組織を抜ける」のどちらかを行え!ということである。

まぁ……たしかに言い分は至極ごもっともではあるが、なかなかそれができないから多くの人は悩んでるんじゃないだろうかとも思ってしまう。それができる人は、そもそも本書を読む前にそのどちらかの行動をすでに起こしているはずだ。そして、モヤモヤした思いを抱えながらそうした組織に属している人は、本書を読んでなにが原因かを理解できても、実際に行動を起こすことは難しいだろう。

 

というわけで結論。

この本はあんまり読む価値がない。どうしても上念氏の言葉によって自分を勇気付けたいと考えているのならば構わないが、たいていの人はおそらく自分の組織の誰かを思い浮かべながら「うんうん、そうだな、やっぱりあいつが諸悪の根源なんだな」とうなずくばかりで、まったく生産的な行動に移らないままに終わるだろう。

 

それでは、お粗末さまでした。

*1:ちなみに、なぜ楽天証券化というと、普段から楽天のクレジットカードをよく使っているのでポイントがたまるのが主な理由だ